『シンデレラマン』
知り合い大好き。ラッセル・クロウの主演作品。
ちなみに私は、ラッセル・クロウはどちらかといえば好みじゃありません。(ただ顔の問題)
時は大恐慌の時代。
かつて無敵を誇ったハードパンチャーのジミーも、不景気の中日雇い労働で家族を養う日々が続いていた。
電気も、ガスも止められ、ミルクは配達されなくなる。
ミルクを水で薄め、請求書の山が見守る生活を、妻と子供三人と続けているジミー。
貧しくとも、厳しく正しい彼は、よき夫であり、よき父であった。
「いいか、人のものを獲ってはいけない。それは泥棒だ」
「はい」
「約束するか?」
「約束します」
「じゃあ、パパも約束しよう。決してお前を他所にはやらない。ずっと、一緒だ」
ピークも過ぎた彼の試合は、常にブーイングの嵐が起こり、ついにコミッショナーは彼のライセンス剥奪を告げる。
「家族のもとへ帰れ」
「帰れ? 何も持たず? 勝利も、金も?」
骨折した腕だけを抱え、彼は帰宅する。
「靴墨でギプスを塗れば、ばれない。俺が二倍働くから、大丈夫」
「あなた」
「すまない」
「あなた」
「すまない」
「謝らないで」
貧しさの中でも、彼には幸せがあった。
「何故、俺と結婚した?」
「そうね。他に山ほど男がいたのに、なぜかしら」
そんな中、息子の具合が悪くなる。
見かねた妻は、子供たちを親戚の元へ預けてしまう。
「俺は約束したんだ。絶対他所へはやらないと。子供たちがいなければ、俺は何のために働くのかわからない」
ジミーは周囲の目を無視し、救済局へ足を運ぶ。
「貴方が来るなんて」
その足で、かつてのコミッショナーたちが集う、マディソン・スクウェア・ガーデンへ向かう。居並ぶスーツの男たち。みすぼらしいジミー。静まり返る室内で、ジミーは帽子を脱ぎ、訥々と語る。
「日雇いの仕事も少なくなりました。救済局へも行きました。でも、電気が通るには、あと12ドル足りません。他にあてがあれば、ここには来ません。………援助していただければ、嬉しいのですが………」
かつての二階級制覇した王者が、静かな声で言う。
「いいとも」
「ジミー、頑張れよ」
古ぼけた帽子に、小銭が投げ入れられる。
どんな意味合いを持つものだとしても、それはジミーにとって、子供たちとまた暮らせるための手段になりえるものだった。
月日は流れ、ジミーの元に、元マネージャーであるジョーが現れる。一度限りの試合に出てみないか、と。
「相手役が急遽欠場になった。今からでは、相手は見つからない。それに………」
「金は?」
「250ドル」
絶対に勝てない。負け戦だとジョーは言う。
ボクシングの道具すら全て売り払ったジミーは、それでも試合に参加することを決める。
「子供たちに少しは楽をさせてあげられるし、この場所への別れにもなる」
配給食にあぶれたジミーは、犬のように、持ってこられたハッシュをがっつく。そこに現れたスポーツ記者は、ジミーの引退試合をあげつらった記者だった。
「駄ボラを書け」
記者は、こう書き出した。
「ジミーがまともに歩けたのは、ロッカールームから、リングに上がるまでだった」
ジミーは結果、3Rで相手をKOする。
ハッシュをがっつくジミーに、歓喜に咽ぶジョーが叫ぶ。
「あの左は?」
「右手が骨折した時、左手で働いたからだらよ。自然に鍛えられた」
一度限りの試合が終わり、ジミーは家族の元へ帰り、そしてまた日雇いに向かう。
「賞金が250ドル。取り分は123ドル。借金が118ドル。俺の手元に残ったのは5ドル」
「金持ちだな」
「この辺ではね」
「いい試合だった」
ジミーの元に、ライセンスを取り戻すための、トレーニング費用がジョーから渡される。
