『あやかしびと』
私がプレイしたのは、PSに移植されたベスト版です。エロシーンがないだけで、特別内容は変わっていないとのことですが、わりと、この設定ならば別にエロがあってもなくてもという印象なので、話の区切り方が不自然だとは思いませんでした。いやあ、PSの時代は、いきなりどうしましたみたいなカットのされ方をした移植作品とかいっぱいあったもんですが。
システムとしては、基本ノベル形式なのでボタンを押せば進みます。このゲーム、個別ルートに当然分かれていますが、特定のキャラクター三回落さないと最終的なEDが見られないという、昨今の物語重視のゲームにはありがちな仕様になっているので、スキップは非常に重要なんですが、何故かEDロールが完全に飛ばせません。お前………EDロールが毎回趣向が凝らされているならともかくとして、そうでないならば、ただの苦痛だということをわかれ………。
他にも、既読スキップが文章そのものではなく、ルートやシーンごとに認識しているらしく、明らかにこの文章見た、というものでも、スキップが適応されない、とかざらにありますので要注意で。
物語としては、特別ハードではない戦闘モノ、という感じでした。元がエロゲーだからなのかわかりませんが、基本的に、女の子と恋愛していくには、という感じの物語なので、あまり展開のハードさや、謎が解明していくスッキリ感、などは感じられません(多分よく引き合いに出されると思いますが、Fateみたいな、恋愛いらねえだろ、というスタンスのゲームではない)。
登場人物は、過去はあっても別に謎はないので、わりと平坦な目で見られると思います。純粋に、性格の好みでプレイヤーが好き嫌いになれる、という感じですね。勿論顔も。
絵に関しては、それほど高いレベルとは思えません。汚いとは思いませんが、背景一つとっても魅力的、とかそういうレベルではないし、とにかく主人公がブサイクなのがどういうことなのかと。スチルも結構酷いですしねえ。戦闘シーンそのものはFateの方が、スチルの見せ方としては上手だし、恋愛スチルは基本酷いので、絵に関しては辛い評価です。
元々、なんだろう、それほど万人ウケしそうな絵柄ではないんですが(男性向けエロゲーデザインではありませんが)、それに止めを刺すかのように、ありえないボンテージとか着ている暗殺者には倒れました。なんだあのデザイン………荷物ガムテープで梱包してるんじゃねえんだぞ。
セクシーなのは女性暗殺者としてあって当然のお約束で、私だって女性のエロい衣装と姿は大好きですが、なんかもう、とにかく、出てくるキャラクターの衣装デザインがダサいのが気になりました。
主人公たち主要人物に、制服以外特別な立ち絵がないのも、最初は気になってはいたんですが、むしろ私服があんなデザインだったら、凄く泣けるので、今となってはオッケーなのかもしれません。ただ、この制服のデザインもなあ………(以下略)。
個別ルート紹介。落とした順。
刀子。
彼女のルートはもう、奴の兄貴が正ヒロインとしか思えないデキでした。彼女自身は割りと、奥手なんだけど真っ直ぐで、まあ色々あったんだけど、それでも主人公には嫉妬、みたいなわりと個性に波がないタイプだったので、別に嫌いではありませんが。
主人公が肩を叩こうものなら、そのまま関節をきめて投げ飛ばす武闘派です。
実の兄との絡み、というか正体というか、(以下、ネタバレにつき反転)兄と体を共有しており(精神もばらばら)、どちらかが必ず消えなければならない制約があるので、「どちらを選ぶのだ」という選択肢が現実的に常に側にあり、前向きに苦悩しているのは好感触。
自分より、兄のほうが残っていたほうがいいという刀子。けれど、主人公を好きになり、自分も生きていたいとあがく。兄は兄で、自分は考えなしで幼い頃自分ばかりが現実に出てきてしまっていたことを悔やみ、妹の幸せも願っている。何より主人公は妹の恋人であり、兄の友人でもあるので、苦悩するわけですよ。どっちも取りたいわけで。勿論落すのは女キャラクターなわけですから、どっちが最終的に消えるかは明白なんですが、それでもどちらにとても幸せな結末は、というのがこのルートの見所ですね。
