泡坂「あ」
澤田「あ?」
「あれー? 澤田さんじゃないですか」
「あ、泡坂か?」
「なんでこんなところにいるんです?」
「それは俺の台詞だ。ここは俺の通学路だぞ」
「あ、そうか。澤田さんの大学ここから近いんでしたっけね。しかし………」
「なんだ?」
「澤田さんの口から通学路なんて言葉が出てくると、笑えます」
「じゃ、なんて言えばいいんだ………」
「なんでしょうねえ」
「で、結局お前はここで何してるんだ。俺の大学に用事か?」
「いえ、そうじゃないんですよ。そうだ、澤田さん今時間ありますか?」
「俺か? 俺は大学が終わって帰るところだから、特に何もないが………」
「じゃ、ちょっと付き合いませんか? 私これから行くところがあるんですが、一人じゃちょっと不安だったので」
「別に構わないが………。俺が行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思いますよ。駄目だったら帰ってください」
「なんでお前はそうなんだ」
「まあいいじゃないですか。心細かったのは事実なので、澤田さんに偶然会えてよかったです」
「………泡坂、お前まさか………行き先は、医者じゃあるまいな!」
「澤田さんはこういうときばかり想像力が発達しすぎですよ! 医者に行くのに何故野郎をわざわざ誘わなきゃならないんですか!」
「いや、心細いとか不安とか言うからだろう!? 普段お前がそんなこと言わないから、何事かと思ったんだ! あ」
「あ?」
「そうでもないか。ほら、以前夏祭りでの肝試しのときは………」
「ねじりとられたいんですか、澤田さん。それ以上行ったら凄いことになりますよ」
「お前怖い!」
「あ、着きました。ここですここです」
「………普通の民家に見えるが………」
「そうですね」
「で、結局ここはなんなんだ。あれか、占いの館か?」
「違います。私占いはめざましテレビくらいしか見ません」
「じゃあ、あれかカウンセリングか」
「澤田さんは私のことなんだと思ってるんですか?」
「え、いや、別に」
「いいですもう。別に。じゃあ入りますよ」
「………結局、中も普通の民家に見えるが」
「民家を改造したまつげエクステンションのお店です」
「なんだそれ?」
「まつげのエクステンションのお店」
「だからエクステンションってなんだ。生理学では、重力に逆らう方向に関節を延ばす動作だが」
「何故私がよそ様の民家で関節伸ばさなきゃならないんですか。エクステンションは要するに、付け毛ですよ。髪の毛とかの」
「? でもまつげなんだろう?」
「だから、まつげの付け毛なんですよ」
「まつげに付け毛? なんだそれ。なんでそんなことするんだ? まつげってハゲるのか? というか泡坂のまつげははげてるのか!?」
「………澤田さんはもう黙っててください。まつげのおしゃれですよ、要するに。ボリュームを増やして、ビューラーとかマスカラとかなくてもきれいに見えるように」
「………そんな手間をかけるのか………まつげに………。女性は大変だな。俺はまつげなんて20年以上生きてきて意識したことなど一度もないが」
「まあ、男性はそうかもしれませんが。あ、今日はよろしくお願いしま………」
池波「あ、お客様ですか」
「!?」
「!?」
「なんだ、泡坂と澤田じゃねえか。偶然だな。お前らも施術受けにきたのか? って澤田は違うな」
「というか、なんで貴方がこんなところにいるんですか!?」
「お前がまつげ増やすのか!?」
「増やすわけねえだろ。俺これ以上まつげも眉毛も増やす予定はねえよ。ただでさえ毛深いのに。俺はここのお店のお子さんの世話を任されてんの。ベビーシッターで」
「び、びっくりしましたよ。私まだ同じ客ならともかくとして、池波さんにエクステンションされるのかと思いました」
「お前、なんかそういうことできそうだしな」
「嫌そうな顔で見るなよ。やってやれないことはないかもしれねえけど、俺はその手の商売はやってない」