次は、骨折ではすまないと、心配する妻・メイ。
「二度目のチャンスだ。つかまないと。リングでの苦しみなら、耐えられる」
夫をジョーの道具にはさせないと、乗り込んだメイが見たものは、一切の家財道具を売り払い、それをジミーに渡したジョーの姿だった。
「虚勢をはってたのさ」
「何かを決めたご主人を止めることができて?」
「止めたいわ」
「女は男の決意を見守るだけ。そして男は女を失望させたと悩む。でも悪いのは世の中よ」
妻二人は、何もない部屋の中で向かい合い笑った。
ジョーはジミーのライセンスを復活させる。
再試合が決まったジミーは黙々とトレーニングに励んだ。
続く試合。
ついに、チャンピオンへの挑戦が決まる。
「何のために戦うのか」という、記者の問いにジミーは一言答えた。
「ミルク」
チャンピオンが相手を殺した試合を、コミッショナーが見せるが、ジミーはそれに冷ややかに答える。
「何が言いたい? ボクシングは危険だってことか? 港での労働だって危険だ。あんたは金を稼ぐ辛さを知らない。ボクシングは俺の職業だ。俺はまだー恵まれている」
不安ばかりが募るメイ。
「いつも祈ってたのよ。ほどほどに怪我をしてボクシングができなくなるようにって。いつか、死ぬ日が来るからと」
「無事でいるためにも金が要るんだ」
「選手としての貴方を黙って支えてきたわ。でもこの試合だけは嫌よ。試合は棄権して。手の骨を折ってでも」
試合当日、協会で祈りをささげようとしたメイの目に、必死にジミーの勝利を祈る、大勢の市民の姿が映る。
控え室に、今まで試合会場に来たことがなかった、メイの姿があった。
「私の支えがないと、勝てないわ」
「そうとも、メイ」
「わかった気がするの。貴方が何のために戦うのか。貴方はニュージャージーの星。子供たちのヒーロー。私の心のチャンピオンよ」
「帰ったほうがいい。ボクサーなんてろくなもんじゃないから」
「家で待ってるわ。だから、ジミー、必ず帰ってきて」
食料の無料配給に並んだ男が挑む、チャンピオン戦。
選んだ末の、勝利。
得たものは、タイトルと―カメ。
実に真面目な作品。
ジミーは激昂しない。唯一、子供が自分の元から去ってしまったとき以外。淡々と働き、プライドなど物ともせず、わずかな金のために他人に頭を下げる。
彼にとってボクシングは夢でも、名誉でも、自らの力を鼓舞するものでもない。
ただ、糧を得るための手段なのだ。
そして、その糧は彼が最も大切である、家族を支えるために必要なものであり、それこそが、彼の生そのものなのである。
これは、戦う男の物語ではない。
働くことは戦うことなのだと自ら体現する男の物語なのだ。
ボロ泣きしました。
特に、前半の恐慌時代の貧しさ描写は、痛々しくて見ていられませんでした。その中でもメイや、ジミーが必死で生きていこうとする姿が、逆にとても辛く見えます。
もう、かつての仲間たち相手に、静かに施しを求めるシーンでは、もう涙で前が見えませんでした。ジミーが情けないのではなく、逆にジミーのその態度が誇らしくて。
普通なら、そんなことできるかよ、プライドだけは捨てないぜというのが、男らしさなのかもしれませんが、そんな姿で腹は膨らまないぜ、とばかりに帽子に入れられた金を数えるジミーの姿は、そりゃ、情けないのかもしれません。
家族すら食わせられない男に、甲斐性はないのかもしれない。
でも、そんなんじゃないんだよ! そうじゃなくって、それでも生きていくのに、当たり前だけどできないことをやってのける姿っていうのは、誰にもバカにされるもんじゃないし、むしろ誇って当然なんだよ!