最終的に、兄は敵との戦いでおのれの精神を消耗し、存在できなくなって消えるんですが、そのときの扱いはもう、妹のヒロインの座、完璧に奪う勢いでした。
「悲しくないわけじゃない。けれど、悲しいと思える今こそが幸せを求めている」みたいな。お前、どれだけピュアっ子だよ。
消えたと思った兄が、敵の体内から出てきたときもカッコよかったですしね。
実際、三つほどあるEDのうち、一つは転生EDなので、未来は想像がつくかもしれませんが、これがまた、他のキャラクターともEDで絡んでくると、お前それでいいのかという気持ちにはなります。
逢難ルート
刀子ルートから派生する、いわゆる敵との恋愛EDってやつですね。二つEDがあって、まあそこに行き着くまでの過程も、主人公の恋愛云々というよりも、「こういう生き物が、こういう感情を持ってくれて嬉しい」というような愛着EDなのが、潔い感じでした。そりゃ、その直前まで刀子といちゃいちゃしていたのに、いきなり横恋慕されてもなあ。
わりとツッパリ小僧の逢難が可愛いですし、ルートとしても短いので、さっくり見られると思います。
EDのうち、共に悪を滅ぼす、というようなEDの方が好みです。まあ、私はあまり転生ものに興味がないので。
もう一つになると、逢難が転生して、そして、ある人物と出会い、という感じになるのですが、息子に過去の女を取られたとも思える主人公の立場はどうなるのだ、と真剣に思いました。
いやあ、しかし、あいつは生きていてももう一回生きても(笑)立場として常に美味しいですね!
トーニャルート
ツンデレっていうんですかね。別にツンツンしてませんが。物言いが厳しいだけで、わりと普通に常識人です。ああ、クーデレっていうんでしたっけ。いや、別にクールでもないなあ(なんだって?)。しっかりしてる子、という感じです。こうしてみると、わりと女性キャラクターの性格ってはっちゃけてない子が多いんですね。
サブにはいますが、いっぱい、力んでる子が。
彼女は、オタクドレッドヘアで声は炎の守護聖というとんでもアニキ、ウラジミールとセットで可愛かったです。つうか、ウラジミールはお約束といえども、お前泣かせすぎだろう………! トーニャを庇うシーンはそうでもなかったんですが、「これしか持ち出せなかった。こちらを大切に持って俺の手紙は捨ててくれ」とか、お前、どんだけ………!
そして、ネタ要因でしかなかった、愛野狩人が輝く瞬間でした。死ぬとすぐに再生をしてしまう体を武器にするなって、お前って奴は!
一乃谷兄貴もてれ顔満載ですし、主人公の師匠も自己完結していてカッコイイ(苦笑)し、わりとトーニャと主人公の恋愛はどうでもよく、トーニャを取り巻く連中たちがカッコイイ、という感じのルートで満足でした。主人公の影が薄いとしても、嫌でも他のルートを何回も通る羽目になるんだから、濃くなります。
薫ルート
病院の先輩であり、優しいお姉さんであり、現在主人公抹殺の隊長。転職しすぎです。きれいで強いお姉様というには、あまりに弱々しいので、初手から萌えから外れました。お前には色々な意味での強さがない。にも関わらず毅然とした態度が萌え、という奴なんでしょうか。でもそれは、震えながらも任務を遂行するから萌えるのであって(以下延々と続く)。
まあ個人的には、それを擁護する部下っていうのも結構気に入らない(おい)ので、九鬼(主人公の武術の師匠)も相乗効果で評価が低くなりました。気の毒に(お前がな)。
にも関わらず、このルートをメインヒロインの前に何故持ってきたかというと、腰砕けボイス白虎を持つ加藤先生の出番が一番多いと聞いたからです。私は欲望に忠実な主義です。
で、結果としては正直期待しすぎてたかなあという感じでした。主人公の恋愛話としてはぬるいし、物語としての盛り上がりは、まあ普通というか。前のトーニャルートのほうが、クライマックスは盛り上がったなあ。
