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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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相変わらず実家の弟がかたくなに湯船37度を守り通しております。
暑い日は確かに暑いですが、いい加減すごしやすくなってきた昨今、せめて39度くらいまで上げてもいいと思うのは私だけでしょうか。
しかしどうしてあいつは痩せないのでしょう。運動不足はともかくとして、仕事には納豆と飲み物と寒天ゼリーしか持っていっていないのに、あいつの体重は謎過ぎる。



『瞳の奥の秘密』
新宿で鑑賞。
マイナーな映画しか上映しない映画館ですが、よく知り合いはこういうの見つけてくるなあ。
個人的には、リチャード・ギアが主演の『クロッシング』が気になったのですが、代表作紹介で『HACHI』を持ってくるのは気の毒だと思います。他に一杯あるだろう、リチャード・ギアならば…。

ブエノスアイレスを震撼させた25年前の出来事。
その事件に関わった検事の恋。
そして被害者の夫が見せた真実の愛とは。

ぱっと見推理物なのかと思ったんですが、完全完璧最初から最後までメロドラマ的恋愛話でした。
ちょっと想像していたのと違ったのですが、役者陣のかっこよさでおつりが来る感じです。
向こうの人はとにかく女の人が積極的で、これは「恋愛をしない」方向にも影響するのですが、ドアを開けて話したり、それなのに思わせぶりな話をしたり、けれど結婚相手がいたりと、女のアプローチが男と違ってさばさばしすぎているので、嫌味がない感じです。
お前どうしたいんだよ、と女にツッコミたいのは山々なのですが、その分男もどうしたいんだと男のうじうじさも際立っているので、バランスが取れていてちょうどいいというか。
そして、女の方がインテリで上司。男は高卒のたたき上げの部下っていう関係もなんかこう、報われなさがあっていいんですよね。
「私は貴方の上司で、貴方は部下なの。私を無視しないで」
とか、一度言ってみたいなあ!

男はひげ面の、濃い以外形容できない顔でこれまた典型的なアルゼンチン人。月日が二十五年にもわたっているので、若い頃と年をとってから両方の素顔が描かれるのですが、個人的には程よくすすけた年齢になった顔の方がやわらかくて好みでした。
とにかく濃すぎるんだもん顔が。
そして、男には酒びたりの友人がいます。
職場の同僚で、気の置けない友人で、すべて協力してくれる頼るべき相棒なのに、それなのに酒におぼれていて人生を踏み外している。
そんな奴と、犯人の家を探り、危ない橋を渡り、その友人は最後に「自分の名」を名乗る。
そして、男は女と別れ、二十五年が過ぎる。
ある種、友人の行動と結果こそが、男と女を別れされる転機になったのですが、それは致し方のないことなのでした。
そして、二十五年後、暴行されて殺された女性の夫の「真実の愛」を目の当たりにして、男はついにかつての上司であり、今も愛する女の元へ向かうのだった。

ネタバレしちゃうとさすがに面白くない………というほど、推理ドラマに特化しているわけではなく、あくまで男と女の恋愛話なので、サスペンス要素は二の次だと思ってください。けれど、男が最後に女との関係を始めるために決意を固めるのは、被害者の夫のもたらした「行動」であり、それは二十五年前と変わらぬ「情熱」から生まれた愛情であり、それは傍から見ると「狂気」とも呼べるものだった、というのはある意味健全な男と女の関係とは真逆の愛で、非情に「サスペンス」映画でした。でもやっぱりメロドラマだな、これは。

新宿では『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』も上映されるようなので、これも見たいんですけど、音楽物やドキュメンタリーものは当たりはずれが激しいのでどうしようかな、と。
でも、
タンゴとは、愛、祖国への誇り。
そして人生すべてを捧げた「音楽」(ムジカ)
って年齢を重ねた(重ねるという言葉の響きが好きなんですが)人たちが胸を張って言っていると思うと、それだけで感極まるものがあります。
私は音楽に対して本当に疎いし、頭のてっぺんからつま先まで「才能」が支配する世界に対して畏怖の念もあるので、自分をそこまで表現できてしまう音楽っていう世界はこうそっと傍で覗くくらいがいいのかもしれません。才能にため息というか。
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『ガンダムUC』
やっと見ました第一話。
元々ガンダムシリーズ全く詳しくないのですが、弟が借りてきてくれたのでそのまま鑑賞。
いやあ、久しぶりに「私の想像するガンダム」作品で凄く面白かったです。
主人公が親に理由ありのある種チート能力者の少年であり、その少年が出会う少女も抱えるものが重い。
ボーイミーツガールが主題なんですけど、それを取り巻くのは少年でもなければ美青年でもない、ただ、それぞれの思想を抱えた自分勝手な大人たちっていうのが凄くらしくてよかったです。
見てない私が言うのもなんですが、種の頃からとにかく「語られる側が正義で美少年・美青年」っていうのがもう、設定からしてしんどくてですね。そこまでニーズ必死にならんでもいいというか。
ただの一般人しかも未成年が戦争に巻き込まれる、っていうのはお約束なんですけど、その未成年が初めから主張する某かを「持っている」ってこと自体がちょっとあざとくって嫌だったんですよね。
普通一般人なら戦争とか人を殺す事に対して明確な主張なんて持っていなくて「当たり前」ですから。
人殺しをしたくない。あの子を守りたい、っていうそこから未成年が否が応にも学んでいく、いかなければ死ぬっていうパターンが個人的には好きだったので、非常に満足です。
そして少年少女を取り巻く大人たちが、本当に大人で。
やっぱり顔にも個性が出るので、そういう意味でも種のキャラデザの人はどうしても好みじゃなかったのですが、外見「全くきれいじゃない」おっさんとか、おじさんとか、おばさんとかが軍の要職とか、たたき上げの前線に出ているだけで満足してしまった自分がいます。
後、特機クシャトリヤと凡庸機ジェガンの初っ端の戦闘で魂抜かれましたよ!
確かにガンダムっていうのは特別な魔法のような機体で、だからこそ戦闘シーンの演出がかっこいいっていうのもあるんですが、個人的に量産型の機体も別に「無能」な機体でもなければ、無能なものが「乗る機体」ではないわけで、そのジェガンがクシャトリヤと互角な戦いや、ファンネル避けて近接戦に持ち込むあたりは感動しました。でっかいなんとか砲をドカンと撃って終わりじゃないんだぜMSの戦闘は! というか。
でも機体としてはクシャトリヤひいきです。ファンネル系好きなので。
私はスパロボでも必死にファンネル系じゃないギュネイとか育ててた(苦笑)んですけど、やっぱりファンネルは何処となく女性的なイメージ(おそらくキュベレイのイメージ)があるので、ごっついMSの中ではひいきしてしまいます。
いえ、クシャトリヤもそうとうごっついデザインなんですけど。
出てくる登場人物もそれぞれに「責任」ある人物たちなので、嫌味がなくてすっきり見られました。続きが楽しみです。



