全員四男と五男に酷い目に遭わされればいいのに。
そんな感想の『銀と金』でした(おい)。
社会派サスペンスというか、ビジネスめいたものが多い福本伸行作品。
どちらかといえば、バイオレンスとビジネスという意味合いが強く、純粋な経済をとりあげた漫画、という感じではありません。多分、経済のイロハを知らなくても充分楽しめる感じ。
いやもう、本当に真っ暗なホテルの中での殺戮シーンは、お前が死ねよ! とか真剣に思ったよ家長! 何あの誰も救われないオチ!
そっち方面の話を面白いと思うか(賭け麻雀とか)、もっと金に特化した話を面白いと思うかは、好みが分かれるのではないかと思います。
私はバイオレンス描写が少ない話のほうが、物語としては楽しめました。
心理描写が多いし、ここぞという場面で、敵味方問わず決め台詞を連発してくるさまを見ると、ああ、福本作品だなあと思います。
麻雀や競馬などの博打が多く絡んでくるのは、やはり取り上げやすい題材だからなのでしょうか。
ただ、アカギや天などよりも逆にとっつきやすい雰囲気が漂うのは、基本的に、お前何考えてんだかわからんという主人公たちがいないからでしょう。
まあ、その意味不明さがカッコイイのが、何処かの鬼っ子イズムなんでしょうけど。
主人公は、運の強い森田鉄雄と、金の世界で頭脳を武器に生きてきた平井銀二の両巨頭。
しかも、森田が若輩者であるのはいいとして、銀二がじじいに近いのが、どれだけ狙ってるのかとコラ!(大喜び)
そりゃ借金背負ってる連中も、銀王様呼びするわ。
初めにシャワーシーンご開帳の後の「銀王様」が出たときは、ここは笑うところなのかと仰天したものですが、すべてが終わった後には、金のやりとりなして銀王様と呼びたいと思ったものです(怖い)。
基本的に銀さんは出来すぎの切れ者なので、立ち位置はアカギと一緒なのですが、アカギよりもより人間味が強く、わかりやすい冗談を言う辺りが好感触。
わかりづらい冗談とか、場がひいちゃう冗談とかじゃ駄目なんだ。それは天才によくありがちな、周囲どん引きパターンだから(苦笑)。
自分の弱さもわかった上で、あえて突き進める男。
そして一番の魅力は、人を使うのが上手いということでしょうか。
別に孤高の天才ばかりが、憧れじゃない。
こういう、是非自分を使ってくださいと頭を下げたくなる求心力が、銀さんの一番の魅力なんでしょうなあ。
実際、身内にはゲロ甘だぜ銀さん!
森田お姫様抱っこも凄いですが、やっぱり死ぬかもしれないってときに、思い出す顔が銀さんって、お前森田それもどうなの!
愛されてます、銀さん。
銀さんと森田は両思い(どうなのその表現)なんですが、そのヒエラルキーには、天と地ほどの差があると思いました。
まあ同じようにそれぞれ「憧れ」部分が強い、というのは外せないんでしょうが。
全く関係ない萌えの部分で言いますと、
「………そのうちな。今日はまだダメだ」
という台詞があるとします。これを銀さんが言っていても、全くおかしくありませんし、ごく普通の台詞なんですが、これが、
「………そのうちな。今日はまだダメ」
と、「だ」を一文字抜いただけで、ほら、大変身!(さあどこで言っているか、単行本をお持ちの方は探してみよう。笑)
これ、別に普段からそういう話し方をしていたら、別に萌えないんですが、普段は普通に男の話し方をしていて、唐突に「だ」とかが抜けると、非常に可愛い。
例えばこれも可愛い。
「それほど不利になったと、俺は思ってねえ」
「は………?」
ここまでは普通の一コマ。で、次が凄い。
「不利になってないんですか………?」
「なってない………」
と、ここでも伝家の宝刀一文字抜きが!(造語)
例えばここなら、
「なってないな」とか「なってねえ」ならわかるんですよ。前の台詞ともかねあいもあって。
でもいきなりそこで、妙に気安い口調になっちゃうのが、ちらりと見せた油断というか、子どもっぽい本質みたいで、非常に萌えるんですな。
言うまでもないですがこれは、大の大人が使ってるからもだえるのであって、幼年が使っていても私は萌えませんよ(力説)。
そんな感想の『銀と金』でした(おい)。
社会派サスペンスというか、ビジネスめいたものが多い福本伸行作品。
どちらかといえば、バイオレンスとビジネスという意味合いが強く、純粋な経済をとりあげた漫画、という感じではありません。多分、経済のイロハを知らなくても充分楽しめる感じ。
いやもう、本当に真っ暗なホテルの中での殺戮シーンは、お前が死ねよ! とか真剣に思ったよ家長! 何あの誰も救われないオチ!
