『浮雲』
古いモノクロ映画です。
しょーもないが、とにかく女にもてる中年と、それを追いかけ続ける女の話。戦時中に結婚の約束をしたものの、帰ってくればそこには当然男の家庭がある。
自分ひとりで女は生きていきながら、男はうだうだと女との関係を断ち切ることなく、女もそのままでいいと言い出し、二人は過ごしていく。
なんかまあ、絵に描いたような不倫………というか、男女関係のもつれってやつですね。
他の女に手を出しながら
「自分を待っていてくれた女房を捨てられない」
とその女の前で言い、
「女はいいなあ、お気楽でたくましくて」
と自分のグチをこぼし、
「過去の思い出なんて空しいだけだ。聞いたところで昔のように燃え上がるわけでもなし。女房にも思いを寄せているわけではなし。魂のない人間が出来上がっちゃったものだ」
と、自分の駄目男っぷりをアピール。
個人的には理解不能ですが、こういう男がもてるのもわかるような気がします。典型的な、私がいないとこの人駄目なのよって奴ですね。実際、顔がいいわけでもなく、金持ってるわけでもないんですが、なんなんでしょうね。どうしてもてるんだろう。
毎日が鬱屈している人とか、今の日常に微妙な不満がある、という人………もとい、女性を本能的に見分けられるんでしょうね。だから、くっついていくし、女性もくっつきやすい。
「僕は神経衰弱なんだ。どうにもならないんだよ。寂しいんだ」
よ、よくもお前ぬけぬけと………。
「貴方って怖い人だわ。自分が一番可愛いんでしょう」
「だから死ぬのも嫌になっちゃったんじゃないか」
もうねえ、人の奥さんにまで普通に手を出してさあ「人生はゴーイングマイウェイだ」とか、さらっと言っちゃうのが凄いよなあ。この男の辞書には悪びれるという文字がない。
しかも、女に何も言わずにいきなり田舎に越しちゃうんだぜ。お前絶対流されただけだろ! その場の雰囲気に!
しかも女が追いかけた先には、その旅行先に手を出した元人妻の居住地で、かつ男は本妻の具合が悪いからその場にいないんだぜ。もう、なんなのこの男は………。
なんか、憤る気力もないというか、「こういう人いるんだなあ」という感じでした。普通に浮気して「もうしない!」とか平謝りとか、「浮気は男の甲斐性だ!」と開き直るほうがまだマシっていうか。
罪悪感がこれっぽっちもないというか、罪悪感があることが当たり前で慣れてるっていうか。
「ご覧の通りの始末でね。君のことは気になってたんだ。君は僕の事を嫌な奴だって思ってるだろう」
こういうことを、さらっとぬけぬけと言っちゃう男って………。
なんか、男女のドロドロというよりは、別次元の生き物を見ている感じでした。しかも、この男、女にも男にも色々な人にもてるんです。他人が世話を焼きたがる感じなんだろうか。
騙そう、とかいう純粋な悪意がないからなんだろうか。
でも、悪意なしで、女をすて、元の奥さんの手紙を無視し、愛人は元の夫に殺されても、ケロっとしている男はもう………。
「足が水虫で痛いんだ」
とか、二人で並んで歩きながら言う様は、なんかもう逆に痛々しい。
「君はいい気味だと思ってるんだろ」
この男のずるさは、そう言って相手の良心が悪意を向けられないようにしてしまうところですな。「そんなことない」と誰だって自分が悪意を持っている、と気づきたくないものですし、相手がどんな悪い人であれ、自分は「人をののしるような人間じゃない」と思いたいものですし。
「悪いのはみんな僕なんだ。僕はもぬけの殻なんだから」
………お前それ………どういう言い訳………。
女はそれにしても強いというか。執着が強いのは男のほうだと思うんですが。女も堕胎の費用を無心に行く相手って、かつて自分を襲った男だったりするんだから、凄いよな。しかも、その相手と生活をもたせるために暮らしているという。
女のほうがずっと生臭く、男はかすみ食ってるみたいですね。
女房の葬式の金がないって、愛人(なのか、そもそもこの女は)に金借りに行くのもなあ………。返す気さらさらないし。