時代小説熱がカッっとなり、古本屋で購入した『御宿かわせみシリーズ』を延々読み続けていたのですが、購入できなかった15巻でるいと東吾が結婚したっぽいのに愕然。
なんでこうも大事な巻を購入できない自分のスキルに絶望。
結局イラッとして、買い損ねた巻は改めて普通に本屋で購入しました。初めからこうしときゃよかった。
基本的に30Pの中にまとめられた物語(連載小説)なので、全体の描写もすっきりしていて読みやすいです。
私はNHKのTVドラマを先に見ていたのですが、随分演出が違ったり、話の展開が違ったりしているものもあって驚きました。
どちらがいいとか、悪いとかではなく、どちらも作品として演出がよければそれでいいので、私はあまり「原作と違うから気に入らない」という考えは持ちませんので、どちらも面白かったでいいのではないかと。
私がドラマシリーズで大好きだった「春の寺」も小説とは全然違いましたし、結婚の話の「祝言」もやっぱり違いましたしね。
テレビドラマは既に原作があるところから構成できるので、思わせぶりな演出や、話の組み合わせとして盛り上がるものを事前に用意しておく、ということができるので、そういう意味で演出過多を感じる人もいるのかもしれませんが、テレビにはテレビの、動的、絵的な美しさがあるのでそれでいいと思っております。

しかしまあ、当たり前ですけど事件が起きなきゃ始まらないので、どの話も基本的に暗いです。あんまり救いがある話もないし。
特にるいと東吾の「祝言」なんて、幸せな結婚描写の裏側で、かつての妾を捜す男の人の話が語られるのがそれがまた女の人が悲しくて。

どれだけ愛してもらっても、どれだけ後悔してもらっても、探しに来てもらっても、もうそのときの自分は何処にもいない。
東吾がどれだけ女の名を叫んでも、女は振り向きもしない。
ただ、わざと自分が商売女でることを主張するかのように、下卑た笑いでその場を振り向きもせず去っていくのであった。

男がいくら後悔して、これから大切にすると誓っても、せめて償いをさせてくれと言ってきても、それは過去を取り戻すすべには、なりはしないのだ、というお話でした。暗すぎる。




平行して、面白いと紹介されていた『みをつくし料理帖』も読んでます。
たまたま最新刊の四巻目が出ていたので、購入。
なんつうか、下世話な紹介をしちゃうとすんごいアレですよ、出てくる男性がそろいもそろってかっこいい。
こう、女性が思わずうっとりしちゃうようなキャラ設定(ちょっとアレな紹介ですが)なんですよ。
優しい紳士的な医者は常に主人公を助けてくれる。
けれど、主人公が思いを寄せているのは身分違いの正体不明の侍。料理のアドバイスをしてくれて、時折ふらっと現れては厳しいことを言って去っていく。それでも手を汚した主人公の傷をみて心配したりとかもうね! このあたりの糖度はかなり高いですよ! これを江戸の小料理屋で繰り広げているっていうんだから、どんだけ進んでるんだ江戸!(意味不明)
またこの小松原っていう侍が、主人公の事を「下がり眉」(字のまま)って呼んでいるのも超萌えます。やめろその親しげな自分だけの呼び方!

料理人が主人公の話なので、物語は全部料理に始まり、料理に終わるのですが、その描写も大変楽しめます。
私は料理をしないし、不得意なのですがそれでも読んでいて「美味しい気持ち」になれました。
その当時既に「和食」にだけ関していえばもう、料理としての創意工夫は出尽くした感があるのが凄いですね。合わせだしから、揚げ物、旬の野菜に魚に調味料まで、その当時手に入る事ができた食材を読んでいるだけでも面白いです。
茄子に、蕪に、鰤に、鱧に、ほうき草の種。
たとえ自分が調理法を知らずとも、自分の生活の中に確かにある「食」という文化の描写はどれも秀逸で、なまじ自分に馴染みがあるだけに優しい気持ちになれる作品です。
その上、蓋を開けてみれば結構なネオロマなので、まさしく女性向けの時代小説といえましょう。

基本的には、料理とそれを取り巻く人々の人情話です。色恋の話ではない、むしろ仕事人としての主人公の話ですので、逆に恋愛主体の話が苦手な方は楽しめるのではないかと思います。
要所要所の、男女の心の機微の描き方が上手いと申しましょうか。

ちなみに私が一番大好きなのは、あさひ太夫という女郎に影のようにしたがっている料理人さんで、あさひ太夫のためなら平気で人殺しをする、主人公に「俺の何処が優しいんだ」と自嘲して笑っちゃうような、陰のある又次さんです(笑)
本気で馬乗りになって相手を滅多打ちとかしちゃいますしね。主人公を別に狙ってる(おい)んじゃないところもポイント高しで、ふきちゃんっていう可愛い下足番の女の子に、無言で柿の実を登って採ってきてあげるとかお前もう不器用なその男の優しさって言うのなんだよ超萌える!
・福井二日目

泡坂「おはようございます………」
澤田「おはよう、泡坂。なんだか昨日の夜泡坂の部屋から悲鳴が聞こえたような気がしたんだが」
「ああ、それはですね、私が寝ようと思っていたら澤田さんが襲って来てですね………」
「お前それ本人を目の前にして言うか!?」
池波「澤田にそんな甲斐性があったら、逆にお赤飯だよなあ」
「まあ、あれです。ユニットバスが全く上手く使えなくてですね…。結局トイレまで満遍なく水浸しにした挙句、風呂上りにトイレ拭くはめになりましたよ。中々わびしい光景でした」
「どうしてユニットバスが水浸しになるんだ? カーテンあるだろう」
「何か、こういうことに関して一番不器用そうな澤田さんに言われると、凄く敗北感があるんですけど………」
「カーテンちゃんと、湯船の内側に入れたか? 湯船の外側にやると水が飛び跳ねるから、ちゃんと内側に入れないと意味ねえぞ」
「………入れてませんでした………」
「じゃあ、無理ないな」
「悪かったな澤田ァァァ!」
「何で俺に怒るんだ!?」
「もうほらわかったから、早く飯食って出かけるぞ。夜のうちに雨降ったらしいけど、今曇りだから早く出発しようぜ」
「ビジネスホテルの朝ごはんって感じで、ただの軽食ですけど、これで充分ですねえ。ちゃんとした名物料理はそこで食べればいいんですし」
「相変わらず池波は飯食わないな。それでよく体がもつもんだ」
「俺は朝は食わない習慣だからいいの。ほれ、鍵返して行くぞ」