「やってやれちゃうところが既に嫌なんですよ、貴方の場合は」
「ともかく上がれよ。二階が施術室だから。俺はこれから散歩に出かけてくるから。ほらー行くぞー。ちゃんと帽子かぶったか? 靴しっかりはいて、かかと踏まない。はい、じゃあ行ってきます」
「………………」
「………………」
「とりあえず、行きましょうか」
「あ、ああ。そうだな」
「今日はよろしくお願いします。あ、この細いのは見学です」
「そんな紹介あるか!」
一時間経過。
「お待たせしました〜」
「お疲れさま」
「どうですか? 結構派手になったと思いませんか?」
「うん。わかる。眉毛のときは正直よくわからなかったけど、今回ははっきりわかるな」
「………そこまで鈍い人間にわかってもらえるだけ効果があるってことなら、まあいいです。納得します」
「何でお前はそう言葉の節々に棘をにじませるんだ」
「でも自分で正面から鏡を見てもわかりますけど、横から見るともっとわかりやすいんですって。どうですか?」
「ああ、そうかもな。まつげがしっかり上を向いているのがよくわかる」
「自分が見るんじゃなくって、他の人に見せてはっきり結果がわかるのがエクステンションなんだそうです」
「やってみてどうだった? 一時間くらいだったが」
「そうですね。私は初めてだったので色々説明もしてもらいましたけど、それも面白かったです。
本数とかは基本的にその人のまつげの状態によって違うんだそうです。私はわりとまつげの量が多いので、片目30本ずつくらいで。もっと少ないのもあるんですけど、それだとやったかどうかの効果が見えづらいらしいので、せっかくやるんだから、はっきりわかる量にしてもらいました」
「じゃあ、元から少ない人は30本よりもっとつけなきゃ駄目ってことか」
「それがそうもいかないらしくて。基本的に自まつげに、人工のまつげを一本ずつつけるんですが………」
「つけるのか!? 一本ずつ!?」
「つけますよ。というか先生がつけてくれましたよ」
「………信じられん………。こんな細かいまつげに、一本一本つけるなんて。こんな細かい作業………。こんな………細いものに細いものを………」
「澤田さん、驚きすぎです。というか近いです。そんなマジマジ見ないでください」
「あ、す、すまない。あまりに驚いて」
「そんなに驚くようなことですか?」
「俺は細かい作業苦手だから」
「あー顔は繊細そうでも性格は丸太っぽいというか………」
「………………」
「ようするに、面倒くさがりで大雑把なんですよね。洗濯物なんかも干しっぱなしで池波さんがたたむまで、つるしたあとついたままですし」
「うるさい」
「話を元に戻しますが、自分のまつげが少ない人は、それ以上つけるのも難しいんですよ。自が10あるものに50つけるのは無理でしょう。逆に50あるものに10つけるのは簡単でしょうし。かといって無理に何本もつければ、自まつげが抜けちゃいますから」
「なるほどな。あまり極端にはできないということか」
「つけるまつげの太さでカバーもできるらしいんですが、それもあまり太いと抜けちゃいますからね。重みに耐えかねて。つけるまつげにも色々種類があって、カールが強いのとかあるんですよ」
「泡坂が今やってるのは?」
「これはナチュラルな奴です。カールが強いのはもっと若い子とか、目をぱっちりさせたい場合に使うみたいです。他にもつけ方によって目の見え方違うんですって。たとえば目じりに長いのを入れると、切れ長の目に見えたりとか」
「なるほど………色々あるんだな、付けまつげひとつとっても」
「そうですね。で、色々説明してもらって、横になってつけてもらうわけですが………」
「ああ」
「下まつげをテープで止めてから、目を瞑った状態でやってもらうんですね。それが………」
「ああ」