加藤先生も何か個性がよくわかりませんでした。外見は日和見タイプだけど中身はそんな感じでもなく、わりと普通の人でした。人生に絶望とか飽きてる感じじゃないし。へんなタラシ要素も中途半端…というかそういうのは愛野狩人だけで十分だ。
変なボンテージの姉さんとくっつきそうなのもなあ。変な女とくっつくとその男の価値が下がる。
でもこのルート、鴉天狗の鴉さんが超カッコよかった~(外見執事のお爺さん)。九鬼との対決で死を覚悟したとき、
「千年の長い人生、飽きたことなど一度もないというのが、私の誇りだ」
と言われた日には、結婚を決意しました(一方的に)。
あ、忘れてた。薫の部下の公安のスパイである、外見はお世辞にもハンサムとはいえない、猫背の比良賀もカッコよかったです。現実主義で。キレてなくて、キレてる連中の中での常識、いや現実の砦というか。頭もかなりキレるんですが、他者に外見のせいでさげすまれることも多いのに、意にも介さない意思の強さがカッコイイ。
加藤先生が普通だった分、鴉さんで補給できたという感じでした。元々九鬼さんはさして好みでもないので。
すずルート。
最後の王道ルートです。それまでにヒロイン三人をクリアしなければいけないのですが、それにより、結構もう飽きてきたんですが。まず生意気な小娘というだけで、個人的好みからいえば、その人の心情を追いかけたくもないというか(致命的)。このルートのEDの中で一つ、妖怪変化EDがあるのも見えてきてしまいますしね。九鬼さんの末路と、逢難EDを見るとね。
印象としては、何かあったっけ、という感じでした。結局他のヒロインに比べて、わりと中盤で「戦力」としては脱落してしまうので、最後はなんのためにいるのかわからなくなってしまうんですよね。しかもすずは、もう最初の設定からして、他の誰と結ばれようとも特別な存在であることは、変わらないというデフォルトヒロインの立ち位置なので、主人公との関係が特別変わることもないですし。
記憶を失ってしまったすずのために、奔走する主人公、くらいまではわりと普通のギャルゲーとして楽しめたんですが、ラストに進むにしたがって尻つぼみ、という感じでした。
結局、九尾の狐関連の話って、刀子先輩のルートが一番充実していたんだなあ、と。すずはその話そのものは全然メインじゃありませんし。
九鬼先生の復讐にも一区切りつくのかと思いきや、最初から最後まで決着つかずで、後味悪い感じでしたが、それはそれとして、幽界で、主人公と二人並んで、最後「それじゃあ、行ってくるか」「何処へ?」「そりゃお前決まってるだろう、地獄にさ」のくだりは、ちょっと泣けました。
個人的には、妖怪や半妖怪になっちゃうルートよりも、最後まで人間(というか半妖)として戦い(そうなると、戦闘のオチは薫ルートと同じになっちゃうんですが)、九鬼先生も人間としての記憶を取り戻して、一番最初にお世話になったおじさんに、お金を返しに行く、というEDが一番感動しました。
総評としては、もう少し絵は頑張りましょう(しかもギャルゲーなわけですし)という感じでしたが、ヒロインたちはそれぞれ、際立って電波な個性があるわけではないので、万人に受け入れやすいかと思いました。
キャラクター順位。
鴉>越えられない壁>ウラジミール>比良賀>一乃谷兄>トーニャ>逢難
という感じでした。あとは大体押しなべて同じ。ドミニオン(主人公を追いかけてくる、人妖専門の殺害機関)の兄弟とかも、もう少し主人公以外と絡みがあれば嬉しかったんですが。
鴉は近年まれに見る美老人で、超萌えました。格好は執事(というか運転手)だけど別に執事じゃない、バリバリ武闘派っていうのがまた………! 年齢差1000歳とか平気でいけると思った瞬間でした。
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