諸事情ありまして、更新が滞ると思います。
「ずっとお城で暮らしてる」
シャーリイ・ジャクスン (著)
ホラーミステリーというジャンルには、特別興味がなかったのですが、最近色々なジャンルを読んでみたくて、購入しました。
ページそのものも薄いですし、非常に短時間で読めました。
ホラーものですが、心理描写が、心理描写としては非常に少なめなので、そういう意味でも、人間性の描写が延々続いて読みづらい、ということはないです。
ただ、直接的な心理描写のかわりに、メリキャットとコンスタンスという二人の姉妹の生活の中心である、生家についての描写が非常に多いのが特徴的です。
一家全員砒素によって死亡した事件から、助かった伯父と姉妹が暮らす、まさに城である場所の描写、庭、敷地内に流れる小川に、自分たちをさげすむ人間が住む町の描写。そういった、普段は背景として描かれるものの描写が多いのが、かえって閉塞感を募らせて、恐怖を覚えます。
家から一歩も出ない姉は、家族を殺した殺人犯として疑われ、妹はそんな姉を守るべく、すべての人間を排除しようとする。
一人の従兄弟の来訪により、二人と、伯父の生活は破綻を迎えますが、結果的に得たものは、以前住んでいた城よりも、もっと堅固な月だった。
人間心理が物語の中心なのですが(俗に言う、事件と言う事件は起きないため)、それにも関わらず、心境が殆ど描かれないのも、曖昧さが不気味です。
以下、ネタバレになります。
「ずっとお城で暮らしてる」
シャーリイ・ジャクスン (著)
ホラーミステリーというジャンルには、特別興味がなかったのですが、最近色々なジャンルを読んでみたくて、購入しました。
ページそのものも薄いですし、非常に短時間で読めました。
ホラーものですが、心理描写が、心理描写としては非常に少なめなので、そういう意味でも、人間性の描写が延々続いて読みづらい、ということはないです。
ただ、直接的な心理描写のかわりに、メリキャットとコンスタンスという二人の姉妹の生活の中心である、生家についての描写が非常に多いのが特徴的です。
一家全員砒素によって死亡した事件から、助かった伯父と姉妹が暮らす、まさに城である場所の描写、庭、敷地内に流れる小川に、自分たちをさげすむ人間が住む町の描写。そういった、普段は背景として描かれるものの描写が多いのが、かえって閉塞感を募らせて、恐怖を覚えます。
家から一歩も出ない姉は、家族を殺した殺人犯として疑われ、妹はそんな姉を守るべく、すべての人間を排除しようとする。
一人の従兄弟の来訪により、二人と、伯父の生活は破綻を迎えますが、結果的に得たものは、以前住んでいた城よりも、もっと堅固な月だった。
人間心理が物語の中心なのですが(俗に言う、事件と言う事件は起きないため)、それにも関わらず、心境が殆ど描かれないのも、曖昧さが不気味です。
以下、ネタバレになります。
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結局、砒素を砂糖に入れて、家族を殺したのはメリキャット(妹)なのですが、その動機も語られません。姉である、コンスタンスが砂糖を使わないと知っていたので、姉だけは殺すつもりがなかった、姉だけは特別なのでしょうが、その理由も不明。実際食卓につけずに、部屋におしおきで閉じ込められた理由もわかりませんし。
そして、姉コンスタンスも、初めから誰が家族を殺したのかわかっているにも関わらず、メリキャットを憎むわけでもなく、むしろ大切にしている。従兄弟に対する関心や、影響の受け方を見ると、外の世界を拒絶していたのは、メリキャットのほうであり、コンスタンス自身は「このままではいけない」と思っていたことがわかります。それなのに、結局コンスタンスは、物語終盤に、火災にあった家の台所に留まり、メリキャットと暮らすことを選ぶ。
コンスタンスがどうしたいのか。メリキャットほど、「何をどうしたい」「どう変えたい」という強い欲求があるのではなく、漫然と生きていければそれで良かったのかもしれませんが、そこまで「意思がない」とは思えないのが、伯父に対する接し方です。
伯父は、砒素から生き残ってしまったたった一人の親族ですが、コンスタンスはその伯父の世話を、絶対にメリキャットにはさせません。伯父の部屋にもメキャリットは入れません。これは、明らかにメリキャットが伯父も殺そうとしていた、ということを、「理解」しているからであり、コンスタンスは全てに目を瞑った夢の住人ではない、ということを表しています。
それでも、コンスタンスはある意味全てを奪った妹と、暮らすことを選び、そして選び続ける。
メリキャット自身は、姉を独り占めにしたかったのか、さしたる理由もないままとにかく家族を殺したかったのかもよくわかりません。メリキャット自身からは、家族に対する憎しみなどは殆ど描かれないからです。歴史をなぞるように、家族について説明するだけで、だからこうしたのだ、という行動原理が語られないからです。
ただ、メリキャットは自分が家族を殺した、ということは理解していて、それなのにも関わらず「自分が家族を殺したから、姉が殺人犯として疑われ、独りになり、屋敷に閉じこもるはめになった」という気持ちはまったくない。
この、「殺人犯でなかったらまともといえないこともない」感情を、殺人犯であるメリキャットが平然と持っていることの、恐ろしさ。
物語そのものは、それほど怖かったり、読後感が悪いこともなかったんですが、メリキャットとコンスタンスの精神状態の不透明さが、際立った作品でした。思っていたより、本当に読みやすかったです。
そして、姉コンスタンスも、初めから誰が家族を殺したのかわかっているにも関わらず、メリキャットを憎むわけでもなく、むしろ大切にしている。従兄弟に対する関心や、影響の受け方を見ると、外の世界を拒絶していたのは、メリキャットのほうであり、コンスタンス自身は「このままではいけない」と思っていたことがわかります。それなのに、結局コンスタンスは、物語終盤に、火災にあった家の台所に留まり、メリキャットと暮らすことを選ぶ。
コンスタンスがどうしたいのか。メリキャットほど、「何をどうしたい」「どう変えたい」という強い欲求があるのではなく、漫然と生きていければそれで良かったのかもしれませんが、そこまで「意思がない」とは思えないのが、伯父に対する接し方です。
伯父は、砒素から生き残ってしまったたった一人の親族ですが、コンスタンスはその伯父の世話を、絶対にメリキャットにはさせません。伯父の部屋にもメキャリットは入れません。これは、明らかにメリキャットが伯父も殺そうとしていた、ということを、「理解」しているからであり、コンスタンスは全てに目を瞑った夢の住人ではない、ということを表しています。
それでも、コンスタンスはある意味全てを奪った妹と、暮らすことを選び、そして選び続ける。
メリキャット自身は、姉を独り占めにしたかったのか、さしたる理由もないままとにかく家族を殺したかったのかもよくわかりません。メリキャット自身からは、家族に対する憎しみなどは殆ど描かれないからです。歴史をなぞるように、家族について説明するだけで、だからこうしたのだ、という行動原理が語られないからです。
ただ、メリキャットは自分が家族を殺した、ということは理解していて、それなのにも関わらず「自分が家族を殺したから、姉が殺人犯として疑われ、独りになり、屋敷に閉じこもるはめになった」という気持ちはまったくない。
この、「殺人犯でなかったらまともといえないこともない」感情を、殺人犯であるメリキャットが平然と持っていることの、恐ろしさ。
物語そのものは、それほど怖かったり、読後感が悪いこともなかったんですが、メリキャットとコンスタンスの精神状態の不透明さが、際立った作品でした。思っていたより、本当に読みやすかったです。
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