「私、まつげのパワーがありすぎて、普通のテープじゃくっつかなくて、一番強度の強いテープを重ね貼りしてもらってやっとできたんですよ。初めのやわいテープじゃ、下まつげがくっつかなくて、まつげ浮き上がっちゃって」
「健康だな」
「どうして貴方って人はそう女心のフォローがまったくできないんですか! そうじゃない、恥ずかしかったんですよ!」
「け、健康なまつげのどこが恥ずかしいんだ。いいじゃないか、元気がないって言われるより」
「普段何も手をかけてないっていうのが、バレちゃってるようなもんじゃないですか! 先生が「普段使わないテープ使いますね」とか、「皆さんうらやましがりますよ。みんなまつげが弱くなっちゃって大変ですから」とかフォローしてくれるのが逆につらい!」
「じゃあ、どのみちどうやってもフォローできないんじゃないか」
「そういう問題じゃない!」
「ど、どういう問題なんだ、じゃあ」
「………もういいです。まあそれでですね、先生がまつげに接着剤をつけて、一本一本つけてくれるんですが」
「接着剤って言葉で聞くと、結構凄い感じだな」
「そのまつげもですね………」
「また何かあったのか」
「元々太くて長いから、通常選んだ太さじゃ、どこにつけたかわからないって言われて、これも、「久しぶりに使いますよ」っていう太くて長いの選ばれたんですよ」
「いいじゃないか別に。俺はよくわからないけど、元々まつげを太くて長くするために行ったんだろう?」
「そうなんですけど、そうなんですけど……… 立派なまつげを持ってるわりに、今までそれを全く生かしてなかったっていうのが、悔しいんですよ!」
「もうそこまでいくと俺にはどうすることもできないぞ」
「で、乾かして終わりです。大体三週間くらいもつらしいんですよね。その後は、一気につけかえるか、落ちたはしから付け替えるか、それは人それぞれみたいです。大体三ヶ月周期くらいでまつげを休ませたほうがいいらしいんですが………」
「うん?」
「私のまつげは丈夫そうだから大丈夫かもしれませんね、って止めをさされました」
「先生は完全に善意で言ってるんだと思うがな」
「わかってますよ。ですがそれがより嫌です」
「………よくわからないけど、いいじゃないか。デキには満足してるんだろう?」
「それは、まあ」
「泡坂が気に入ってるのであれば、それでいいじゃないか。きれいになったんだし」
「きれいになったと思います?」
「いや、よくわからないが。泡坂は泡坂だし」
「………澤田さんは本当に顔だけの男ですね」
「お前、何か俺に恨みでもあるのか!?」
「池波さんなら、もっとマシなこと言ってますよ」
池波「呼んだか?」
「あ、池波さん、お帰りなさい」
「ただいま。お前ら気をつけて帰れよ。俺はまだ仕事あるから」
「仕事?」
「ああ。これからおやつ食べさせて、昼寝させるの。ほら、ただいまは? ちゃんと手を洗ってうがいするんだぞ。しっかり手を洗ったら美味しいおやつ食べるからな。じゃあな。あ、泡坂」
「はい?」
「まつげいい感じだな。ナチュラルメークでも合うし、そんなに派手じゃねえし。目が大きく見える」
「そ、そうですか」
「澤田、お前も帰り道迷うなよ」
「いくらなんでも、大学近辺で迷うか!」
「じゃあな」
「お疲れ様です、池波さん」
「ああ、またな」
「………………ほらね、やっぱり池波さんは言うことは言う人なんですよ。きれいって表現を使わないところが、あの人っぽいです」
「そうか?」
「そうですよ。どうです、今度澤田さんもやってみては。きっと池波さん誉めてくれますよ」
「気色悪いこというな!」
「ちなみに、一番気をつけなきゃならないのは、うつぶせ寝なんだそうです。目をこすらないとか、意識的にできるものはともかくとして、寝ている間までは責任持てないです。あ、そうだ、澤田さん」
「なんだ?」
「私が寝ている間見張っててくれますか?」
「お前、お、お前はな!」
「お前らもう、うるさいから帰れよ」
澤田「あ?」
「あれー? 澤田さんじゃないですか」
