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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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一回飛んでしまいましたが、木曜時代劇感想です。
初めは、地味かな、とか、青年時代の、変な馴れ合いがよくわからなかったのですが、誰も彼もが必然的に大人になり、しがらみに囚われるようになってから、次第に面白くなってきました。
この作品、主人公の桑山又左衛門の妻、満江が語り部となっているのですが、満江は物語のドロドロした部分に、全く関わっていないのが面白い。
あくまで彼女は、妻として、女としての目線で物事を見ているので、夫の政変や、出世に何の関心もなく、やきもきしているのが、桑山又左衛門と比例していて、めりはりがあります。
勿論、見ている側としては、主軸である桑山又左衛門がどのようにして出世していくのか。当然その過程で起こる出来事は、どれだけのものか、ということを期待して見ているのですが、それはあくまで見ている側であって、実際、見ている側と同じ立場の人間は満江であるという位置づけが面白いのです。


第三話で、友人であった宮坂一蔵が妻の類の不義相手を殺し、脱藩しようとしたところを、同じく友人である、野瀬市之丞が斬る、という事件が起こってから、四話ではしばしのときが流れます。

同じく友人の一人であった、杉山忠兵衛は出世し、それに引き立てられるように進んでいく又左衛門ですが、友人の背に引きずられるようにして、というスタンスが気に食わない、というのが、青年時代から引きずる、彼のがつがつしていない感が現れています。
心が狭いとか、プライドが高いとかではなく、この辺は、幼い頃過ごした時間も含めて、譲れない矜持なのでしょう。

そして、剣の使い手である野瀬市之丞を利用し、杉山の警護として推薦し、自分もあわよくば、という又左衛門は、結局それもできずに、野瀬に頭を下げます。

「俺は、お前を利用しようとした。すまない。お前は俺の子が死んだことに、これほどまで気を配ってくれたのに」

変わってしまったそれぞれの立場。
変わることのない、それぞれの性質。

ここで、興味深いのは、二人は別に怒鳴りあうことも、お互いを責め合うことも、また、許しあうこともしないというところです。
「そんなこと気にするな」と野瀬は言わないし、又左衛門も「すまなかった」以上のことは言わない。
野瀬に出世を進めたりしないし、世渡りについて説教するわけでもない。
互いに違ってしまった自分を思いながら、野瀬は、又左衛門からの告白を、ただただ困った顔で、辛そうな顔で受け止めるのです。
それが、「そんなこと知っているさ」と言いたいのか、「そんなこと言ってなんになる」と言いたいのかはわかりませんが、このあたりの、男二人が往来で立ち尽くしている場面は、非常にぐっときました。

そして、背後から出世街道からはずれ、細々と生きている庄六が現れ、野瀬が又左衛門に渡した金で、死んでしまった又左衛門の長男のために飲もう、と男たちは三人並んで、それぞれ泣き笑いしながら、歩き出す。

非常にいいシーンでした。
変わってしまったもの、換わらないもの、少しだけ変わってそれでも残っているものなどが、大人として切なかったです。


そして第五話。
私は全く知らなかったのですが、土地の開墾というものは、莫大な時間と知識を費やして行うものなのですね。
荒れ果てた土地を開くには、ただ山を切り崩し、田畑を作ればいいのかと思っていたのですが、全く違いました。
きちんと山々を歩き、測量し、水路をどうやって確保するか、地盤はどうなのか、とありとあらゆることを想定し、それを図面に起こして吟味する。
本当に、あの時代における最先端の科学技術です。
頭がちょんまげの連中がやっているとは思いませんでした。
時代をなめてたな。でも、間宮林蔵や伊能忠敬がいる国だものな、ここは。
その測量した絵図も、美術品としても見られるくらいの、非常に精巧なものでした。ああいう、美術品として作られたわけではないが、技術の粋が集まっている作品、というものとても魅力的です。

また、政変で人が死ぬ、ということが当たり前のように行われているのも、時代を感じます。
ただの権力争いで、あっさり人が死にますし、測量に関しても、ただ山々を歩いているだけで、敵方の人間の襲撃のために用心棒として野瀬を雇う始末。
開墾が本当に命をかけて行われているのだな、と、驚きました。
勿論、終わった後についてくる権力から殺傷事件は生まれてくるのであって、実際の田畑に関わってくるわけではないのですが。

その開墾に関しても、家に金を出してもらうわけではなく、商人に、五十年先、百年先の利益を見込んで金を出させる、というのがまた凄い。
そして、それを受けてしまう商人も凄い。
目の前の利益も勿論のこと、末代まで続く利益のために、金子を用意するという心意気や、かくのごとし。この時代の金儲けは、本当に気骨のある人間でないと勤まりませんね。
そして、五十年後、百年後を見据えて行う大事業を立案し、実行に移すという、開墾にかけた又左衛門もすさまじい。
ただ彼は、民百姓のためだけにやっているのではなく、己の意地と、義父の意地と、そのほか諸々のために立ち向かったのですが、命をかけていることには変わりなく、その姿には迫力を感じます。

最も、それは前述した通り、妻の満江には全く関係のないことだ、というのも面白い。


五話では自分の才能を認めた、義父が死にます。
田畑に賭け、民百姓のために働いているのだと、言って憚らない義父は、死の床で、「今更、代官になる夢を見た」と笑います。

「風の果て、なお足るを知らず、と笑っていました」

ただ風の中、走ってきた。
後ろを振り向かず、ただ懸命に。

そして義父は、自らの名前を又左衛門に継ぐように、と言い残してこの世を去ります。
これは、ただ名前を変えるという作業ではなく、自分が出来なかったこと、自分と同じ道を進むものとして、又左衛門を義父が改めて認めたということに他なりません。

ただ、家名を継ぐよりも、何倍も価値のあるものを、又左衛門が受け取った瞬間、泣いたよ。


次回は、いよいよ権力争いに深入りしすぎた、かつての友杉山を、又左衛門が追い落とす話になりそうで、今から非常に楽しみです。
過ぎたるは及ばざるが如し。
既に友ではなく、味方ですらなく、肩を並べることすらできなくなった、二人の道筋はいかに。
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