道の駅 みくに到着。

「また道が空いててえらい早く着きましたねえ」
「俺たちの後ろから車がパッシングしてきたしな」
「田舎の道は仕方がねえよ。関西とかすげえ運転が乱暴で俺もあんまり走りたくねえし」
「どうせならわざとゆっくり走ってやればよかったのに」
「俺はいつ泡坂がそう言い出すのか気が気じゃなかった」
「一人ならそれもいいかもしれねえけど、同乗者がいるときはそういうことはしねえの。せっかくの旅行が台無しだろ。えーと道の駅着いたけどもうやってるのかね」
「ガイドブックによると、九時オープンだからちょうど、ですね。よーし、お土産買うぞー!!」
「ちなみに名物はなんなんだ?」
「お前なんか買うのか?」
「一応な。両親と講座くらいには」
「はい、名物はですね! 米! 蕎麦! 野菜!」
「持って帰れないだろう、米なんて…。蕎麦はともかく…」
「まあその気になれば、送ってもらえるだろうけどなあ。一人暮らしで米買ってもなあ」
「冗談です。いえ、冗談ではないですが、お土産として有名なのは、やっぱり『へしこ』でしょうかね」
「へしこな! 鯖を塩漬けにしたやつな! 酒のつまみとか、お茶漬けにしてもいいんだよな」
「そうか、じゃあ両親に一つ…」
「あと、らっきょうも有名ですね」
「花らっきょうな! 小粒なのが美味しいって有名なんだよな」
「じゃあ、それも一つ…」
「あとお菓子なら、羽生重餅と、けんけらでしょうかねえ」
「けんけらな! あれ素朴な味ですげえ美味いんだよ。こう、ばりばり食べられて香ばしくて。羽生重餅もやわらかくて美味いしさあ。いいよなあ、福井」
「………池波が生き生きしすぎている………」
「良かったじゃないですか、せめて食にくらい執着見せてくれないと、あの人得体が知れなさ過ぎて怖いですよ。まあ別に自分で食べる用途じゃないんでしょうけどね」




「また、随分買ったな、泡坂」
「ついつい買い込んでしまいました。講座と、友人と、バイト先くらいなんですけど、どれもこれも美味しそうだから」
「そうだな。道の駅って土産物屋じゃないから、普通に近所のスーパーレベルに地元の人が買い物してて、それが逆に凄くどれも美味しそうに見える」
「ほら、澤田さんこれ見てください。可愛いでしょう!」




「………なんだこれ」
「メガストラップらっきょちゃんですよ! このピンクのがラブちゃんで、黄色のがラッキー君! 可愛いでしょう?」
「よくわからん」
「可愛いですよ! 買おうっと」
「俺には大きすぎるような気がする」
「大きいからいいんじゃないですか! このちょっと頭部がゆがんだリアルさもなんともいえませんね!」
「怖いぞそのリアルさ。まあ可愛いんじゃないか?」
「おい、お前らそろそろ行くぞ。ちゃんと買ったか?」
「はい、買いました。荷物もぎゅうぎゅうに押し込んで封印しました。もう帰るまで開けられません」
「どんだけ買ったんだ泡坂は」
「俺もこういうの買った」




「………なんです? これ」
さわやかローヤル、だってよ。関東では見た事ないから買ってみた」
「どんな味なんだ?」
「うーんそうだなあ。メロン味っぽいような炭酸かなあ」
「ああ、それっぽい」
「売っている雰囲気から見ると、結構メジャーな飲み物らしいけど、このネーミングセンスに惹かれて買ってみた」
「いいですね、ローカルな買い物って」
「俺も覗いてくればよかった」
「なんなら俺の飲めよ。よし。次はいよいよ東尋坊行くぞ」




・東尋坊到着



「天気もってよかったですねえ。しかし、とことん海ですね!」
「そりゃそうだろう。崖なんだから」
「なんでも隠岐ノ島が見えることもあるんだってよ。光の屈折とか書いてあるけど」
「へえー! そうなんですか。凄いですねえ」
「どうも福井と島根の位置関係がよくわからないが、直線距離で見えるようなものではないんだな」
「たとえ直線だとしても、どんだけ離れてると思ってんだお前」
「さ、お目当ての崖行きましょう、崖!」




「結構人多いな」
「そうだな。小さい子もいるし。東尋坊そのものは金取ってるわけじゃないから、誰でも入れるんだろ」
「天気が雨じゃなくて良かったな。手すりも何もないから、足場が危ないし、雨降ったらちょっと見物厳しいだろう」
「そうだな。まあギリギリまで行かなきゃいいんだろうけど、それでも結構な迫力があるし」
「なんでこっちこないんだ、泡坂」
「い、いやいいです私は。お二人はどんどん崖を攻めちゃってください。私はここで見学してます」
「? なんだ泡坂が一番来たがってたのに。「サスペンス劇場ごっこする」とか「船越さんとかいないかな」とか言ってたのに」
「いいいや、いいです。船越さんもいませんし、何より暑いですから日陰で休んでます!」
「ああ、なんだ怖いのか泡坂」
「怖いですよ! 私別に高所恐怖症じゃないですけど、崖と海と波と岩場がセットでむき出しになってると、相当の怖さですよこれ! なんで二人とも平気でずかずか歩けるんですか!?」
「いや俺は別に元々高いとこ怖くねえしな………」
「俺も別に」
「なんだったら手でもつないでってやろうか。そしたらまだマシなんじゃねえの?」
「恐怖はマシになるかもしれませんけど別な意味でマシじゃいのでいいです! お二人とも私に構わずへりまで進んで己の度胸を試してきてください!」
「そうか? せっかくだからもう少しへりに………」
「来るな澤田ああああ!」
「何で怒鳴るんだ!?」
「わかったからもうほら、澤田お前せっかくだから見てこいよ」
「そうだな、せっかくだから」
「うううどうして他の人たちも平気なんでしょうね…。なんか、元々海が得意じゃないせいもあって、普通に怖いですよ東尋坊…」
「まあ自殺の名所だっていうしな…。名所っていうのも変だけど」
「あの、池波さんも気にせず行って来てください。私別に具合が悪いわけじゃないので」
「そんなこと気にすんな。俺は個人的に、運動神経のかけらもない奴がいつ足を踏み外すんじゃないかとそっちのほうが気が気じゃない感じで、逆に気分が悪くなってきた」
「だったら、尚更そばにいてあげたほうがいいんじゃないですかね…。確かにあの人、運動神経も平衡感覚もまるでないのに、どうしてああも、ひょいひょい断崖絶壁を平気で歩けるんでしょうね………」
「神経が鈍いんだろうな。五感に訴える感覚全部がどこか鈍いんだろ、あいつの場合…」
「難儀しますね、池波さんも………」
「何で俺限定だよ」
「満足した。岩場にこう波のしぶきが真っ白に当たってだな。でも深さはなさそうだからあそこから飛び込んでも溺死じゃなくって、滑落死になるんじゃないかな。俺はどうせならもう少し海が深いところで飛び込んだ方がいいんじゃないかと思うんだが…。でもまあ、悪い坊主を突き落とした場所だというし、死んだかどうかちゃんと確認したいのならこれくらい、岩肌むき出しのほうが死体を見失わないでいいのかも」
「ついでにデリカシーも鈍いな」
「鈍いというか、壊滅してますよね」