ジミーがそれなりに、ボクシングで活躍できるようになっても、彼の根っこは常に変わらないので、「何のために戦うのか」「ミルク」のくだりはぞくっときました。
派手な試合ではなく、ジミーや彼を取り巻く家族は勿論、トレーナーのジョー。冷徹なコミッショナー。友人に、その妻など、周囲を固めるキャラクターも多彩です。
………ただ、だ。
ボクシングシーンが面白くない………………。
臨場感がないというか、それこそ最終戦なんか、10R以上戦っているのに、序盤と全く変わらない様子(外見的に)ってそれ、おかしいだろうよ。
相手の得意なスタイルでの特色も出ていないし、試合そのものは見ていて面白くありませんでした。結構な尺を取ってるし、ボクシングがメインなのですから、もう少し肝心の試合演出をどうにかして欲しかったところです。
ジミー演じる、ラッセル・クロウも、チャンピオンの役者さんも、どう見てもボクサーには見えないなあ………。
他は演出も、台詞も、地味ですがグっとくるのに、逆に派手であるはずの試合が足を引っ張っている、という感じでした。惜しいなあ。
知り合い大好き。ラッセル・クロウの主演作品。
ちなみに私は、ラッセル・クロウはどちらかといえば好みじゃありません。(ただ顔の問題)
時は大恐慌の時代。
かつて無敵を誇ったハードパンチャーのジミーも、不景気の中日雇い労働で家族を養う日々が続いていた。
電気も、ガスも止められ、ミルクは配達されなくなる。
ミルクを水で薄め、請求書の山が見守る生活を、妻と子供三人と続けているジミー。
貧しくとも、厳しく正しい彼は、よき夫であり、よき父であった。
「いいか、人のものを獲ってはいけない。それは泥棒だ」
「はい」
「約束するか?」
「約束します」
「じゃあ、パパも約束しよう。決してお前を他所にはやらない。ずっと、一緒だ」
ピークも過ぎた彼の試合は、常にブーイングの嵐が起こり、ついにコミッショナーは彼のライセンス剥奪を告げる。
「家族のもとへ帰れ」
「帰れ? 何も持たず? 勝利も、金も?」
骨折した腕だけを抱え、彼は帰宅する。
「靴墨でギプスを塗れば、ばれない。俺が二倍働くから、大丈夫」
「あなた」
「すまない」
「あなた」
「すまない」
「謝らないで」
貧しさの中でも、彼には幸せがあった。
「何故、俺と結婚した?」
「そうね。他に山ほど男がいたのに、なぜかしら」
そんな中、息子の具合が悪くなる。
見かねた妻は、子供たちを親戚の元へ預けてしまう。
「俺は約束したんだ。絶対他所へはやらないと。子供たちがいなければ、俺は何のために働くのかわからない」
ジミーは周囲の目を無視し、救済局へ足を運ぶ。
「貴方が来るなんて」
その足で、かつてのコミッショナーたちが集う、マディソン・スクウェア・ガーデンへ向かう。居並ぶスーツの男たち。みすぼらしいジミー。静まり返る室内で、ジミーは帽子を脱ぎ、訥々と語る。
「日雇いの仕事も少なくなりました。救済局へも行きました。でも、電気が通るには、あと12ドル足りません。他にあてがあれば、ここには来ません。………援助していただければ、嬉しいのですが………」
かつての二階級制覇した王者が、静かな声で言う。
「いいとも」
「ジミー、頑張れよ」
古ぼけた帽子に、小銭が投げ入れられる。
どんな意味合いを持つものだとしても、それはジミーにとって、子供たちとまた暮らせるための手段になりえるものだった。
月日は流れ、ジミーの元に、元マネージャーであるジョーが現れる。一度限りの試合に出てみないか、と。
「相手役が急遽欠場になった。今からでは、相手は見つからない。それに………」
「金は?」
「250ドル」
絶対に勝てない。負け戦だとジョーは言う。
ボクシングの道具すら全て売り払ったジミーは、それでも試合に参加することを決める。
「子供たちに少しは楽をさせてあげられるし、この場所への別れにもなる」
配給食にあぶれたジミーは、犬のように、持ってこられたハッシュをがっつく。そこに現れたスポーツ記者は、ジミーの引退試合をあげつらった記者だった。
「駄ボラを書け」
記者は、こう書き出した。
「ジミーがまともに歩けたのは、ロッカールームから、リングに上がるまでだった」
ジミーは結果、3Rで相手をKOする。
ハッシュをがっつくジミーに、歓喜に咽ぶジョーが叫ぶ。
「あの左は?」
「右手が骨折した時、左手で働いたからだらよ。自然に鍛えられた」
一度限りの試合が終わり、ジミーは家族の元へ帰り、そしてまた日雇いに向かう。
「賞金が250ドル。取り分は123ドル。借金が118ドル。俺の手元に残ったのは5ドル」
「金持ちだな」
「この辺ではね」
「いい試合だった」
ジミーの元に、ライセンスを取り戻すための、トレーニング費用がジョーから渡される。
次は、骨折ではすまないと、心配する妻・メイ。
