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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『やわらかい手』
ツタヤでやっと借りられました。レンタル開始になってから、リストの一番目にしたのに、中々借りられなくて時間がたちましたが。

場所はイギリス。夫に先立たれた冴えない中年女、マギーには孫がいた。難病の孫にやっと治療のメドがついたものの、渡航費などかかる費用は莫大だった。
仕事を探すも全て断られるマギーの前に「接客係募集・高給」の広告が目に入る。
それは、ただの接客ではなく、壁に開いた穴から男性をイかせる、風俗嬢としての仕事だった―。

マギーが飛び込んだ先には、オーナーであるミキの姿が。
「きれいじゃない。だが、なめらかだ。スベスベしてる」
「そんなに触らないで」
「週600ポンドでどうだ? あんたの手なら800」

何度もためらうも、意を決しミキの元に再度訪れるマギー。
「一人につき、5~6分。長引くようなら俺を呼べ」
懇切丁寧にやり方を教えてくれる、先輩のルイザ。
「どう? 簡単でしょ?」
「駄目よ、できないわ」
「じゃ、辞める?」

客の要望に答えるための手を持ったマギーは、先輩であるルイザにやり方を習いながら、必死で仕事を続けます。
手を念入りに洗い、後ろめたさにおびえながら電車をやり過ごしたり、ホームで他人に見つからないように隠れたり、何処へ行くのかと言う友人の問いに、必死で逃げたり。

鞄から、自分で持ってきた作業着を身に付け、飲み物や、食事を用意し、ローションを手になじませ、マギーは仕事を続けます。
淡々と流れる作業時間。
働きが悪い、と給料の支払いを渋るミキ。
その態度に腹を立て、強く無視するマギーの様子を、見に来てはいるのに、結局何も言えずに黙って去るミキ。
可愛さ開花の瞬間でした。(今まで真面目な感想だったのに)(これだって大真面目だ)

もっと稼ぎたい(大金の札束が今まで使っていた素朴な財布に入りきらないところが、すごくリアル)というマギーの要望を受けて、ミキは「イリーナ・パーム」という芸名をつけます。
「この名前で、男はセクシーな女性を想像するのね。年増のおばさんではなく」
「年増? 年増ってなんだ」
「私みたいなの。冴えない、中年女」
「そんな女は雇ってないぞ」
ちょ、ミキー!?
天然たらしというか、なんというか。長年裏社会で働いてきた男の、枯れた危なさがあって、ミキ物凄くセクシーです。

ルイザとは次第に親しくなり、仕事終わりに酒を飲む仲になります。
自分につけられた名前に困惑するマギーに、スージーは言います。
「私は別になんとも思わない。店ではスージー。家では息子の母親ルイザ。それだけよ」

地元の友人たちも、沈黙を守るマギーを、興味本位で想像し噂します。
「マギーに仕事って、何ができるの?」

いや、もう、本当に女の友情ってやつはさ………!
反吐が出る感じの、悪意のなさっていうか生々しさっていうか。これが女が酷いのが、嫌ってる相手ならともかく、友人にでもこういうことを言えちゃう(当然影で)ってところですね。
見ている側は、こんな腐ってただれた友人関係よりも、仕事ばで金に対して忠実なミキや、ルイザのほうがよほど好感が持てます。
彼らは、マギーの行いについて責めたりしないしね。

孫の面会もかかさず訪れるマギー。
「おばあちゃん、オリーの病気も必ず治すわ。だけどこれは内緒なの。誰にも言っちゃいけないのよ」

イリーナ・パームは次第に評判になり、長蛇の列ができます。
「いい腕だ。得がたいタッチだ。試したんだ」
「貴方が私を?」
「知りたかったんだ。知らなきゃ対策を立てられない」

ミキとマギーの絆が深まる一歩になるわけですが、それが、普通ではないというところがミソ。ミキはマギーにしてもらい、その腕を認めて、そしてマギーと対等に話をするようになるわけです。
この辺の、不器用な関係の深まり方というか、ある種必然の進み方が、凄くミキらしい。

