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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『山桜』
じんわり泣けました。
私のことなので、藤沢周平原作ともなれば、号泣しかないだろうと覚悟していたんですが、そんな映画ではなかったです。
前の夫に早くに死なれ、すぐに望まれぬ結婚をして、嫁ぎ先で辛い思いをしている女。
その女をかげながら思ってきた、寡黙な男。
その二人の生き様、むしろ女が自分の幸せをどう自覚していくか、という映画なので、男と女の恋愛を描くという愁嘆場はなく、人生を見つけていくという、ヒューマン映画でした。

音楽少なく、言葉少なく進む映画なので、90分は妥当。これ以上長ければだれますし、短いと景色などの余韻が薄れます。

女は、結局離縁を言い渡され、実家に戻されます。
思うのは、ある春の日に山桜の枝を手折ってくれた男の存在。
「今、お幸せですか?」
そう尋ねられて、
「はい」
と答えてしまった自分。
枝を渡した男は、藩の財源を私物化しようとしていた権力者を一人で斬り、今は沙汰を待って一人牢屋に座している。
女は、自分と同じように生涯独身で通したおばの存在を思う。おばは、幸せだったのだろうと。一人の人を思い続けていられたのだから。
自分とは違うのだ、そう自虐的に笑う女に、母は言う。
「そんなことはありませんよ。貴方は、少し遠回りしているだけなのですよ」
「今度、この家から貴方が出て行くときは、貴方にとって本当に幸せになれる道を見つけたときだけです」

冬が過ぎ、春が訪れる。
咲いた山桜の枝を持ち、女は男の実母の家に行く。
「あの子はいつも申しておりましたよ。貴方が嫁いでしまったと、腹立たしげにね」
刃傷沙汰を起こしてしまった家には誰も訪れることはなく、来てくれて嬉しいと微笑む男の母親の前で、女は初めて涙を流した。

うっすらと時は流れ、男の運命を握る殿が参勤交代から戻る。
咲き誇る山桜。
女と、男の母はちまきを作りながら顔を見合わせて笑う。

ここで物語りは終わります。
ある意味尻切れトンボなのですが、ここで幸福な未来を想像するか否かは、皆様にお任せ、ということなのでしょう。

ただ、映画にある、「続きは貴方の心の中で」は、「語られないが絶対に幸せになった」であろうものと、「語られないけれど幸せになったといいな」では、全然意味合いが違うのです。
確かに、女は自分の生き方を見つけ、男も自分の生き方を全うした。
春の訪れは輝かんばかりに明るく、美しい。
けれど、そこには絶対の幸せは保証されていない。
通常ならば、切腹を申し付けられてその菩提を女が弔う、が待っている未来だともとれる終わり方が想像できてしまう以上、それはやはり、ハッピーエンドになりきれない物語なのだと思います。
なんかこう、それはそれで確かにリアルですし、物語として美しい終わり方(余韻)なのかもしれませんが、この歳になってくるともう、ハッピーエンドは明確にハッピーでないと見ていて辛いです。(泣笑)
スピリチュアルな面だけでは幸せでした、ってもう、おためごかしにしか思えないっていうか。精神面とか捉え方の上での幸せなんてそんなもん、どんな不幸だって理由付けして、幸せにできちゃうじゃないかよ。

せめてなあ、男を慕う人間たちが全員顔を見合わせて破顔する、とか、そんな場面が一瞬でも入れば、確実に「死なずに幸せになった」んだ、って納得できたのになあ、と即物的な私は思いました。

言葉少ないだけに、一つ一つの言葉に飾り気がなく、すっと自然に入ってくる会話はすごく秀逸でした。誰も彼もが日常生活で詩人みたいな会話を繰り広げていたら、笑っちゃって感動できないです。特に時代劇である以上、アメリカンのような引用はいらん。

男は殆ど何も語らず、一人で事を起こします。
それは確かに、刀で語るべく侍としては立派であり、侍としてあるべき姿だったのかもしれませんが、ここで注目すべきはその前にしっかりと、私欲に対して異を唱える侍がいる、というところでしょうか。
別に主要人物ではありませんし、物語に深く絡んでくるわけではありませんが、現代社会で生きている私から見ると、ある意味、自分の好き勝手にできた男よりも、公の場で政策の間違いに異を唱え、農民の暮らしを必死で守ろうとし、自分の上司にかけあい、そして上告しようと、刀を振るう以外で自らの仕事を全うしようとした侍の生き様も、凄く泣けました。
その人は、最後自首しようとする男に、深々と頭を下げるのですが、むしろ、男はそれを怪訝そうな顔で見つめるのです。
男は、その相手のためにやったわけではない。自らの価値観に照らし合わせて、許せないと思ったから実行に移しただけ。頭を下げられる覚えはないというように。
それだけ見ても、自分の思うがままに生きた男と、自分の思いすら必死に抑えながらも、社会を成り立たせようとした男の、生き方の違いがわかって、凄く感動しました。どうしても、こういう中間管理職的な人は、応援したくなっちゃうなあ。

男は東山紀之で好演。言葉少なく刀で己の生き様を現すような男は、まさにぴったりでした。逆を言えば渋みとか、地べたをはいつくばって生きる男なんかは、生活観がない東山さんにはちょっと無理だろうしなあ。
女の母は檀ふみ。男の母は富司純子。お二人とも出番は少ないながらも、圧倒的な存在感でした。言葉を荒げるわけでもなく、強く何某かを主張するわけでもない。それでも、物語にとっても、男と女にとっても、絶対的に必要だった二人の母親。
ヒロイン含め、女の演出も非常に上手な作品でした。
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