金が欲しいとか、そういうんじゃないんだなあ。実際女が金を持って逃げてきたときも、その金を受け取るわけでもないし。
結局、任地に行く男についていきたいと女が言っても、男は連れて行かないっていうスタンスがよくわかりませんが。というか、一貫してこの男はこの女と結婚したいとか、一緒にいたいとかって風じゃないんだなあ。都合のいい女とも思ってなさそうだし。
男も定職に着かずぶらぶらしたい、というのではなく、職を探しちゃんと以前の職場に戻って屋久島行きですからね。一般的な社会生活を営む気持ちはちゃんとあるけれど、女のことになると意味不明なだけなんだろうか。
でも、自分ひとりで行くのではなく、結局病身になった女を連れて、最初の出発を延ばして過ごした日々は、女にとって幸せだったのかなあ。男はなんか、妙に幸せそう(別に女といるからじゃなく、ただ、生活が安定しているからのような気がするが)ですが。
追いかけられる日々から、自分が立ち止まって女を看病するという、立場の違いが逆に新鮮だったのだろうか。
屋久島で二人で暮らすようになり、女が全く身動きが取れなくなってからの二人は、傍で見ていても幸せそうな夫婦にしか見えず、男もそれを満足していたようでしたが………。
最後は、亡くなった女の前で号泣ですからね………。そんなだったら、何でもっと早くに優しくしてやらなかったのだ、と普通の感性なら思いますが、この男だとそれすらも当たり前に見えます。
結局男は何をどうしたかったのだろうか。普通に生活していたいだけなんだろうな、やっぱり。女はまだ目的がはっきりしているからいいんですが、男の不透明さが本当によくわかりませんでした。
すいません、なんだか作品解説というより、台詞の垂れ流しになってしまいましたが、これが一番凄さが伝わると思いまして。
ちょっと、どうしていいんだかわからないような映画でした。男女のもつれ………なのか? 恋愛ではないような気がしますが。
主演の高峰秀子ばかりがクローズアップされたらしいですが、男役の森雅之の演技も良かったけどなあ。枯れていてでも品があって。太宰治みたいな容貌でした。
古いモノクロ映画です。
しょーもないが、とにかく女にもてる中年と、それを追いかけ続ける女の話。戦時中に結婚の約束をしたものの、帰ってくればそこには当然男の家庭がある。
自分ひとりで女は生きていきながら、男はうだうだと女との関係を断ち切ることなく、女もそのままでいいと言い出し、二人は過ごしていく。
なんかまあ、絵に描いたような不倫………というか、男女関係のもつれってやつですね。
他の女に手を出しながら
「自分を待っていてくれた女房を捨てられない」
とその女の前で言い、
「女はいいなあ、お気楽でたくましくて」
と自分のグチをこぼし、
「過去の思い出なんて空しいだけだ。聞いたところで昔のように燃え上がるわけでもなし。女房にも思いを寄せているわけではなし。魂のない人間が出来上がっちゃったものだ」
と、自分の駄目男っぷりをアピール。
個人的には理解不能ですが、こういう男がもてるのもわかるような気がします。典型的な、私がいないとこの人駄目なのよって奴ですね。実際、顔がいいわけでもなく、金持ってるわけでもないんですが、なんなんでしょうね。どうしてもてるんだろう。
毎日が鬱屈している人とか、今の日常に微妙な不満がある、という人………もとい、女性を本能的に見分けられるんでしょうね。だから、くっついていくし、女性もくっつきやすい。
「僕は神経衰弱なんだ。どうにもならないんだよ。寂しいんだ」
よ、よくもお前ぬけぬけと………。
「貴方って怖い人だわ。自分が一番可愛いんでしょう」
「だから死ぬのも嫌になっちゃったんじゃないか」
もうねえ、人の奥さんにまで普通に手を出してさあ「人生はゴーイングマイウェイだ」とか、さらっと言っちゃうのが凄いよなあ。この男の辞書には悪びれるという文字がない。
しかも、女に何も言わずにいきなり田舎に越しちゃうんだぜ。お前絶対流されただけだろ! その場の雰囲気に!