「あ、泡坂か?」
「なんでこんなところにいるんです?」
「それは俺の台詞だ。ここは俺の通学路だぞ」
「あ、そうか。澤田さんの大学ここから近いんでしたっけね。しかし………」
「なんだ?」
「澤田さんの口から通学路なんて言葉が出てくると、笑えます」
「じゃ、なんて言えばいいんだ………」
「なんでしょうねえ」
「で、結局お前はここで何してるんだ。俺の大学に用事か?」
「いえ、そうじゃないんですよ。そうだ、澤田さん今時間ありますか?」
「俺か? 俺は大学が終わって帰るところだから、特に何もないが………」
「じゃ、ちょっと付き合いませんか? 私これから行くところがあるんですが、一人じゃちょっと不安だったので」
「別に構わないが………。俺が行って大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思いますよ。駄目だったら帰ってください」
「なんでお前はそうなんだ」
「まあいいじゃないですか。心細かったのは事実なので、澤田さんに偶然会えてよかったです」
「………泡坂、お前まさか………行き先は、医者じゃあるまいな!」
「澤田さんはこういうときばかり想像力が発達しすぎですよ! 医者に行くのに何故野郎をわざわざ誘わなきゃならないんですか!」
「いや、心細いとか不安とか言うからだろう!? 普段お前がそんなこと言わないから、何事かと思ったんだ! あ」
「あ?」
「そうでもないか。ほら、以前夏祭りでの肝試しのときは………」
「ねじりとられたいんですか、澤田さん。それ以上行ったら凄いことになりますよ」
「お前怖い!」
「あ、着きました。ここですここです」
「………普通の民家に見えるが………」
「そうですね」
「で、結局ここはなんなんだ。あれか、占いの館か?」
「違います。私占いはめざましテレビくらいしか見ません」
「じゃあ、あれかカウンセリングか」
「澤田さんは私のことなんだと思ってるんですか?」
「え、いや、別に」
「いいですもう。別に。じゃあ入りますよ」
「………結局、中も普通の民家に見えるが」
「民家を改造したまつげエクステンションのお店です」
「なんだそれ?」
「まつげのエクステンションのお店」
「だからエクステンションってなんだ。生理学では、重力に逆らう方向に関節を延ばす動作だが」
「何故私がよそ様の民家で関節伸ばさなきゃならないんですか。エクステンションは要するに、付け毛ですよ。髪の毛とかの」
「? でもまつげなんだろう?」
「だから、まつげの付け毛なんですよ」
「まつげに付け毛? なんだそれ。なんでそんなことするんだ? まつげってハゲるのか? というか泡坂のまつげははげてるのか!?」
「………澤田さんはもう黙っててください。まつげのおしゃれですよ、要するに。ボリュームを増やして、ビューラーとかマスカラとかなくてもきれいに見えるように」
「………そんな手間をかけるのか………まつげに………。女性は大変だな。俺はまつげなんて20年以上生きてきて意識したことなど一度もないが」
「まあ、男性はそうかもしれませんが。あ、今日はよろしくお願いしま………」
池波「あ、お客様ですか」
「!?」
「!?」
「なんだ、泡坂と澤田じゃねえか。偶然だな。お前らも施術受けにきたのか? って澤田は違うな」
「というか、なんで貴方がこんなところにいるんですか!?」
「お前がまつげ増やすのか!?」
「増やすわけねえだろ。俺これ以上まつげも眉毛も増やす予定はねえよ。ただでさえ毛深いのに。俺はここのお店のお子さんの世話を任されてんの。ベビーシッターで」
「び、びっくりしましたよ。私まだ同じ客ならともかくとして、池波さんにエクステンションされるのかと思いました」
「お前、なんかそういうことできそうだしな」
「嫌そうな顔で見るなよ。やってやれないことはないかもしれねえけど、俺はその手の商売はやってない」