越前松島水族館到着

「運転が良かったので、凄く時間がまけました。よし、水族館にも行きましょう!」
「泡坂が水族館好きだとは知らなかった」
「俺は結構好きだけどな」
「私も嫌いじゃないけど、程度ですけどね。なんとここではアザラシに触れるんですよ!」
「別にアザラシが嫌いなわけじゃないが、何故盛り上がるのがアザラシなのだろう」
「俺はペンギンが見たいかな」
「ペンギンも、イルカも見ましょうね!」
「あっ、わかった」
「何が」
「これが旅行テンションってやつなんだな、と思って。普段何気ない事でも楽しく見えるという………」
「お前それ泡坂に言うなよ。本気で嫌われるぞ」
「何でだ。いいじゃないか楽しめるんだから。俺も楽しい」
「お前は本当に人生得してるよ」




「アザラシー! アザラシ! 見ました!? 超可愛いのあざらし! 触りました!?」
「勿論触った。結構毛がみっしりしていて、肉厚な感じだった」
「なんか嫌な表現だな」
「ああ、あざらし超可愛い! 何が可愛いってあのひげ! あざらし可愛いよあざらし!」

「目の前海か、すげえなあ」
「東尋坊に寄らなくても、充分海堪能できるな、ここで」
「はい、ペンギンですよ! ペンギン! ダッシュ!」




「可愛いなあ、ペンギンも」
「飼育係の人につつかれながら歩いているさまは、ちょっとシュールだった」
「近くで見ると思っていたよりもうんと鳥だったので、ちょっと引きました………」
「そうか? よたよた歩いていて可愛かったが」
「いいです。気を取り直してタコさわりに行きましょう! タコ!」
「どういう取り直し方だ」


「びぎゃあああああああああああ!」
「うわっ! びっくりした!」
「サメが! サメが鮫肌!」
「当たり前だろ」
「すっごいざらざらしてるのにぬめぬめしているというか、やわらかいというか! うげええええ気持ち悪い~!」
「お前そこまで嫌がるのサメに失礼だろ」
「じゃあ澤田さんタコ触ってくださいよ! 吸盤のとこ! それ以外は認めません!」
「なんだそれ。ほら、触ればいいんだろ触れば………」
「あっ、タコは吸盤で獲物を捕らえて捕食するから気をつけろよ」
「!?」
「あははははははは! 引っかかった! 今の澤田さんの顔、超滑稽!」
「池波! お前なあ!」
「俺は別に間違った事言ってねえもん」
「さあ、次はイルカショーですよ!」




「イルカ、デカッ!!」
「確かに可愛いというより、デカい」
「俺は、アザラシにもペンギンにもイルカにも出てきたあのお姉さんの皆勤賞っぷりが気になる」
「ショー担当なんでしょうね、きっと。イルカも頭いいなあ、凄いなあ」


「近海の海で取れる魚が展示されているだけに、馴染みのある魚ばかりで、ちょっとリアクションに困る………」
「特に「クエ」なんて説明文酷いですよ。非常に美味って、それ生態何にも関係ないですよね………」
「俺は面白いけどな」
「いえ、私だって勿論面白いですよ」
「むしろ、こういう展示こそ面白いよな」






「かわうそーっ! かわうそ、ほらほらかわうそですよ! かわうそ!」
「………可愛いな………」
「昔吉田戦車の漫画でかわうそ君っていうのが………」
「やめてくださいよ! 可愛くなくちゃっちゃうでしょうが!」




食事「田島」

「思っていたより、東尋坊より水族館で時間食いましたね。よし、食事ですよ!」
「俺は海鮮丼」
「私もそれにします」
「じゃ俺は焼き魚定食にするかな」






「………多い………」
「俺のひらめもでけえ」
「そうか? 冬だったら蟹いけたのにな」
「でも美味しいです! このお吸い物も美味しい」
「魚も淡白で美味い。サザエもついてきて美味しいな」




「はい、最後に福井での食べ治め! デザートにジェラードの『カルナ』ですよ!」
「普通に町の中にあるから道がわかりづれえなあ。駐車場が店の裏手にあるけど、これ埋まってたら路上駐車だな」
「なんだかシステムもよくわからないが………。とりあえず、頼めばいいんだろうな。ブルーベリーと抹茶が100円プラスって言うのは、どういうことなんだろう」
「細けえことはいいんだよ! 美味しければそれでいいんです、それで!」
「泡坂お前お腹大丈夫なのか? さっき裂けそうだとか言ってたのに」
「愚問。アイスは別腹ですよ! ね、池波さん!」
「泡坂がそういうならそうなんだろうな。俺、ごまにしよう」


「よーし、各自ちゃんと食べ終わったなー。最終目的地、石川県の宮本三郎美術館に出発するぞ」
「はーい、これで福井ともお別れですね! ありがとう福井、美味しかった何もかもが!」
「美味しかったな、確かに。それに暑かった」
「確かに、雨なんて姿かたちもありませんでしたね…。完全に日焼けしましたよ私…。目が痛い………」
「ああ、また高速乗るのか………。ETCカード………」
「俺は今回の旅行で、結構池波の新たな一面を発見してそれがとても嬉しい」
「同感です」




宮本三郎美術館到着

「あの蔵みたいなのが美術館なんですかね? 駐車場は?」
「うーん周りにねえから、この役所の駐車場使うんだろうな。かなりいっぱいだけど、これ平日だったらどうなってんだろ。駐車場待ちすんのかね」
「随分おしゃれな建物なんだなあ」
「そうですね。じゃ、美術館ですので各自自由行動ということで、解散」


「うーん悪くはないんですけど、名前を冠する割りには展示数が少ないかな、と」
「若い頃と、年取ってからの絵の印象がだいぶ違うのに驚いた」
「晩年になればなるほど、色使いが奇抜になるっていうかな」
「私、神戸で小磯良平さんの絵を見たときも思ったんですけど、こう絵描きさんって書きたいものとそうでないものがはっきりしてて、それが一枚の絵の中で見て取れるんですよね。たとえば宮本さんにとってはそれが色だったんでしょうけど、そうなると、人物がを描いていても、人物の「顔」とかどうでもいいんですよ。どうでもいいっていうと乱暴ですけど、絵の焦点はそこにはない。だから、モデルさんも全員同じで、同じような顔をしていて、無表情。小磯良平の「斉唱」もあの絵も描かれている娘さんたちは全員全く同じ顔でしたしね。同じモデルさんの顔を使いまわしているって言ってましたから。その、描きたいものとそうでないものを自覚して書き分けることができる、っていうのがプロなのかもしれませんね」
「色合いも奇抜なんだけど、どこかに影のあるような濃い絵が多かったな」
「最初のうちがそうでないだけに、やっぱり絵描きも日を重ねるごとに、変化していくものなんだろうな」
「宮本三郎が有名なのは、ある程度後期になってからの色使いからなんだと思うんですけどね。どの絵も迫力がありました。満足」


