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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『日の名残り』
様式美にやられた作品でした。
古きよき時代のヨーロッパ。
広大な土地を持つ貴族。
そこに使える初老の執事。
客は燕尾服をまとい、絵画を誉め、婦人は歌声を披露する。
最高でした。
本来ならば、アンソニー・ホプキンス演じる、初老の執事と、エマ・トンプソン演じる女中頭との、秘めたる恋愛が主軸なのかもしれませんが、それは別にどうでもいい。
この恋愛も、プラトニックを通り越して、常にお互いに期待しすぎの一方通行なのです。
映画を見ている側はそりゃわかります。なんとなく、この二人は好意を抱き合っているんだろうな、ということくらいは。
ですがそれは、実際の人たちにとっては「もしかして、この人は私のことを好きなのかしら」「もしかして、私はこの人のことが好きなのかしら」という期待にしか過ぎないのです。しかも、凄く淡い。
その期待が常にすれ違う。
あのとき優しい言葉をかけてもらえれば。
微笑んでもらえれば。
好きだと告げてくれれば。
結婚するなと言ってくれれば、私は貴方のそばにいたのに。

どちらも相手に同じような期待を抱き、そしてそれはどちらも叶わない。
ある意味、人の好意という一番わけのわからないものを、身勝手に期待してそれぞれは何も語らず別れるはめになるのです。
当然と言ったら当然ですね。
身分違いの恋というわけでもなく、大きな障害があるわけでもない。
それでも、互いに何も伝えずただ日々が過ぎてします。
それは、お互いの責任であり、もう少し素直になればというのは傍観者の発言にしか過ぎないわけです。

「この人は私のことが好きなんじゃないかしら」
というのは、現実には往々にして勘違いです。
ですが、第三者でありただの物語の閲覧者である我々は、そうではないということを知っている。
だが、物語の中の人物は知りうることができない。
そんなすれ違いは、二十年の年月を経てもまだ、埋めることはできずに存在し、男女は、別れの挨拶をしてそれぞれの生活に戻る。

実際、二人の心の機微と執事が勤める屋敷や時代背景はほぼ、半々ぐらいの割合で語られます。
二人の関係は、多少の物語性があるかもしれませんが、他は殆ど、アンソニー・ホプキンス演じる執事長の仕事っぷりがメインになります。
私にとっては、むしろそちらが主題でした。
窓を開ける。
銀器を磨く。
食事の際の給仕は常に背後に控え、鳴らされるベルに対応する。
主が読む新聞紙にアイロンをかけ、ゲストが扱う食卓は物差しを使って、食器の位置を寸分の狂いもなく整えていく。
そのプロフェッショナルな仕事の動き。
そして、そのプロが使える広大な屋敷の情景がたまりません。
私はもう、開始直後の狐狩りの様子で魂を抜かれました。
何処までも緑色に広がる草原。
赤や、黒の燕尾服を身にまとった男女。
山高帽をかぶった、紳士と淑女が、颯爽と駆け抜けていくその風景は、まさに様式美の極地でした。

しかしねえ、執事ってのはこうじゃないといけない。
もう、変に主人に話しかけたりとか、構ったりするのは執事じゃないんだよ!
執事は、主のこと全般を受け持つのではなく、「家」全てを取り仕切るのが仕事なんだよ!
だから絶対無駄口たたかないし、自分から主人に話しかけるなんてもってのほか!
主人に口答えなんてありえないし、何か質問されたとしても、答えはただひとつ。「申し訳ありません。私にはわかりかねます」これだけ! これだけでいいんだよ!!
そんじょそこらの、変にベタベタ関わってくる執事どもに、聞かせてやりたいくらいでした。
こういう執事なら、大歓迎だなあ。

ただ、アンソニー・ホプキンスは、ちょっと執事のイメージから遠いような気がしますが………。エマ・トンプソンは凄くイメージぴったりだったんだけど、こう、アンソニー・ホプキンスは、執事にしては主人オーラありすぎるというか。
ふてぶてしい感じは別にいいんですけど、なんだろう、こう体からにじみ出るオーラが隠しきれていないというか。
燕尾服そのものは、あれくらい肉付きが良くても全く構わないんですけどね。

古きよき時代(実際戦争中の話なので、全てが明るいわけではないですが)の様式美を楽しみたい方はぜひ。
ポワロとか、ホームズよりも、遥かに核の違う身分の様式美は見ごたえありですよ! 金持ちが正しい贅沢をしているさまはこうもかっこいいか!

最後まで見て気づいたのですが、エンドロールも意味があるんですね。
普通、アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソンが一位、二位を占めると思うんですが、これが違うんですよ。
一位が、長年執事が仕えていた相手。
そして二位が、新しく執事が仕える相手なんですよ。
アンソニー・ホプキンスはその後、三番目なんですね。
あくまで主人に仕える執事としての世界観を守った、エンドロールまで凝っていた作品でした。
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