そっち方面の話を面白いと思うか(賭け麻雀とか)、もっと金に特化した話を面白いと思うかは、好みが分かれるのではないかと思います。
私はバイオレンス描写が少ない話のほうが、物語としては楽しめました。
心理描写が多いし、ここぞという場面で、敵味方問わず決め台詞を連発してくるさまを見ると、ああ、福本作品だなあと思います。
麻雀や競馬などの博打が多く絡んでくるのは、やはり取り上げやすい題材だからなのでしょうか。
ただ、アカギや天などよりも逆にとっつきやすい雰囲気が漂うのは、基本的に、お前何考えてんだかわからんという主人公たちがいないからでしょう。
まあ、その意味不明さがカッコイイのが、何処かの鬼っ子イズムなんでしょうけど。
主人公は、運の強い森田鉄雄と、金の世界で頭脳を武器に生きてきた平井銀二の両巨頭。
しかも、森田が若輩者であるのはいいとして、銀二がじじいに近いのが、どれだけ狙ってるのかとコラ!(大喜び)
そりゃ借金背負ってる連中も、銀王様呼びするわ。
初めにシャワーシーンご開帳の後の「銀王様」が出たときは、ここは笑うところなのかと仰天したものですが、すべてが終わった後には、金のやりとりなして銀王様と呼びたいと思ったものです(怖い)。
基本的に銀さんは出来すぎの切れ者なので、立ち位置はアカギと一緒なのですが、アカギよりもより人間味が強く、わかりやすい冗談を言う辺りが好感触。
わかりづらい冗談とか、場がひいちゃう冗談とかじゃ駄目なんだ。それは天才によくありがちな、周囲どん引きパターンだから(苦笑)。
自分の弱さもわかった上で、あえて突き進める男。
そして一番の魅力は、人を使うのが上手いということでしょうか。
別に孤高の天才ばかりが、憧れじゃない。
こういう、是非自分を使ってくださいと頭を下げたくなる求心力が、銀さんの一番の魅力なんでしょうなあ。
実際、身内にはゲロ甘だぜ銀さん!
森田お姫様抱っこも凄いですが、やっぱり死ぬかもしれないってときに、思い出す顔が銀さんって、お前森田それもどうなの!