「二度目のチャンスだ。つかまないと。リングでの苦しみなら、耐えられる」
夫をジョーの道具にはさせないと、乗り込んだメイが見たものは、一切の家財道具を売り払い、それをジミーに渡したジョーの姿だった。
「虚勢をはってたのさ」
「何かを決めたご主人を止めることができて?」
「止めたいわ」
「女は男の決意を見守るだけ。そして男は女を失望させたと悩む。でも悪いのは世の中よ」
妻二人は、何もない部屋の中で向かい合い笑った。
ジョーはジミーのライセンスを復活させる。
再試合が決まったジミーは黙々とトレーニングに励んだ。
続く試合。
ついに、チャンピオンへの挑戦が決まる。
「何のために戦うのか」という、記者の問いにジミーは一言答えた。
「ミルク」
チャンピオンが相手を殺した試合を、コミッショナーが見せるが、ジミーはそれに冷ややかに答える。
「何が言いたい? ボクシングは危険だってことか? 港での労働だって危険だ。あんたは金を稼ぐ辛さを知らない。ボクシングは俺の職業だ。俺はまだー恵まれている」
不安ばかりが募るメイ。
「いつも祈ってたのよ。ほどほどに怪我をしてボクシングができなくなるようにって。いつか、死ぬ日が来るからと」
「無事でいるためにも金が要るんだ」
「選手としての貴方を黙って支えてきたわ。でもこの試合だけは嫌よ。試合は棄権して。手の骨を折ってでも」
試合当日、協会で祈りをささげようとしたメイの目に、必死にジミーの勝利を祈る、大勢の市民の姿が映る。
控え室に、今まで試合会場に来たことがなかった、メイの姿があった。
「私の支えがないと、勝てないわ」
「そうとも、メイ」
「わかった気がするの。貴方が何のために戦うのか。貴方はニュージャージーの星。子供たちのヒーロー。私の心のチャンピオンよ」
「帰ったほうがいい。ボクサーなんてろくなもんじゃないから」
「家で待ってるわ。だから、ジミー、必ず帰ってきて」
食料の無料配給に並んだ男が挑む、チャンピオン戦。
選んだ末の、勝利。
得たものは、タイトルと―カメ。
実に真面目な作品。
ジミーは激昂しない。唯一、子供が自分の元から去ってしまったとき以外。淡々と働き、プライドなど物ともせず、わずかな金のために他人に頭を下げる。
彼にとってボクシングは夢でも、名誉でも、自らの力を鼓舞するものでもない。
ただ、糧を得るための手段なのだ。
そして、その糧は彼が最も大切である、家族を支えるために必要なものであり、それこそが、彼の生そのものなのである。
これは、戦う男の物語ではない。
働くことは戦うことなのだと自ら体現する男の物語なのだ。
ボロ泣きしました。
特に、前半の恐慌時代の貧しさ描写は、痛々しくて見ていられませんでした。その中でもメイや、ジミーが必死で生きていこうとする姿が、逆にとても辛く見えます。
もう、かつての仲間たち相手に、静かに施しを求めるシーンでは、もう涙で前が見えませんでした。ジミーが情けないのではなく、逆にジミーのその態度が誇らしくて。
普通なら、そんなことできるかよ、プライドだけは捨てないぜというのが、男らしさなのかもしれませんが、そんな姿で腹は膨らまないぜ、とばかりに帽子に入れられた金を数えるジミーの姿は、そりゃ、情けないのかもしれません。
家族すら食わせられない男に、甲斐性はないのかもしれない。
でも、そんなんじゃないんだよ! そうじゃなくって、それでも生きていくのに、当たり前だけどできないことをやってのける姿っていうのは、誰にもバカにされるもんじゃないし、むしろ誇って当然なんだよ!
ジミーがそれなりに、ボクシングで活躍できるようになっても、彼の根っこは常に変わらないので、「何のために戦うのか」「ミルク」のくだりはぞくっときました。
派手な試合ではなく、ジミーや彼を取り巻く家族は勿論、トレーナーのジョー。冷徹なコミッショナー。友人に、その妻など、周囲を固めるキャラクターも多彩です。
………ただ、だ。
ボクシングシーンが面白くない………………。
臨場感がないというか、それこそ最終戦なんか、10R以上戦っているのに、序盤と全く変わらない様子(外見的に)ってそれ、おかしいだろうよ。
相手の得意なスタイルでの特色も出ていないし、試合そのものは見ていて面白くありませんでした。結構な尺を取ってるし、ボクシングがメインなのですから、もう少し肝心の試合演出をどうにかして欲しかったところです。
ジミー演じる、ラッセル・クロウも、チャンピオンの役者さんも、どう見てもボクサーには見えないなあ………。
他は演出も、台詞も、地味ですがグっとくるのに、逆に派手であるはずの試合が足を引っ張っている、という感じでした。惜しいなあ。
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