しかも女が追いかけた先には、その旅行先に手を出した元人妻の居住地で、かつ男は本妻の具合が悪いからその場にいないんだぜ。もう、なんなのこの男は………。
なんか、憤る気力もないというか、「こういう人いるんだなあ」という感じでした。普通に浮気して「もうしない!」とか平謝りとか、「浮気は男の甲斐性だ!」と開き直るほうがまだマシっていうか。
罪悪感がこれっぽっちもないというか、罪悪感があることが当たり前で慣れてるっていうか。
「ご覧の通りの始末でね。君のことは気になってたんだ。君は僕の事を嫌な奴だって思ってるだろう」
こういうことを、さらっとぬけぬけと言っちゃう男って………。
なんか、男女のドロドロというよりは、別次元の生き物を見ている感じでした。しかも、この男、女にも男にも色々な人にもてるんです。他人が世話を焼きたがる感じなんだろうか。
騙そう、とかいう純粋な悪意がないからなんだろうか。
でも、悪意なしで、女をすて、元の奥さんの手紙を無視し、愛人は元の夫に殺されても、ケロっとしている男はもう………。
「足が水虫で痛いんだ」
とか、二人で並んで歩きながら言う様は、なんかもう逆に痛々しい。
「君はいい気味だと思ってるんだろ」
この男のずるさは、そう言って相手の良心が悪意を向けられないようにしてしまうところですな。「そんなことない」と誰だって自分が悪意を持っている、と気づきたくないものですし、相手がどんな悪い人であれ、自分は「人をののしるような人間じゃない」と思いたいものですし。
「悪いのはみんな僕なんだ。僕はもぬけの殻なんだから」
………お前それ………どういう言い訳………。
女はそれにしても強いというか。執着が強いのは男のほうだと思うんですが。女も堕胎の費用を無心に行く相手って、かつて自分を襲った男だったりするんだから、凄いよな。しかも、その相手と生活をもたせるために暮らしているという。
女のほうがずっと生臭く、男はかすみ食ってるみたいですね。
女房の葬式の金がないって、愛人(なのか、そもそもこの女は)に金借りに行くのもなあ………。返す気さらさらないし。
金が欲しいとか、そういうんじゃないんだなあ。実際女が金を持って逃げてきたときも、その金を受け取るわけでもないし。
結局、任地に行く男についていきたいと女が言っても、男は連れて行かないっていうスタンスがよくわかりませんが。というか、一貫してこの男はこの女と結婚したいとか、一緒にいたいとかって風じゃないんだなあ。都合のいい女とも思ってなさそうだし。
男も定職に着かずぶらぶらしたい、というのではなく、職を探しちゃんと以前の職場に戻って屋久島行きですからね。一般的な社会生活を営む気持ちはちゃんとあるけれど、女のことになると意味不明なだけなんだろうか。
でも、自分ひとりで行くのではなく、結局病身になった女を連れて、最初の出発を延ばして過ごした日々は、女にとって幸せだったのかなあ。男はなんか、妙に幸せそう(別に女といるからじゃなく、ただ、生活が安定しているからのような気がするが)ですが。
追いかけられる日々から、自分が立ち止まって女を看病するという、立場の違いが逆に新鮮だったのだろうか。
屋久島で二人で暮らすようになり、女が全く身動きが取れなくなってからの二人は、傍で見ていても幸せそうな夫婦にしか見えず、男もそれを満足していたようでしたが………。
最後は、亡くなった女の前で号泣ですからね………。そんなだったら、何でもっと早くに優しくしてやらなかったのだ、と普通の感性なら思いますが、この男だとそれすらも当たり前に見えます。
結局男は何をどうしたかったのだろうか。普通に生活していたいだけなんだろうな、やっぱり。女はまだ目的がはっきりしているからいいんですが、男の不透明さが本当によくわかりませんでした。
すいません、なんだか作品解説というより、台詞の垂れ流しになってしまいましたが、これが一番凄さが伝わると思いまして。
ちょっと、どうしていいんだかわからないような映画でした。男女のもつれ………なのか? 恋愛ではないような気がしますが。
主演の高峰秀子ばかりがクローズアップされたらしいですが、男役の森雅之の演技も良かったけどなあ。枯れていてでも品があって。太宰治みたいな容貌でした。
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