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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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その男は、強風の中立っていた。
二十歳過ぎくらいだろうか。
少しきつめの印象が強いが、目元も涼しく、眉も凛々しい美形である。
ムートンのハーフコートを羽織り、ジーンズというラフなスタイルだが、わかる人間が見れば、ブランド物のそれだということがわかるだろう。
黒のショルダーバッグを下げ、いかにも待ち合わせというように立っている姿は、恵比寿の駅前によく映えた。

泡坂「ただ、そこに行き着くまでがよくなかった。西口と東口を間違えるし、スカイウォークは所在なさげに延々立ち通しだし。いやあ、初めて来た駅で勝手がわからずに不安だ、という雰囲気があまりに立ち上りすぎて、思わず他人のふりをしてしまいましたよ」
澤田「お前、来てたんならもっと早くに声をかけろ!」
「すいません。面白かったんでつい」
「面白がるな!」
「今日は凄く風が強くて、吹き飛ばされそうだったんで、駅の外にあまり出たくなかったんですよね」
「泡坂は身体も小さいし、体重も軽いから、本当に風にあおられて倒れないように気をつけないとな」
「それは澤田さんも同じでしょう。どんだけ痩せてんですか、その細い腰」
「お前、俺の腰なんて見たことないだろう!」
「え、ないとか思ってるんですか?」
「え」
「あれだけ澤田さん家に入り浸っている私が、澤田さんのボディラインを知らないとでも思ってるんですか」
「お、お前」
「言っときますが、私は澤田さんの寝姿や、寝言ですら知ってるんですよ」
「………………………」
池波「何お前ら絶句し合ってるんだ」
「あ、こんにちは、池波さん。池波さんが一番最後なんて珍しいですね」
「バイト先からそのまま来たからな。ちょっと計算が狂った。待たせたか」
「いいえ全然。時間通りですよ」
「そうか。で、何で澤田は固まってるんだ」
「さあ。思春期の考えることはよくわかりません」
「誰が思春期だ!」
「お前だろ。じゃ、全員そろったから行くか」
「そうですね。私来たことないんですけど、ウェスティンホテルは………」
「こっちだ」
「………………」
「お前、場所知ってんの?」
「? ああ。行ったことがあるから」
「行ったことがあるなら、何故あそこまで駅内で不審な行動に………?」
「ホテルに行ったことはあるが、駅内はよく覚えてない」
「何でそこまで駅が鬼門かねえ、お前は」
「いえ別に知ってるんならそれでいいんですけどね。看板出てますし。ここから近いんですか?」
「すぐそこだ」
「ホテルに何しに行ったんだ?」
「池波さん、そりゃ聞くのはヤボってもんですよ。ホテルですもん」
「どういう意味だ! 俺の実家から近いから、家族との待ち合わせに使ったことがあるだけだ」
「待ち合わせに………ホテル………? ホテルで待ち合わせる家族………?」
「正確には、ホテルのロビーで待ち合わせただけで、階上には行ってな………」
「………………」
「泡坂?」
「………………………………」
「おい池波、泡坂どうしたんだ? 一人でずんずん先を歩いて行ってしまったが」
「お前との生活格差に憤ってんだろ」
「?」
「まあ、いいや。行こうぜ。着く頃には泡坂もその話題に飽きてる」


『ウェスティンホテル』到着。

「着きました。ここですね」
「ああ」
「結構、女の人たちいるなあ」
「女の人たちというよりは、オバサンたちですが。これってやっぱりあれですかね。目的は同じでしょうかね」
「そうだろうな。こんな平日の真昼間にホテルに用があるといったら、それしかないだろ」
「女性は本当に好きだな。食べ放題」
「なんですか、澤田さん。より格調高く、ランチビュッフェと言ってください」
「ランチビッフェか」
「………なんですか、わざわざいい発音で言い直して」
「そんなつもりはない」
「お前らいい加減にしろよ」