愛されてます、銀さん。
銀さんと森田は両思い(どうなのその表現)なんですが、そのヒエラルキーには、天と地ほどの差があると思いました。
まあ同じようにそれぞれ「憧れ」部分が強い、というのは外せないんでしょうが。
全く関係ない萌えの部分で言いますと、
「………そのうちな。今日はまだダメだ」
という台詞があるとします。これを銀さんが言っていても、全くおかしくありませんし、ごく普通の台詞なんですが、これが、
「………そのうちな。今日はまだダメ」
と、「だ」を一文字抜いただけで、ほら、大変身!(さあどこで言っているか、単行本をお持ちの方は探してみよう。笑)
これ、別に普段からそういう話し方をしていたら、別に萌えないんですが、普段は普通に男の話し方をしていて、唐突に「だ」とかが抜けると、非常に可愛い。
例えばこれも可愛い。
「それほど不利になったと、俺は思ってねえ」
「は………?」
ここまでは普通の一コマ。で、次が凄い。
「不利になってないんですか………?」
「なってない………」
と、ここでも伝家の宝刀一文字抜きが!(造語)
例えばここなら、
「なってないな」とか「なってねえ」ならわかるんですよ。前の台詞ともかねあいもあって。
でもいきなりそこで、妙に気安い口調になっちゃうのが、ちらりと見せた油断というか、子どもっぽい本質みたいで、非常に萌えるんですな。
言うまでもないですがこれは、大の大人が使ってるからもだえるのであって、幼年が使っていても私は萌えませんよ(力説)。
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先日、前々から興味があった『文楽』を見に行ってきました。
文楽と言えば人形浄瑠璃。
なじみのない方にはさっぱりわからない、私だってさっぱりわからない文化です。
演目は、『冥途の飛脚』。
メイドの飛脚………?(違う)
実は見終わった今も、正確な意味はよくわからないので、詳しくは上記リンクをご参考ください。
まず向かうは国立劇場の小劇場です。
半蔵門駅から徒歩数分で到着。
「うわ、すげえ年齢層高い」
齢三十の私が一番若い、くらいの客層でした。じじばばじじばばばばばばばばばばばばくらい。
その後、明らかに勉強の一環として来てますよ、という若い学生さんらしき人たちもいましたが、純粋な好奇心で来ているのは私だけのようでしたので、勝利者とみなします(何の?)。
とりあえず会場入りして、真っ先にパンフレットを購入します。
事前に、読むもの読んどかないとわけわからんよという情報は仕入れていたので、知り合いと必死にあらすじだけ読みます。
読んだ結果、結局飛脚屋に養子に入った男が、芸者のために金を使い込んで、最終的には逃亡する話、ということがわかりました。
パンフレットには原本(床本集)もついているのですが、それからしてバリバリの旧仮名遣いに、昔の言葉ですからね。読めやしませんよ。
なので、始まる前に必死になって内容を把握しておくことをお勧めします。
会場は小劇場なので、一番最終列でも20列くらいです。
ネオロマフェスタとは雲泥の差ですが、15列目くらいなら見えるだろうと予想し、それは甘かったことを後で思い知ります。
幕が開き、舞台が始まります。勿論拍子木つきで。
すると、舞台右から、唐突に大夫(語り手。文楽は活動写真のように、すべての台詞などを、一人の人が話す)と三味線の人が現れます。
バン!
私「ギャ!?」
何故私が仰天したかというと、大夫と三味線の二人が並んで、突然、ニンジャ隠れ屋敷の観音扉のように、座った状態で奥から物凄い勢いで飛び出てくるからです。
びっくりした! びっくりしたよ!
黒子の人が舞台の説明をし、大夫と三味線の人の紹介と共に一礼します。大夫の人はただ頭を下げるだけでなく、目の前の教本らしきものを顔に近づけて礼をするのが、非常に新鮮。
そして、第一幕の三味線ひきの人が………一礼後、三味線を構える前に、三味線にキス。
私「ええー!? それどんなパフォーマンスー!?」
まだ舞台上に人形が出てもいないのに、こちらのテンションはテッペンまで跳ね上がりました。純和風の世界に、その行動意味不明だよ三味線の人!
舞台が始まると、人形たちがわらわらと現れます。
文楽は子どもくらいの大きさの人形を、大人二人か三人で操るのですが、右手と顔を操る人間は、基本的に着物と袴で顔が出ています。
それ以外の場所、例えば左手だったり、足を操る係りの人は、完全に黒子の格好をしていて、人としての判別はつきません。
文楽を見に行くと、人間が顔を出して操っていることなんて、気にならなくなるよというのは、よく言われることなんですが、私は初めから全く気になりませんでした。
大体それをいうなら、指人形だって、操り人形だって、糸や指や、あきらかにそれが部分的であっても、人とわかる部分が出ているわけですから、それも含めて「演技」だと初めから認識できない人は、何を見ても楽しめない人だと思います。
逆に、人形に集中できるというより、その操っている人も含めて一つの演技として見られるので、それはそれで楽しいです。
勿論演じている人は、顔が出ていたとしても、実際の俳優さんのように、顔に表情を出したりは一切しません。体の演技は=人形の演技ですしね。
舞台が始まると、人形の動き、大夫の人の語り、三味線の演奏、加えて、舞台左右上部に、電光掲示板のように、実際何を語っているかの文が出ます。
これは、始めて見た人、台詞を知りたい人には非常に便利なモノなのですが、こっちは忙しくてそれどころじゃねー!