結局マギーは治療費を前借し、返すために働き続けることになります。
ただ、この時点では、自分の事情は一切口にしていません。
「もしだましたら、探し出して、殺す」
ミキとマギーとの間に交わされる、おかしな握手。

急にわいた6000ポンドに、息子夫婦は疑念を隠せません。
「悪事を働いたんじゃないだろうね?」
「まさか」

金を借りた直後、遅刻してきたマギーを、ミキはそわそわしながら待ちます。
「電車が遅れて」
いつもの通り、何も言わずに奥に引っ込むミキ。
ですが、何処からどう見ても金以外の心配が含まれている態度がたまりません。

マギーが売れっ子になると同時に、ルイザは仕事がなくなっていきます。
自分の仕事部屋に、花を生け、絵を飾り、支給されたローションではなく、自分で用意したものを使用する。

「店中自分の部屋みたいにするつもりかい?」
ミキなりの冗談だったのか、うっすらとミキは笑います。
ですが、マギーに「もう行っても?」と会話を切り上げられ、その笑顔は実にわかりやすく一瞬で消えます。

仕事を続けるマギーは、「ペニス肘」になってしまいます。仕事のし過ぎで右腕が使えなくなってしまったのです。
右腕をつり、左手で仕事を続けるマギー。付けていた結婚指輪も外します。

結果、ルイザは首になります。
「私が辞めると言ったら彼女を呼び戻す?」
「あと八週働いて借金がなくなったら自由だ。辞めていい」
「私はそれだけの存在なの?」
マギーの言葉に、目を瞠るミキ。
「商売だけ?」
ミキだけではなく、マギーも互いを意識しているわけですよ。これ、ほぼ告白。

マギーはルイザを訪ねますが、罵倒されて終わります。
「よく平気でいられるわね。私の仕事を横取りして。このクソ女」
「私たち、友達では?」
「さっさと消えて」
ここで、マギーはルイザの住所が書かれた紙を捨てて、去っていきます。ずっとやめていたタバコを吸い始めるのも、この日からです。

「腕の具合は?」
そう尋ねるミキに、マギーは無言で去ります。

イリーナとしてのマギーに、スカウトの声がかかります。高給を提示する店側は借金の肩代わりも引き受けると言って来ます。

「誘いを受けたわ」
「いつ移る?」
それしか言わないミキに、背を向けて去るマギー。
ミキは、コートをつかみ、追いかけます。初めは悠然と、次第に必死で。
「マギー、待ってくれ」
「何故? ただの雇われ女。ルイザと同じよ」
「違う」
「商売女なんて。馬鹿だった。私は何をしているの?」
「何故来た?」
「孫のためよ。命が危ないのに、私はこんなところで。移るべき?」
「引き受けたのでは?」
「いいえ、まだよ」
「どうしたい?」
「残りたいわ」

そう答えたマギーに、思わず満面の笑みを浮かべてしまうミキ。

「もっと笑って」
困ったように、でも何度も、わざとらしい笑い顔を浮かべてしまうミキ。

二人は、コーヒーを挟んで互いのことを話し合います。
別れた女性のこと。店を開いた理由。引退したら行きたい島の名前。
「貴方の笑顔が好きよ」
そう言われて、泣き顔のように笑い、困ったように笑い、顔をくしゃくしゃにして笑顔を消したり、出したりするミキ。
「君の歩き方が好きだ」
そう言われて、驚くマギー。
最終電車があるから、と去るマギーを、ミキは黙って見送ります。

時を重ねるごとに、ミキとマギーの関係がよりいっそう深まっていくのが、画面から見て取れます。
翌朝、マギーの診断を心配そうに見守ったり、出勤するのを待ち構えたり、「無理するな」と声をかけてしまう様が、もう自分不器用ですから!

