「第三の時効」 横山秀夫
今まで、刑事物=西村京太郎くらいのイメージしかなかった私にとって、初めての警察小説になります。
これくらいの短編集の方が読みやすいですね。物語の起伏を楽しむといよりは、警察の人ってこんな感じの人間関係、職場なのか、という発見に近い楽しみ方のできた小説でした。
ただ、なんでどいつもこいつもこんなに粗暴なの。
よくヤクザ担当の刑事さんたちが、どっちがその筋の人なのかわからねえ、というのは笑い話なのか、事実なのかよく聞きますが、殺人担当の奴らも、ほぼ全員協調性もなければ、職場の人間関係円滑に回そうという気がかけらもない。
平気で足の引っ張り合いとかするし、事件解決もそれぞれの手柄だとかいってるし。
人一人殺されている場面で、協力して捜査をしないで、あっちの部署に首を突っ込ませるなとか言っている場面を見ると、奴らのプロ意識の感覚がよくわかりません。
言葉遣いは乱暴だし、すぐ怒鳴るし。
基本的に暴力とは無縁の世界で生きているし、これからも生きていたいと切に願うチキン野郎なので、警察内部のギスギスした感じが正直肌に合いませんでした。それぞれ私情挟みすぎだろう。犯人捕まえる前に仲たがいしてどうすんの。
話としては「囚人のジレンマ」が一番面白かったです。
直接現場に出ない、上の人の話なんですが、その上の人の車の行動さえも、記者の人たちは予想して記事にしたり、逆に自分の動きを利用して記者たちをひきつけて情報操作したりと、本当に咄嗟の判断力と、根本的な頭脳がないとやってられないな。
昔すっぱ抜かれた記者の人に、ババをひかせて、「ざまあみろ」とかほくそ笑んでる警察関係者って、もう、どんだけ個人主義なのか。
物語全体の特徴としても、特にお涙頂戴ものでもありませんし、ふりきれた警察関係者の人間関係や、調査姿を楽しむ、わりと淡白な小説だと思います。
「驟(はし)り雨」 藤沢周平
以前お勧めいただいたので読みました。
武士ではなく、実際に江戸の町に住んでいた町人の話がメイン。
わりとどれもどうしようもなく救われない話が多く、読後感はいいとはいえません。むしろ、「うわあこのまま終わったあ」という何ともいえない苦さも残るのもまた事実。
救われない話集ではないので、題名になっている「驟(はし)り雨」は幸せな未来が予想できる作品です。
そして、ネオロマの影がちらほら。
「遅いしあわせ」
という短編があるのですが、そこで飯屋に勤める出戻りの女の人が、店に来る客がちょっと気になる、みたいな描写があるんですね。
長身で広い肩幅を持ち、手は職人らしく無骨だった。いわゆるいい男というのではなかったが、眼に落ち着いた光があり、ひき結んだ口のあたりに男らしい気性がのぞいている。そして無口だった。笑うときにも、歯を見せずに眼だけで笑った。
「いらっしゃい」
おもんが声をかけると、男は微笑をむけて、飯と肴をくんな、と言った。
「肴は鯖の味噌煮といわしの焼いたのと、どちらにします?」
「いわし」
男は短く言った。小声だった。
「味噌汁は大根ですよ」
おもんがそう言うと、男はもう一度あっさりした微笑を向けた。男は千切り大根の味噌汁が好きなのだ。
私はこの一連の描写だけで、重吉に惚れましたよ………。
まさかこの手の小説に、日常描写でくらっとくる表現があるとは思わなかった。無骨な男が味噌汁の具が好きな大根だったからって、笑うんですよ。お前何それ反則!
外見の説明も、具体的に目鼻の形がどうの、という説明ではないのがいいですね。ひき結んだ口元、とかいいなあそういう表現。
今まで、刑事物=西村京太郎くらいのイメージしかなかった私にとって、初めての警察小説になります。
これくらいの短編集の方が読みやすいですね。物語の起伏を楽しむといよりは、警察の人ってこんな感じの人間関係、職場なのか、という発見に近い楽しみ方のできた小説でした。
ただ、なんでどいつもこいつもこんなに粗暴なの。
よくヤクザ担当の刑事さんたちが、どっちがその筋の人なのかわからねえ、というのは笑い話なのか、事実なのかよく聞きますが、殺人担当の奴らも、ほぼ全員協調性もなければ、職場の人間関係円滑に回そうという気がかけらもない。
平気で足の引っ張り合いとかするし、事件解決もそれぞれの手柄だとかいってるし。
人一人殺されている場面で、協力して捜査をしないで、あっちの部署に首を突っ込ませるなとか言っている場面を見ると、奴らのプロ意識の感覚がよくわかりません。
言葉遣いは乱暴だし、すぐ怒鳴るし。
基本的に暴力とは無縁の世界で生きているし、これからも生きていたいと切に願うチキン野郎なので、警察内部のギスギスした感じが正直肌に合いませんでした。それぞれ私情挟みすぎだろう。犯人捕まえる前に仲たがいしてどうすんの。
話としては「囚人のジレンマ」が一番面白かったです。
直接現場に出ない、上の人の話なんですが、その上の人の車の行動さえも、記者の人たちは予想して記事にしたり、逆に自分の動きを利用して記者たちをひきつけて情報操作したりと、本当に咄嗟の判断力と、根本的な頭脳がないとやってられないな。
昔すっぱ抜かれた記者の人に、ババをひかせて、「ざまあみろ」とかほくそ笑んでる警察関係者って、もう、どんだけ個人主義なのか。
物語全体の特徴としても、特にお涙頂戴ものでもありませんし、ふりきれた警察関係者の人間関係や、調査姿を楽しむ、わりと淡白な小説だと思います。
「驟(はし)り雨」 藤沢周平
以前お勧めいただいたので読みました。
武士ではなく、実際に江戸の町に住んでいた町人の話がメイン。
わりとどれもどうしようもなく救われない話が多く、読後感はいいとはいえません。むしろ、「うわあこのまま終わったあ」という何ともいえない苦さも残るのもまた事実。
救われない話集ではないので、題名になっている「驟(はし)り雨」は幸せな未来が予想できる作品です。
そして、ネオロマの影がちらほら。
「遅いしあわせ」
という短編があるのですが、そこで飯屋に勤める出戻りの女の人が、店に来る客がちょっと気になる、みたいな描写があるんですね。
長身で広い肩幅を持ち、手は職人らしく無骨だった。いわゆるいい男というのではなかったが、眼に落ち着いた光があり、ひき結んだ口のあたりに男らしい気性がのぞいている。そして無口だった。笑うときにも、歯を見せずに眼だけで笑った。
「いらっしゃい」
おもんが声をかけると、男は微笑をむけて、飯と肴をくんな、と言った。
「肴は鯖の味噌煮といわしの焼いたのと、どちらにします?」
「いわし」
男は短く言った。小声だった。
「味噌汁は大根ですよ」
おもんがそう言うと、男はもう一度あっさりした微笑を向けた。男は千切り大根の味噌汁が好きなのだ。
私はこの一連の描写だけで、重吉に惚れましたよ………。
まさかこの手の小説に、日常描写でくらっとくる表現があるとは思わなかった。無骨な男が味噌汁の具が好きな大根だったからって、笑うんですよ。お前何それ反則!
外見の説明も、具体的に目鼻の形がどうの、という説明ではないのがいいですね。ひき結んだ口元、とかいいなあそういう表現。
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