小劇場といえども、舞台の広さは結構あるので、そこで、人の身体より小さい人形が演技するのを見るのは、非常に集中力がいるのです。
しかも前から十五列目。
人形の細かな動きを見るためには、オペラグラスが必需品です。
勿論、遠目から見ても、その動きがまさに神業なのは見て取れるのですが、それも見逃さないためには目を離せないし、おまけに、人形は一体じゃない………。
視線が散らばるし、そのどれもを見ていたいし、語りの意味を知るために、視線を他所に向けている暇が正直ない。
逆に、ふらーっと視線を他所に向けて、文を確認したりしている間に、舞台上の動きを見逃した! とか平気であるので、なれないうちは、舞台に集中しておくほうが無難です。
ああやっぱり、本気で楽しむなら、最低でも中央列よりも前にいないと駄目だなこれは。
人形の動きに関しては、文句なしです。
筆、硯、煙管などの、手に持つ道具を利用しての細かな動作が、非常に上手い。
激しく硯で墨をすり、筆を走らせる。
荷物を担ぐ。
眼を瞠るほどの動きの妙がそこかしこで見られます。
そうこうしている間に、第一幕、第二幕終了。
養子忠兵衛は、友人八右衛門に渡さなければならない商売の金を、芸者梅川に使い込んでしまいます。
ですが、梅川にかけるその情にほだされ、八右衛門は目を瞑ろうとするのですが、忠兵衛の母親はそれを見咎め、金を返すように言います。
偽の返済書を書き、金の変わりに、道具を風呂敷に包んで八右衛門に渡す忠兵衛。
八右衛門はその場を引き下がりますが、忠兵衛は、その後、侍に渡さねばならない大金を抱えて、梅川の元に行ってしまうのでした。
私「筋としては、とにかく、忠兵衛がどうしようもない奴だってことはよくわかった。あれだって、ただの横領だよ。しょうもない奴だな。親友に泣き落としってどういうことだよ。しかも、梅川の元に着服した金を抱えて、行こうかどうしようか迷ったあげくに、犬に石投げて憂さ晴らしした挙句に、行くって、どれだけへたれなんだよ。あいつは本当に駄目な男だ」
知り合い「私も詳しくは知らないけど、基本的に心中したりする話の相手の男って、大体甲斐性のかけらもない情けない男だよ」
情緒もへったくれもない会話を、休憩時間に交わします。
というか、休憩時間あるんですね。知りませんでした。
第一幕が終わり、第二幕。また、バン! と凄い音を立てて、大夫と三味線が変わります。
そして25分ほどの休憩を挟みます。その間に、慣れている人は食事をしたりするわけですね。なるほど。
そして、第三幕の開始です。
いよいよ男性ばかりの人形以外に、きれいどころの芸者さんたちや、梅川も現れます。着物の長い女性の動きや、泣き崩れる動作。
まさに漫画で言うと、「よよよ………」という擬音がぴったりの動作が似合う梅川を演じるのが、うす水色の袴がシャープに似合うじじいだぜ!(やった!)
実はそれまで、顔を出して演じている人はそんなお年寄り、という感じではなかったのですが、出たよやっぱり梅川はじいちゃんじゃないと!
勿論演技も非常に上手い。
操り手の衣装もそうですが、人形の衣装一つとっても素敵です。
忠兵衛はストライプの爽やかな衣装。頑強そうな八右衛門は茶の地に黒の襟巻き。
そして、客の金を使って、梅川を見受けしてしまった忠兵衛の上着の裏地は黄緑色と、色合いが非常に素敵。
結局二人は逃避行をはかり、空降る霙が抱き合う二人を濡らします。
最終幕はこんな感じで終わるのですが、その前に、大夫と三味線が四人ずつ勢ぞろい!