「やってやれちゃうところが既に嫌なんですよ、貴方の場合は」
「ともかく上がれよ。二階が施術室だから。俺はこれから散歩に出かけてくるから。ほらー行くぞー。ちゃんと帽子かぶったか? 靴しっかりはいて、かかと踏まない。はい、じゃあ行ってきます」
「………………」
「………………」
「とりあえず、行きましょうか」
「あ、ああ。そうだな」
「今日はよろしくお願いします。あ、この細いのは見学です」
「そんな紹介あるか!」
一時間経過。
「お待たせしました〜」
「お疲れさま」
「どうですか? 結構派手になったと思いませんか?」
「うん。わかる。眉毛のときは正直よくわからなかったけど、今回ははっきりわかるな」
「………そこまで鈍い人間にわかってもらえるだけ効果があるってことなら、まあいいです。納得します」
「何でお前はそう言葉の節々に棘をにじませるんだ」
「でも自分で正面から鏡を見てもわかりますけど、横から見るともっとわかりやすいんですって。どうですか?」
「ああ、そうかもな。まつげがしっかり上を向いているのがよくわかる」
「自分が見るんじゃなくって、他の人に見せてはっきり結果がわかるのがエクステンションなんだそうです」
「やってみてどうだった? 一時間くらいだったが」
「そうですね。私は初めてだったので色々説明もしてもらいましたけど、それも面白かったです。
本数とかは基本的にその人のまつげの状態によって違うんだそうです。私はわりとまつげの量が多いので、片目30本ずつくらいで。もっと少ないのもあるんですけど、それだとやったかどうかの効果が見えづらいらしいので、せっかくやるんだから、はっきりわかる量にしてもらいました」
「じゃあ、元から少ない人は30本よりもっとつけなきゃ駄目ってことか」
「それがそうもいかないらしくて。基本的に自まつげに、人工のまつげを一本ずつつけるんですが………」
「つけるのか!? 一本ずつ!?」
「つけますよ。というか先生がつけてくれましたよ」
「………信じられん………。こんな細かいまつげに、一本一本つけるなんて。こんな細かい作業………。こんな………細いものに細いものを………」
「澤田さん、驚きすぎです。というか近いです。そんなマジマジ見ないでください」
「あ、す、すまない。あまりに驚いて」
「そんなに驚くようなことですか?」
「俺は細かい作業苦手だから」
「あー顔は繊細そうでも性格は丸太っぽいというか………」
「………………」
「ようするに、面倒くさがりで大雑把なんですよね。洗濯物なんかも干しっぱなしで池波さんがたたむまで、つるしたあとついたままですし」
「うるさい」
「話を元に戻しますが、自分のまつげが少ない人は、それ以上つけるのも難しいんですよ。自が10あるものに50つけるのは無理でしょう。逆に50あるものに10つけるのは簡単でしょうし。かといって無理に何本もつければ、自まつげが抜けちゃいますから」
「なるほどな。あまり極端にはできないということか」
「つけるまつげの太さでカバーもできるらしいんですが、それもあまり太いと抜けちゃいますからね。重みに耐えかねて。つけるまつげにも色々種類があって、カールが強いのとかあるんですよ」
「泡坂が今やってるのは?」
「これはナチュラルな奴です。カールが強いのはもっと若い子とか、目をぱっちりさせたい場合に使うみたいです。他にもつけ方によって目の見え方違うんですって。たとえば目じりに長いのを入れると、切れ長の目に見えたりとか」
「なるほど………色々あるんだな、付けまつげひとつとっても」
「そうですね。で、色々説明してもらって、横になってつけてもらうわけですが………」
「ああ」
「下まつげをテープで止めてから、目を瞑った状態でやってもらうんですね。それが………」
「ああ」
「私、まつげのパワーがありすぎて、普通のテープじゃくっつかなくて、一番強度の強いテープを重ね貼りしてもらってやっとできたんですよ。初めのやわいテープじゃ、下まつげがくっつかなくて、まつげ浮き上がっちゃって」