・小松空港到着
「ふるさと記念館にも行きたかったけど、ちょっと時間が足りねえなあ」
「あ、いいです。大丈夫です。充分宮本三郎の絵は堪能しましたから」
「後は? 車を返せばいいのか?」
「ちゃんと満タンにして、満タン証明もらわらないとな。しかし、さすがヴィッツだなあ。燃費がいいわ。メモリ一個しか減ってねえもんなあ」


「………今回の旅行、楽しかったな」
「どうしましたしみじみ。でもそうですね、お天気にも恵まれましたし、足で不自由しなかったし、観光地は面白かったし、食べ物は美味しかったし、凄くいい旅行でしたね」
「そうだな。池波はずっと運転手で疲れたんじゃないか?」
「大した距離走ってねえよ。田舎道は真っ直ぐで走りやすいし、逆に観光地はあちこち看板が出てるから、迷う心配もそうねえしな。でもまあ、ナビあって助かった」
「また行きたいですね、何処か」
「そうだな」
「今度は、澤田が行きたい場所とか行ってみるのどうだ?」
「あ、それいいですね。何処がいいですか、澤田さん」
「俺か? そうだな………行ってみたい所な………」
「………」
「………」
「………」




・羽田空港到着
「………………………」
「いや、いいですよ澤田さんもうそんなに頭悩ませなくても…。羽田着きましたからお開きにしましょう………」
「ちょっとまってくれ、もう少し考えてみる」
「考えなきゃ思い浮かばないところに行ってどうすんだよ。俺もう行くぞ、バイク止めてあるから」
「じゃ、私もバス乗りますからこれで。ほら澤田さんも行きましょうよ。またの宿題にするってことで」
「わかった考えとく」
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
「池波さんも。二日間お疲れ様でした! 運転ありがとうございました」
「じゃあな」
「おう」




こうして、一泊二日の福井旅は終わったのでした。
ちなみに、けんけら超美味いです。
そして、メールや拍手で情報下さった方に心より感謝いたします。ありがとうございました!
・某月某日。羽田

泡坂「おはようございます、澤田さん。珍しいですね、澤田さんが一番先に着いてるなんて!」
澤田「おはよう泡坂。今日はバスが全く渋滞しなかったから、あっという間に着いたんだ。楽でよかったが、早く着きすぎて暇ではあったな」
「何時に着いたんですか?」
「6時半かな」
「早すぎですよ。飛行機出発するの八時半ですよ。二時間前に着いてどうするんですか」
「早く着く分には別に構わないだろうと思って。おかげで眠い」
「勿論遅れるよりはいいですけど、今まで何してたんです?」
「寝てた。 空港でサンドイッチ買って食べたら眠くなったから寝てたら、泡坂が声をかけてきたから」
「じゃあ暇も何もないじゃないですか…。寝てたんなら…。大丈夫ですか? 今回福井ですから結構遠出ですよ? まあ私は澤田さんがふらふら迷っていなかったので、探す手間が省けたので楽でしたが…」
「お前な…。まあでも良かった。泡坂に聞きたい事があったから、搭乗前に」
「なんでしょう」
「二次元バーコードの使い方を教えてくれ」
「…あ、ああ、はい。携帯かざして入れるっていうアレですね」
「そうだ。よく知ってるな、泡坂も。俺は池波から…というか、ANAから突然メールが送られてきたときは何かと思って仰天したまま、それっきりだ」
「それただの放置プレイじゃないですか。別になんだってことはありませんよ。普通にメールに記載されているアドレスに飛んで、バーコードを機械にかざすだけです」
「そうか。じゃあかざしてこよう」
「いやいやいやいや! ええと、手荷物検査の前と、搭乗する時にかざすんですよ! 今かざしたっていいですけど池波さんと合流してからのほうがいいですよ! 手荷物検査の後迷子になられても困りますし!」
「ついでにいうならば、これ番号入力するの面倒くさいんだが」
「番号をあらかじめコピーしておけば大丈夫ですよ。ほら入力画面で貼り付け呼び出せばいいんで」
「なるほど…。泡坂は頭いいな」
「いえ、そんなしみじみ言われてもですね」
「ともかく、俺はパケ放題じゃないから、かざす間際になったら教えてくれ」
「わかりました。そうしましょう。で、肝心の池波さんはまだでしょうか。珍しいですね、あの人が一番じゃないなんて」
「そうだな。別に道は込んでいなかったから、電車でも遅れたんだろうか」
「少なくとも私が乗ってきた路線では遅れてなかったですけどね…。あ、来た」
「何処だ?」
「ほら、あそこ。二番の時計の向こう側ですよ。頭一つ大きいからすぐわかりますね。金髪黄色サングラスで周囲からあからさまに浮いてるし」
「あいつの外見が目立つのは否定しないが、泡坂はすぐなんでも気がつくな」
「視力裸眼で1.5ちゃんとありますからね。フフフ」
「視力の問題なのか…?」
池波「遅れたか、悪い」
「いいえ、別に遅刻でもなんでもありませんから」
「バイク止めてたら遅くなった。もう手荷物検査行くか」
「お前バイクなんて持ってたのか?」
「俺のじゃねえよ。免許は持ってたけど。借り物だバイクは。こっちに戻ってきたらその足でバイトに行くから、足が必要だったからな」
「大丈夫なんですか? そんな強行軍で」
「逆に渋滞にも合わないし、電車でつぶされることもねえから、楽なもんだ。じゃあ、行くか。澤田お前ペットボトルとか持ってたら出せよ。あと携帯な。ちゃんと機械にかざしてから出すんだぞ。まさかパソコンなんて持ってきてねえとは思うけど、電子機器も出せよ」
「わかった」
「じゃ、お母さんも来ましたから行きましょうか………」




・石川県小松空港到着

「いやー携帯かざすときの澤田さんの緊張の面持ちったらなかったー」
「石川県に着いて第一声がそれか。あれ、結構緊張するもんだな」
「お前だけだそんなもん。別に携帯が駄目なら、バーコード印刷して持ってきたっていんだから。ちょっとお前らそこで待ってろ。レンタカーの手続きしてくる」
「レンタカーで移動なんだったな」
「そうですねえ。福井でフィギュアスケート見よう、って誘ったのは私ですけど、交通手段は池波さんと一緒に調べてみたんですが、あまりのタイトさに泣き笑いでしたから、素直にレンタカー借りようっていう話になったんです」
「誰が運転するんだ? 俺は免許持ってないぞ」
「知ってます。でも珍しいですよね、男子で澤田さんくらいの年齢で免許持ってないのって」
「必要ないから取らなかった。別に電車に乗れば事足りるし、車を買う金もないし」
「そりゃまあそうなんですけどね。私もでも運転はお役に立てませんねえ。免許持ってるだけで、全く運転してませんから。結局池波さんが運転し続けるのって悪い気がしますね」
「まああいつが言い出したことなら大丈夫だろう」
「そりゃ池波さんにできない事なんてないでしょうけどね。せめて準備だけはしておきましょうか。オラ澤田一万円出せやコラ」
「いきなりなんだ!?」
「ほら、この前四国に行ったときもやったじゃないですか。お財布一つにしてお金徴収してそこから使うって。だからはい、一万円ください。私の一万円も確認してくださいね」
「だったらもっと普通に言えばいいだろう!」
「まったお前ら静かにしろよ。ほら、行くぞ」
「池波さん、はい二人分の二万円です。レンタカー代いくらでしたか?」
「わかった、財布に入れとく。レンタカー代は向こうの事務所で払うから、とりあえず迎えのワゴンに乗るぞ」
「ワゴンで福井を移動するのか?」
「違え。ワゴンで、空港からちょっと離れた事務所に行って、そこで手続きして、車借りるんだよ」