いやもう、ミキが最高。
マギーの言うとおり、凄く笑顔がチャーミングなのですが、自分で笑っている、笑おうという認識がないせいか、時折不意打ちのように見せる、画面いっぱいの笑顔には惹きつけられます。
自分では自覚していない分、指摘されると困るのか、照れるのか、困惑するのか、マギーの前で一瞬の間に、表情を変えるのが、演技として最高に上手です。
中年のオッサンが、自分で自分の表情を支えきれなくなって、ただ目を瞠る。凄く、ネオロマでした。


息子・トムは母親の大金に疑念を抑えることができず、マギーの後を追い、彼女の仕事を知ってしまいます。
「売春婦なんて! こんな穢れた金なんか、1ペニーもいらない!」
「売春婦じゃない。撤回して」
「あんたは一生汚れたままだ!」
「私は後悔してないわ。二度と売春婦と呼ばないで」
「二度とあの店に行くな。行けばオリーには会わせない」
錯乱する息子。店をやめるという電話まで強引にさせます。
本当に男って奴は………!
その金で! 必死で稼いだ金で息子の命が救われるのだとしたら、お前は母親に、その手段に頭を下げるべきであって、侮辱する資格など絶対にない!
これって、やっぱり男だからこういう反応なんでしょうかね。
自分も、してもらいたい、してもらうこともあるかもしれないという行為が、我慢ならないというか。
私ならむしろ、自分にもその手段を教えてくれ、くらいのこと言えるし、相手を尊敬しますけどね。

「もったいぶらないで、どうせ退屈な話でしょ」
侮辱されたマギーは、今まで付き合ってきた友人たちに、自分の仕事を語りだします。はっきりと、明確に。
「ミキが、私の腕はロンドン一、ですって。イリーナ・パーム。店のナンバーワン。じゃあ、またね」
マギーは、友人夫婦と自分たち夫婦が写っている写真を、叩き割ります。

ことが明らかになった後、今まで冷たかった嫁の態度が変わります。
息子にマギーに謝って、と促し、強い口調で言います。
「意地をはるべきじゃない。稼ぎ方なんて関係ないわ。親は子供のためなら死ねると言うけど、その意味がわかったわ。彼女は私の息子のために身を挺して尽くしてくれた。感謝してるわ」

結局、偽りの友人たちと決別し、マギーは新しいものを得ます。
それは、感受してきた今までの生活と違い、マギーが自分自身で得たものであり、かけがえのないものだった。
嫁からは心からの信頼。
孫の命。
そして、ミキとの間に生まれた感情。

最後、マギーは自分の意思で、孫の旅立ちには付き合わず、街に残ります。
向かった先は、自分の職場。
そこで、マギーにクリスマスプレゼントを用意していたミキと再会し、初めてキスをするのでした。

最初から最後まで、超、ネオロマー!
この手の、一見して人生やらの物語は、最後がなんともやりきれないものが多く、重苦しくなったりするのですが、これはなんていうか、逆に明るいメロドラマで、感動や喜びの涙は見ている側にはあっても、やるせなさは感じませんでした。

映像としても、場所は風俗店ですが、心配するような映像は一切でてきませんので、女性が見ても全く問題ありません。

ともかく、ミキが最高にセクシー振りまいてました。
詳しくは公式サイトの映像参照。
中年になればなるほどセクシーでたまりませんな。

女性のはっきりとした生き方。別れる人間とは別れ、出会う人間とは出会う。
不器用で裏社会で生きていたとは思えない男の朴訥な優しさ、笑顔がが味わえる作品です。
ミキが輝いて見えるのは、他のどうしようもない連中と比べて、あまりに、真っ直ぐだからでしょうか。ここには詳しく書きませんが、女の友人なんて本当に酷かった。でも、女ってああいうことができる生き物というか、男性とは強さの根幹が違う感じが確かにしますよね。それは勿論マギーにも当てはまるのですが。


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