「健康だな」
「どうして貴方って人はそう女心のフォローがまったくできないんですか! そうじゃない、恥ずかしかったんですよ!」
「け、健康なまつげのどこが恥ずかしいんだ。いいじゃないか、元気がないって言われるより」
「普段何も手をかけてないっていうのが、バレちゃってるようなもんじゃないですか! 先生が「普段使わないテープ使いますね」とか、「皆さんうらやましがりますよ。みんなまつげが弱くなっちゃって大変ですから」とかフォローしてくれるのが逆につらい!」
「じゃあ、どのみちどうやってもフォローできないんじゃないか」
「そういう問題じゃない!」
「ど、どういう問題なんだ、じゃあ」
「………もういいです。まあそれでですね、先生がまつげに接着剤をつけて、一本一本つけてくれるんですが」
「接着剤って言葉で聞くと、結構凄い感じだな」
「そのまつげもですね………」
「また何かあったのか」
「元々太くて長いから、通常選んだ太さじゃ、どこにつけたかわからないって言われて、これも、「久しぶりに使いますよ」っていう太くて長いの選ばれたんですよ」
「いいじゃないか別に。俺はよくわからないけど、元々まつげを太くて長くするために行ったんだろう?」
「そうなんですけど、そうなんですけど……… 立派なまつげを持ってるわりに、今までそれを全く生かしてなかったっていうのが、悔しいんですよ!」
「もうそこまでいくと俺にはどうすることもできないぞ」
「で、乾かして終わりです。大体三週間くらいもつらしいんですよね。その後は、一気につけかえるか、落ちたはしから付け替えるか、それは人それぞれみたいです。大体三ヶ月周期くらいでまつげを休ませたほうがいいらしいんですが………」
「うん?」
「私のまつげは丈夫そうだから大丈夫かもしれませんね、って止めをさされました」
「先生は完全に善意で言ってるんだと思うがな」
「わかってますよ。ですがそれがより嫌です」
「………よくわからないけど、いいじゃないか。デキには満足してるんだろう?」
「それは、まあ」
「泡坂が気に入ってるのであれば、それでいいじゃないか。きれいになったんだし」
「きれいになったと思います?」
「いや、よくわからないが。泡坂は泡坂だし」
「………澤田さんは本当に顔だけの男ですね」
「お前、何か俺に恨みでもあるのか!?」
「池波さんなら、もっとマシなこと言ってますよ」
池波「呼んだか?」
「あ、池波さん、お帰りなさい」
「ただいま。お前ら気をつけて帰れよ。俺はまだ仕事あるから」
「仕事?」
「ああ。これからおやつ食べさせて、昼寝させるの。ほら、ただいまは? ちゃんと手を洗ってうがいするんだぞ。しっかり手を洗ったら美味しいおやつ食べるからな。じゃあな。あ、泡坂」
「はい?」
「まつげいい感じだな。ナチュラルメークでも合うし、そんなに派手じゃねえし。目が大きく見える」
「そ、そうですか」
「澤田、お前も帰り道迷うなよ」
「いくらなんでも、大学近辺で迷うか!」
「じゃあな」
「お疲れ様です、池波さん」
「ああ、またな」
「………………ほらね、やっぱり池波さんは言うことは言う人なんですよ。きれいって表現を使わないところが、あの人っぽいです」
「そうか?」
「そうですよ。どうです、今度澤田さんもやってみては。きっと池波さん誉めてくれますよ」
「気色悪いこというな!」
「ちなみに、一番気をつけなきゃならないのは、うつぶせ寝なんだそうです。目をこすらないとか、意識的にできるものはともかくとして、寝ている間までは責任持てないです。あ、そうだ、澤田さん」
「なんだ?」
「私が寝ている間見張っててくれますか?」
「お前、お、お前はな!」
「お前らもう、うるさいから帰れよ」
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