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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『グラン・トリノ』公式サイト

ジョナサンのステーキ丼は予想外に美味しかったです。
とても美味でした。
いえ、これは映画を見終わった後の思い出なのですが、肝心の映画そのものはわりと普通の映画でした。
別につまらないとか、そんなことはなかったんですが、基本的にエキサイティングする映画ではないし、話の展開やそれこそキャラクターに関しては、ある種使い古された感があるので、感想にしろなんにしろ騒ぐような話ではありません。

うーん、クリント・イーストウッド映画と相性が悪いのかもしれませんね。悪い、というと大げさですが、あれだけ評判になった『ミリオンダラー・ベイビー』も個人的には、そこまで騒ぐほどの映画じゃない(ボクシングシーンと、戦う相手の迫力は最高だったけど)と思いましたし。

戦争の記憶が残るアメリカ。移民や人種差別発言をガンガンする、偏屈な壮年男性が、妻を失うところから物語は始まります。
あらゆることが気に入らず、人を見ては眉間にしわを寄せる男は、当然隣人であるモン族の移民も気に入りません。
かたくなな態度は家族にも現れ、男は孤独に生きています。
そんな中、ふとした折に、男の芝生でモン族の不良たちが争いを起こし、結果隣人を助けるはめになってしまいます。
その後、感謝の印だと、モン族の人間たちと親しくなっていく男。
ですが、男が大切にしている名車、グラン・トリノを隣人の少年、タオが不良グループに強制されて盗みに入ってしまいます。
結果失敗し、タオはつぐないのために、男と付き合うことになるのですが………。

というのが、非常にあっさりした大まかなあらすじ。
タオとその姉のスーを中心に、男は交流を深めていきます。
ただ、タオやスーを付けねらう、モン族の不良たちが、必死になって自立しようとしているタオにちょっかいを出し、それを黙らせた男の報復として、タオの家は銃撃を受け、そしてスーはレイプされてしまいます。
復讐に燃えるタオ。自らの行いを間違っていたのかと一人悩む男。
結果、男はタオを地下室に閉じ込め、一人で不良たちのいる場所へ向かいます。
「火をつけさせてくれ」
男が自らの懐に手を伸ばした時、いっせいに銃が火を噴き、不良たちの放った弾丸は男を撃ちぬきます。
転がる男の身体。取り出された手のひらにはいつも使っていたライターが握られていました。
男は、戦争の傷をひきずっています。殺すことはできますが、「命令ではなく自ら殺した」ことをずっと思いながら生きています。
そんな男が、余命いくばくもない自分の終末を、殺すことではなく、殺されることで、タオを生かそうとした。
結果、不良たちは長期刑に処されます。
男亡き後、遺言状には、「我が友、タオにグラン・トリノ譲る」と書かれていました。

事件が起こるのは、タオの家が襲撃されてからで、それはもう物語の中ではかなり終盤にさしかかってからです。
尺を取って描かれているのは、男がいかに偏屈であるか。タオとスーとの関わり方。情けない少年だったタオが、胸を張って一人の男に「自分がしてやろう」という男の行動。
今まで自分が歩んできた数十年の間に積み重ねてきたもの。室内の無数の工具。口の減らない友人。磨かれたグラン・トリノと芝生。世界で最も美しい妻。そんな男の人生(生活に根ざした)が、暴力シーンでも、ざんげでもなく、多く描かれているのが、この映画の本質なのでしょう。

特に上手かったのは会話の妙ですね。
日常会話もウィットに富んでいて(元々向こうの会話は、口を開けば小粋なジョーク(笑)みたいな表現が似合いますが)、大笑いはせずとも、にやりとさせられるシーンはいっぱいあります。
男が何らかの決意を固めて、あれほど避けていたざんげに来た際も「昔妻がいるのにキスをした」とか「ボートを売ったけど税金を申告していない」とか言ってしまい、真相を知る神父が「それだけ? ならとりあえず祈っとけ」みたいな感じで、とっととざんげを終わらせようとする様とか、シュールなんですが、互いの必死さと決意が伝わってきて、妙に笑えます。

神父は地味な役なんですが、男の罵詈雑言にもめげず、それでいて宗教臭くない肝っ玉の据わった27歳の新米童貞なので、見ていて入り込みやすかったです。
「あのクソ野郎どもを、どうする気です」
男の復讐を予感し、必死にそれを食い止めようとする様は、神父ではなく一人の人間として尊敬できます。

感想を書いている分にはいいんですが、実際のところは、「どうしてこう馬鹿な奴らが山ほどいるんだ! あんな奴全員埋めちまえ! どうして徒党を組んでブラザーでいきがって馬鹿じゃないのか脳みそおかくずか!」と、憤ったまま終わった感じでした。

だってまだティーンの女の子をですよ!? いとこがですよ!? 乱暴してレイプしてボコボコにしてって、それありえるわけ!? もう更生とかそんな問題じゃないだろう!?
あんな奴らはトレーラーで全員つぶしてやればいい、とそればかり思っている間に、映画は終わりました。
いえ、本来ならば、秀逸な日常描写を楽しむべきなんでしょうが、どうも怒りの沸点が低いものでつい。

知り合いは、最近自己犠牲による救済、みたいな映画を立て続けに見たらしく、それにはうんざり、そりゃ自分は死んで後のこと考えなくていいんだから気持ちいいかもしれないけどさあ、と若干この手のオチに飽食気味だったらしいのですが、この映画はあっさりそれが見られた、とのことでした。
何が違うのだろう、と考えてみたんですが、やはりこれは感動の物語ではないからではないかと。
男は別に感動するためにタオと付き合うわけでもないし、「自らの孤独を埋める」ためにモン族たちを守るわけではない。自分が気に入らないから、結果として不良どもをのしただけであって、その結果得られるものは自らの幸福であって、他人のためでもなんでもなかった。
最初から最後まで、ある種利己的な男が起こす行動が、利己的であるのは道理。
だから、そこには気持ちよさとか、お涙頂戴の感動ではなく(強く主張したいのはそんなことではなく)ただ、男が選んだ結果があるたけで、それに対して嫌な思いをするわけがない、ということなのかなあ、と思いました。
「あいつらがいる限り、タオは救われない」
タオのためであり、スーのためであるんですが、そこに至るまでの過程が、徹頭徹尾わがままな自分が選んだものだから、というあたりが、変に偽善ではなく、よかったのではないかと。

クリント・イーストウッドはこれで映画見納めらしいですが、いやあ、でも本当に年取りましたね。痩せているんですが、それでも歳を取ってたるんだ皮膚が太って見える姿は、なんだか、時代の流れを感じました。
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