「………」
「澤田さん、何見てるんですか?」
「ああ。置いてあったチラシをな。池波は?」
「鬼の形相で車の外見チェックしてますよ。あんなに真剣な顔久しぶりです。なんでもちょっとした細かい傷でもチェックして、お店の人と傷の有無を確認しておかないと、後で凄いお金取られるんだそうです。色々大変なんですねレンタカーも」
「泡坂、ほらこれ」
「なんです?」
「うさぎ。可愛いな、ほら。『月うさぎの里』だそうだ」
「確かに可愛いですが、石川県ってうさぎが名産なんですか…?」
「怖い事言うな! なんでもうさぎは幸運、つまり「つき」を呼ぶっていう言い伝えがあるらしいな」
「なるほどねえ」
「おし、手続き終わったから出発するぞ」


「今の車は便利だな。ナビ最初からついてるし。前は地図片手に大変だったけどなあ。まあ国道乗っちゃえばすぐだけど」
「私助手席でもいいでしょうか。酔って迷惑かけても嫌なので」
「ああ。俺は何処でもいい」
「ナビとしても役に立つわけでもねえしな………あ」
「あ? どうしました、池波さん」
「忘れた」
「何を? 戻るか?」
「高速乗るのに、ETCカード忘れた。あー半額違うのにー。車の中に突っ込んだまま忘れてきた」
「ああ。なんだ。いいじゃないですか別に。一般でお金払えば」
「うわーなんで俺忘れたんだ。失敗したなー。バイクで来たからそのことすっかり忘れてて…。うわ、信じられねえ。1800円とか払って高速乗るのかよ………」
「池波がそこまで落ち込むとは思わなかった」
「私もです。というか、池波さんが忘れ物をする事自体が結構信じられない………」
「ああーもー。ほら、泡坂これ持ってろ、券。なくすなよ」
「わ、わかりました。肌身離さず持ってます」
「目的地の、『サンドーム福井』までどれくらいだ?」
「一時間くらいかな。上手くいけばもう少し巻けると思う」


・鯖江インター

「田舎の高速はちゃんと高速してるな。空いてるし、どいつもこいつもよく飛ばすわ」
「俺にはあまり一般道と変わらないように見える。境もないし」
「まあ、森か林か田んぼしかねえからな。泡坂戻ってきたぞ」
「………すみません、遅くなって」
「それはいいが、なんだ、何かあったのか?」
「なんかあったというか、私最初売店に干物が並んでるんだと思ってたんですけど…近づいてみたら、眼鏡だったんですよね…。ずらっとこう、外に並んでおいてあってですね…。すんごい驚いたんですけど、何で眼鏡なんでしょう…」
「鯖江は、眼鏡の生産で有名な町だからだろう。確か、アメリカの大統領候補か誰かも愛用していたはずだ」
「そうなんですか!? 私全然知りませんでした」
「ヤケに詳しいな」
「実家で父親が言ってた。自分も眼鏡をかけてるから詳しいらしい」
「澤田さんのお父様って、眼鏡かけてるんですか?」
「ああ。ファッションには興味がないらしいが、眼鏡は好きで色々持ってるらしい」
「………なんか、こう、ずるいお父さんですね………息子ともども」
「何がだ?」
「いえ、まあ澤田さん家のことはいいとして、鯖江が眼鏡で有名な町っていうのもわかったんですけど、インターチェンジで眼鏡を売ってどうするんでしょう。売れるのかな、眼鏡………」
「売れなくても、宣伝にはなるんじゃねえの? 鯖江のインターで見かけたけど、そうか有名なのかっていう奴は、泡坂以外にもいると思うぜ」






・サンドーム福井到着

「うわー大きなパチンコ屋さーん」
「本当だ。他のレストランチェーンも、なんだかどれも大きいな」
「まあ、場所が場所だからな。とりあえず、駐車場に止めちまうか。その後飯は考えよう」
「そうですね。臨時駐車場が出るとしても、あまり遅くなると渋滞になるでしょうから。それにしても予定よりまきましたね! 11時に到着できるとは思いませんでした」
「どうする? 喫茶店にでも入って待つか」
「そうだな」


「泡坂、怒るなよ」
「別に怒っちゃいませんが………呆れてるだけで………」
「澤田も怪訝そうな顔すんなよ」
「なんだったんだろう…。やっているのが間違いなく地元の主婦の方っていうのはわかるんだけど、あまりにあまりな接客態度に俺は驚いた。多分色々なトラブルがあるんだとは思うが、散々遅れてやってきた挙句「誰かこの中でコーヒー頼んだ人いる?」と聞かれるとは思わなかった」
「まあ俺も驚いたけどな。元々、公共の施設にくっついてる飯食うところなんてこんなもんだろ。ほら、もうじき会場できるから、人 増えてきたぞ」
「本当だ。まあソースカツ丼は美味しかったのでよしとします。澤田さんのカレーはどうでした?」
「カレーだった」
「そりゃそうでしょう」
「あー、九割がたお客さん女性だな。俺ら、浮いてるぞ澤田」
「そうか?」
「まあ、浮いてるっちゃあ浮いてるでしょうね。男性の方もいらっしゃいますけど、ご年配の方が多そうですから。きっと池波さんと澤田さんは、女性選手の追っかけとか思われてるんですよ、きっと」
「俺は女性選手の追っかけをしているつもりはない!」
「俺だってねえよ。でもまあ、ほら、早めについて正解だったな。道路すげえ混んできた」
「じゃあ、入りましょうか。ここからは夜の部まで別行動ですね。席が違うから」
「そうだな」
「澤田さん、お願いですからこの会場でだけは迷子にならないでくださいね」
「どうやったら会場で迷子になれるんだ!」
「ほら、お前らいい加減にしろよ入るぞ」