「さあ、会場に入る前に、トイレもすませましたし、食べるぞ!」
「………………………」
「何だお前黙って」
「いや………その………」
「なんだよ」
「どうしてああも、女性はすぐトイレに行くのかと思って」
「説明してやろうか」
「やめろ。お前がまともな顔して言うと、ろくなことがない」
「何ぶつぶつ言い合ってるんですか。置いてきますよ」
「予約しといてよかったな。前の予約なしの人たちは断られてたみたいだし」
「人気あるんですねえ。まあそれだけに、結構な値段を取るのかと思うと、もう元を取らずにはいられないんですが!」
「みなぎってるな」
「まあ値段も4500円するしなあ。普通のランチじゃ考えられない値段だろ」
「へー、テーブルもきれいにセッティングされてて、おしゃれですね。なんか、ホテルって感じがします。勝手に取って来いって雰囲気じゃなくて、あくまで給仕されてる感が強いといいましょうか」
「なんだろう、このパン」
「ぱっと見、黒パンみたいだけどな」
「さ、14時半までのガチンコ勝負ですからね! とっとと行きましょう」
「ならお前ら先に行って来いよ」
「池波は?」
「ここで荷物番してる」
「何つまんないこと言ってんですか! 池波さんも来るんですよ! いいから来るの!」
「池波」
「わかった。わかったからそんな目で見るな」


「美味しそうなのいっぱいありましたね。しかし、池波さんの皿の上に乗ってる料理の少なさは一体………」
「いや、別にこれ遠慮じゃなくて、デザートに意欲残しておきたいんだよな。今回はせっかくオーストリアフェアだから、アプフェルシュトゥルーデルとか食べたいし」
「なんです? それ」
「わかりやすく言えば、リンゴのパイかな。あ、澤田帰ってきた」
「お帰りなさい。これまた、野菜ばっかりの皿ですねえ。メインはどうしたんです、メインは!」
「お前は肉ばっかりだな。泡坂」
「食べ放題に来て、野菜食べる馬鹿がどこにいるんですか!? 基本メインからですよ! 野菜でおなかが一杯になったら、何にもならない!」
「俺はただ、前菜の列から順に回っていたら、皿が埋まっただけだ! 二順目は肉までたどり着くと思う」
「私なんか、列の流れを無視して肉から特攻してしまいましたよ。あれ、なんかおかしいなと思ったときは既に、皿の上が取り返しのつかないことになってました」
「お前それただのうっかりだろ」
「いいじゃねえの。ほら、まだ何回ももらいに行くんだろ。食おうぜ」
「そうですね。いただきまーす」
「いただきます」

「どうだ? 肉」
「そうですね、このちっちゃいカツみたいなの、地味に美味しいです」
「ああ、ウィンナーシュニッツェルな。レモンかけて食うと美味いんだ」
「色々な肉の種類がありましたけど、どれも煮込み系が多かったですねえ。豚も鴨もありましたけど、割合味が似てます」
「基本的に煮込み料理が多い国だからな。材料は違っても、基本的に使う調味料は同じだし」
「池波さんが食べてるのなんですか? 赤いシチューみたいなの」
「これか? これはグラッシュ。これも煮込み料理だな。牛の。食ってみるか?」
「じゃ、一口だけいただきます」
「どうだ?」
「………なにやら………面妖な味が………」
「ちょっと独特の味するよな。すっぱい感じの。お酢入ってるんだろうなあ。ザワークラフトみたいな感じだな」
「そういえば、この黒パンみたいなのもすっぱい味がしますしね。でも、我々が知ってるすっぱさと、ちょっと違う感じがします」
「まあ、ザワークラフトなんかはワインビネガーだし。これも基本的に日本の酢とは味が違うから」
「ここの食べ放題って、炭水化物全然ないんですよねえ。パスタとライスって一種類しかない。炭水化物フリークとしては、もっといっぱい食べたかったなあ」
「基本は、このパンをメインにしておかずを食べる、っていうコンセプトなんだろうな。俺らは炭水化物=おかずみたいな食生活送ることも多いから」
「そうですねえ。あ、澤田さんどれか美味しいのありました?」
「エビのカクテルが美味しかった」
「カクテル?」
「チーズクリームみたいなものの上に、エビが乗ってる前菜」
「そりゃまた随分おしゃれな食べ物ですね」
「その隣に、牛タンのカクテルもあったんだが」
「へえ、牛タン!」
「泡坂、牛タン好きだよな」
「やめておいたほうがいい」
「え? 何でです?」
「生臭い」
「………あの食べ物の好き嫌いをあまり表さない澤田さんが、ああもはっきり言うのであれば、やめておいたほうがいいんでしょうね………」
「そうだなあ。まあサラダは普通のサラダだったみたいだし、やっぱりメインは肉料理関係の煮込み、ってとこだな」