「全然寒くねえな。というかこんなにリンクって狭いもんなのかな。テレビで見たときはもっと大きく見えたけどな」
「………」
「あのプレミア席もすげえな。何の仕切りもなく、ただリンクのそばのパイプ椅子って。確かにあそこなら目と鼻の先っていうか、普通に手を伸ばせば届いちゃうだろあれじゃ」
「………そうだな」
「これも日本ならではなのかねえ。よその国なら危なくてできないような気がするけどなあ。ファンが殺到したりとか。でも大して金額違わないなら、あのプレミア席いいよな。今回、舞台の背後の席全部つぶして使ってねえんだな。会場そのものがわりと狭いから、二階席の後ろでも結構大丈夫そうな気がする。まあ、横浜アリーナで見てるってわけじゃないし………って、澤田お前なんでそんなに不機嫌そうなんだよ」
「何で泡坂だけが席が違って、俺とお前が一緒に並んでフィギュアスケート見なくちゃならないんだ」
「それはな、まず泡坂がチケット予約に気づいて自分の分を取った。その後、俺たちに行くかどうか聞いて、俺たちの分二枚取った。だから泡坂は離れて、俺たちはくっついたっていうこと」
「そんなことはどうでもいいんだ! 別に三人がどの席座ったっていいんなら、俺たちが隣り合わなくてもいいだろう。自分で言うのもなんだが、やっぱり男二人で並んでフィギュアを見るのは、結構厳しい」
「じゃあお前、泡坂と並んでみるかよ? 俺は別にどっちでもいいけどな」
「俺は一人でもいい」
「女の集団に囲まれてお前一人で見るのかよ。無理だろ、それ。大体席は泡坂が取ったんだから、何処に座るのも泡坂が決めて当然だろ。泡坂がちょっとサイドの近い席になったとき、「じゃんけんで好きなの選びましょう」って言ったじゃねえか。それをお前が「泡坂が近い席に座ればいい」っつったんだろ」
「それはまあ、そうだが………」
「いいじゃねえか、泡坂が見たいって言って来てんだから。お前も興味があって来たんだから、楽しめば。泡坂ならほら、こっから右側に見える」
「泡坂といい、お前といい、よく知り合いをすぐ見つけられるな」
「お前は誰かに見つけられてりゃいいんだよ。ふらふらされてもこっちが困る。お前双眼鏡使うか? レンタルでもやってたな。金かかるけど」
「中央の後ろよりといっても近いから、充分見えるような気がするんだが、本番始まったらライトとかで見えないだろうか」
「なら余計に双眼鏡いらねえかな。ライトもそうだし、ドライアイス炊かれると曇って何にも見えないだろうから」
「ならいい」
「そうだな。これくらいの会場の広さならいらねえかもな」





・Fantasy on Ice 2010 in 福井 開演

「リンクをキレイにするから、一時休憩か」
「結構氷ってぼろぼろになるもんなんだなあ。後になればなるほど滑りづらかったりしないのかね?」
「見ました!? 見ました!? 見た!? 見ましたか!?」
「何をだ!?」
「最初の集団演技もすっごい良かったですね! それぞれふりも覚えていなくててんでバラバラなのかと思ったら、結構そろってて! 個別の紹介のときも個性が出てて良かった~! ランビ! ランビエールが頭一つ浮いててふりがいちいちかっこよくて! 最高でしたね!」
「わざわざこっち来たのか。そうだな、集団演舞良かったな」
「最初は若手の羽生君でしたね。あの子、怖いくらい細いんですけど、どうにかなりませんか」
「どうもこうも」
「若手だけあって、体の柔軟性が持ち味ってことなのかな。細いと、ジャンプもぽんぽん飛べるし」
「それとね、トマシュ! トマシュ・ベルネル! あの人チェコの人なんですねえ。旗をかざしてくれる人たちがいて、その人たちににっこり笑ったりする顔がもう、超可愛くてですね! すっごい可愛いんですよ!」
「なんか、やたらにデカくて重そうだった印象が」
「衣装のせいじゃねえの? コミカルな演技だったからだぼっとした服装してたし」
「動画で見た時は、わりと顔が老けてる印象が強かったんですけど、間近に見たら若かったですよ! というか少年ですよねまだ二十台そこそこなら! あー超可愛いトマシュ~。デカくてもそれが可愛い~」
「俺は村主選手良かったけどな。動きの一つ一つのキレがいいっていうか」
「シャープでメリハリついてて良かったよな。動きの速さが違う感じがした。緩急しっかりしている演目は見ごたえがあるし」
「村主選手の衣装も素敵でしたねえ! 紫のグラデーションのついた衣装で、すごくキレイでした。女性陣はあまり詳しくなかったんですけど、どなたも素敵でしたよ! ペアの方々も演技がしっかりそろってて! 女性の衣装もこれがまたかっわいくて!」
「作品の完成度としては、ペアの人たちの方が良かった気がする」
「プロだからな。しっかりショーとして完成されている作品の方が、トータルでデキがいいってことなんだろ。付け焼刃かもしれないけど、荒川さんと、ランビエールのペアも良かったけどな。二人ともぐるんぐるん回ってて」
「あのムキになって回るところが可愛いんですよランビの! 最後お姫様抱っこで周囲の黄色い悲鳴ったらなかったですよ!」
「ランビエールってスイスの人なんだな。旗があがってから知ったんだが」
「ロシアとか、チェコとか、アメリカは大きめの旗があるんだけど、スイスって数は多かったけど若干小ぶりだったのなんでなんだろ」
「フランスの黒人の方に微妙に覚えがあるような気がするんだが………」
「ちょっと俺ら世代じゃないけどな。ボナリー選手だな。伊東みどりさんと同世代らしいから、かなりキャリアあるなあ」
「あの人も躍動感あって素敵でしたよ。痩せていて妖精みたいなのも素敵ですけど、あふれんばかりの筋肉っていうのもまたかっこいいですし!」
「ジョニーは今回随分男らしかったなあ。衣装も踊りも」
「そうだな。髪型がサザエさんで凄く気になったけど」
「寝転がる振り付けだからああなんですかね?」
「あと、なんだっけ。えーとヴァイオリンの………」
「ビリーブですね! もうプルシェンコ別格ですよ! とにかく速いの! 全部の動きキレッキレ! 手も足も細くて長くて超かっこいい!」
「速いのもそうだし、トップスピードになるまでも一瞬っていうのが凄いよな。それでためなしで飛んだり、ステップが始まったりするから、まさに息もつかせぬ展開っていうか、見ているこっちの視線を釘付けにするのが上手いっていうか」
「これショーなんで、ランビにしろトマシュにしろ、色々お客さんサービスしてくれてるわけですよ。すごくリンクのぎりぎりを滑ってくれたりとか。それこそウィンクとか、投げキッスとか。でもプルシェンコの投げキッスはですねえ、こうして両手の人差し指を唇の真ん中に持ってきてですね、そうしてこう両側にふわ~と手を広げる動作をするわけですよ! 誰か一人に投げキッスじゃなくって、この人差し指と両手が広がる範囲で投げキッスっておおおおおおおおっまああああああええええええ!!!」
「あと、あれ。ジョニーがネックレスなくしてたな。俺一瞬ああいう演出なのかと思ったんだが、本当のアクシデントだったんだな」
「あれ俺も思った。まあネックレスとかアクセサリーは、向こうは生まれた瞬間からしてるっていうのもあるから、いちいちつけたり外したりしないんだろうけど、探すの大変そうだったなあ。氷のリンクの上に、銀の細いチェーンじゃなあ」
「トマシュ! 見ました!? 必死なジョニーにあわてたスタッフと、真っ先に一緒にやってきてさがすトマシュ! ああトマシュなんて可愛いんだろう! あのですね、プレミア席の人に身振り手振りで「胸元に入っちゃってるんじゃないの?」といわれて、トマシュがそれをジョニーに伝えたりとか、もう一連の動作がすんごい可愛くてー!」
「俺は、ジョニーが本気で必死に探してたので、トマシュを気にしてなかった」
「俺は、その後に出てきた宇宙人が客を盛り上げすぎていたんで、トマシュ気にしてなかった」
「まさかのプルシェンコでしたね! 何だよあの宇宙人! 人ごみの中をひょいひょいすべっちゃってさあ! もう超エンターテイナーですよね!」
「あれはプロっぽかったな。邪魔しているとかそういうのじゃなくて、あからさまに客が盛り下がらないように見世物をしてくれてる、って感じだったし」
「そうだな。探すのはスタッフでもできるけど、場を盛り上げるのは無理だし」
「でも見つかって本当に良かったですね。あのままなら、ショー再開できないところでしたから。ってそれじゃまた!」
「ああ。………泡坂面白かったんだな。良かった」
「俺も結構楽しいけどなあ。やっぱ間近で見ると迫力が違う」
「そうだな。女性が全員きれいだった」






・夜の部含めて終了。

「安藤選手の真っ白な衣装素敵でしたねえ! あの人も動きキレッキレで!」
「トリをつとめた荒川さんのあの細さにはびっくりだった。あの人、振り付けの動きはダントツで芸術性があると思う。いや。俺は芸術のことはよくわからないが」
「芸術性ってわりと話題になるけど、女性陣に関してはその水準は高い気がする。ただ、男性がどうも外国からの招待選手と比べて若干見劣りがするのはお国柄かね」
「うーんどうなんでしょう。羽入君は後半スタミナきれたのがだれだれでしたが、それ以前にも、なんかこう体操っぽくてあまりフィギュアスケートっていう感じじゃなかったのは確かですね。多分経験の問題なんじゃないのかなあ、と。柔軟性は年取った男性陣よりははるかにあるわけですし」
「町田選手は凄くよかったけどな。まとまってて」
「あの人良かったな。動作もダイナックだったけど、ちゃんと一つの演目としてやりきてる印象が強かったし、殆どミスもなかったし」
「別に公式の試合じゃないですけど、ショーでもちゃんとした演技を見せてくれようとする、真摯な態度はやっぱり見ていて嬉しいですしね。ペアの方でコミカルな演技を見せてくれた方も面白かったです。ちゃんとしたプロの演技で」
「首にひもかけてぐるぐる回ったり、空中に紐一本で浮かんだりするペアの人たちがいたんだが………。あれ、見ていて怖くなかったか?」
「そうだなあ。これで落っこちたらショー中止だなくらいのことは思った」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ! でも私もちょっと思いました。凄い事は本当に凄いんですけど、落ちたらどうしようとか、怪我したらどうするんだとか、そっちばっかりが気になっちゃって素直に楽しめなかったというか………」
「最後の集団で、帽子に椅子持ってきて踊るのも良かったな」
「そうだな。ランビがひたすら女子の横でにこにこしてたし」
「ひたすらぐるぐる回ってましたしね。私今回ですっかりランビのおちゃめさと、トマシュの可愛さにめろめろですよ。あの二人なんかこう、朗らか過ぎて! 色々つらい事もあるだろうにもうなんだよあのランビの態度もう!」
「あと、やっぱりプルシェンコは何か別格だった」
「そうだな。何が違うのかね」
「生まれた星とか次元じゃないですかね。集団にいても何しても端っこにいても、なんだか目立つんですよあの人………。昼間は恥ずかしくてできませんでしたけど、夜の部はちゃんと立って拍手しましたからね! ああああああああ最高の一日でした!!」
「良かったな。終わったらすぐ出てきたから、駐車場の渋滞にも巻き込まれずにすんだし」
「多分、遠方から来た人たちが、ダッシュで鯖江駅方面に向かうのが大変そうだな、とは思ったけど」
「電車が一時間に一本とかそんなレベルらしいですからね………。もう少し地の利がいい場所でやればもっとお客さん入ったのかもしれませんね。夜の部は空席目立ちましたし」
「昼の部はともかく、夜の部終われば九時過ぎだから、ちょっときびしいだろうな」
「とりあえず、飯食ってホテル行くか。今日は焼き鳥な」
「わーい、焼き鳥!」








『やきとり 秋吉』

「なんで五本ずつなんでしょうね?」
「小ぶりだけど美味しい」
「あー売り切れだったつくねとかも食べたかったな………」
「池波さんも食のことになると真剣ですね。私は、レジのおばさんの「おつり何百万円!」を久しぶりに聞いてショックで今までの感動が吹き飛ぶ勢いでしたよ」
「あからさまに福井の人たちは関西系だな。ノリも口調もそんな感じだ」
「俺らの周りにいた人たちは、フィギュア見に来た他所の県の人たちっぽかったけどな。でもそれ以外は確かに関西人のノリっぽかった」
「満腹になりましたし、行きましょうかホテル」
「目の前なんだな」
「ビジネスホテルって、駅近くにあるイメージが強かったんだけど、こんななんていうか外れた場所にあっても商売成り立つんかなあ………」
「駐車場が七十台あるっていう時点で、やっぱり車で来た方仕様なんじゃないですかね?」
「ビジネスホテルだから、一人部屋なんだったな」
「じゃ、明日は七時半にロビー集合な。軽食食ったら出かけるぞ」
「はーい、おやすみなさい。澤田さんしっかり目覚ましかけて寝るんですよ。携帯の充電忘れずにね!」
「携帯の充電器なんてわざわざ持ってきてないが」
「わかったわかった。もし起きてこなかったらドア叩いてやるから。泡坂もちゃんと寝ろよ。明日も結構車で移動するから」
「それは池波さんでしょうが。一人で運転するんだから。でもまあ今日は何も考えずに寝ます」
「おやすみ」
「おう」
「おやすみなさい。お疲れ様でした」
福井からは無事に帰還しておりますが、夜勤だったり、なんだかわからないけれど目の周りと眼球内部の周囲(目が痛いんじゃない)だけがぴりぴりするので、更新や報告停滞すると思います。
メールも不義理をしていて申し訳ありませんが、順次致しますのでもうしばらくお待ちください。
しかし、最終的に福井は最高だったんですが、最寄り駅で持ち帰り月見バーガーを買ったら、中身がてりやきだったというオチで脱力しました。
私は! 月見が食べたかったのであって、てりやきが食べたかったわけじゃない!(苦笑)
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