「………………………」
「なんだ黙って。二回目行かないのか」
「確かにまだ食べてないおかずとかあるんですけどね………」
「泡坂らしくもない。いきなりテンション落ちてるぞ」
「だって味が濃いんですよ! 凄くしょっぱいんですよ全体的に! だから凄く喉が渇いて水をがぶ飲みしちゃうし、水が減れば間髪いれずに給仕さんたちが追加してくれるしで、もう、赤ワイン系のしょっぱい味には飽きた!」
「じゃ、もう前菜のことは忘れて、デザート行けよ」
「そうします。池波さんも一緒に行きましょう」
「そうするか。澤田は? なんか取ってきてやろうか」
「まだ皿に残ってるからいい。後でまたいく」

「物凄い数ありますね、デザート」
「果物も多いし、ケーキも多いなあ。実際数としてはデザートブッフェほどはないんだろうけど、所狭しと並べられてるし、基本的に店で小売されていてもおかしくないくらい、しっかりと作られているから、凄く見栄えがする」
「ああ、池波さんが言ってたリンゴのパイ美味しいです」
「良かったな」
「ケーキもどれも美味しいです。ああ、チーズケーキ美味しいなあ」
「そうだな」
「池波さんはどれが美味しいですか?」
「そうだなあ。これもあれだな、どれもチョコ系は味が濃いなあ」
「あ、やっぱりデザートでもそう思いますか?」
「チョコレート系は特に濃厚な感じだな。果物のデザートはそうでもないけど。全体的に重い」
「まあ、現実的に重量オーバーにさせて、相手の腹を満腹に早くさせないといけないんでしょうけど。ビッフェなんて」
「ほら、ソフトクリームもこんなに濃い」
「うわーすごーい。マザー牧場のソフトクリームみたい」
「そんな感じ。で、そこに、デザートを山盛りにして澤田が帰ってきた、と」
「これまた澤田さん頑張りましたね! 全部食べられるんですか?」
「ああ」
「甘いものは別腹ってやつでしょうか」
「あいつ、満腹を感じる機能が弱いんじゃねえかな、って思うけどな」
「うるさい」


「うーんおなか一杯です。この食後の紅茶が美味しい」
「味濃いので始まって、濃いので終わったからな。俺もコーヒーが美味い」
「俺は美味かったけどな」
「あ、勿論私だって美味しかったですよ。ただ、客のいる前でシェフみたいな人が、給仕の人を結構あからさまに怒ったりしてたんで、それでちょっと萎えました」
「お前はどうしてそういう場に居合わせるんだろうな………」
「どうする? 最後にもう一回くらい行って来るか?」
「そうですねえ。口の中が甘くなったので、最後にきのこスープ飲んで終わろうかな」
「あれ、きのことベーコン入ってて、かなり濃厚だったけどなあ」
「俺も最後にサラダ取ってくるか」
「なんか、デザートの口直しにメイン、ってのも不思議な感じだな」


「食べましたねー。重くて胃もたれがします」
「お疲れさん」
「これからどうする? 帰るか」
「そうですねえ。恵比寿ってどんなところかな、って思ってたんですが、三越以外なにもないですし、見るもんなさそうですね。帰りましょうか。メインはホテルのランチだったわけですし」
「そうするか。じゃ、澤田、駅まで案内してくれ」
「え」
「どうして、駅からホテルまでは案内できて、ホテルから駅まで案内を頼まれると、一瞬でも固まるんですか………?」
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