すっげえ! 壮観!
全員、黒の着物に、青い裃をつけて、カッケエ!
そしてその三味線の内側から二番目、お前キスの奴だろ!
案の定そうでした。
私、そういう記憶力伊達じゃないぜ。
それにしても最終幕の演奏は、やはり人数が多いだけあって迫力がありました。歌声にしても、三味線の演奏にしても。
逆に終わり、がはっきりしない以上、あれだけの人数で迫力のまま押し切るのはいいな、と思いました。
以上で終了。
正直、人形が動いているときはいいんですが、人形がぴたっと動かなくなり、心情の吐露が始まったりすると、すげえ眠くなったんですが、これは慣れてないからじゃないかと。
知り合いが言っていたんですが、これを作られた当初は、嫌な言い方ではなく、よくある話であって、気持ちや時代背景なども当たり前のように入り込める以上、もっと受け入れやすかったのではないかと。
なるほど、そうかもしれませんね。
今度があるなら、もっと前で、そして、人形の動きがぱーっと派手なものを見たいと思いました。
その後、表参道に移動して美術館へ。
表参道ヒルズにも行ってみたんですが、あまりに人が多いのと、昼飯に2000円も払えないという貧乏人の相違のもと、ラーメンを食べて向かいました。
いや別に払いたい人は払えばいいよ。
しかし、ヒルズの建物って変な作りですね。何であんなに床が斜めなの?
行ったのは、『太田記念美術館』です。
今回は『浮世絵の夜景』がテーマでしたが、これが、半端なくオシャレでした。
浮世絵は版画ですが、何色刷りなんだよと突っ込みしたくなる柄と色のセンスのよさ。
そして何より、構図の素晴らしさ。
歌川広重も有名だと思いますが、どこをどうやったらこんな構図考えられるんだよ、と言うものが山ほどあります。半端ねえよ遠近法とか。視点の取り方とか。
そして、妙に下歯が出ている女の人たちばかりが浮世絵じゃない。西洋風というか、陰影のはっきりした、今のイラストでも充分古臭さを感じさせない絵も山ほどありました。面白かったです。
特に、葛飾応為 「吉原格子先の図」 はびっくりするくらい素敵でした。ただ、葛飾応為は夏に行方不明になってそれっきりというへこむ情報まで陳列されていたので、テンションは微妙に下がりました。
そんな情報いらん。
小林清親も素敵でした。ここまでくると、浮世絵というジャンルを離れた、一つの絵ですね。
日本づくしの一日でしたが、満足です。
文楽と言えば人形浄瑠璃。
なじみのない方にはさっぱりわからない、私だってさっぱりわからない文化です。
演目は、『冥途の飛脚』。
メイドの飛脚………?(違う)
実は見終わった今も、正確な意味はよくわからないので、詳しくは上記リンクをご参考ください。
まず向かうは国立劇場の小劇場です。
半蔵門駅から徒歩数分で到着。
「うわ、すげえ年齢層高い」
齢三十の私が一番若い、くらいの客層でした。じじばばじじばばばばばばばばばばばばくらい。
その後、明らかに勉強の一環として来てますよ、という若い学生さんらしき人たちもいましたが、純粋な好奇心で来ているのは私だけのようでしたので、勝利者とみなします(何の?)。
とりあえず会場入りして、真っ先にパンフレットを購入します。
事前に、読むもの読んどかないとわけわからんよという情報は仕入れていたので、知り合いと必死にあらすじだけ読みます。
読んだ結果、結局飛脚屋に養子に入った男が、芸者のために金を使い込んで、最終的には逃亡する話、ということがわかりました。
パンフレットには原本(床本集)もついているのですが、それからしてバリバリの旧仮名遣いに、昔の言葉ですからね。読めやしませんよ。
なので、始まる前に必死になって内容を把握しておくことをお勧めします。
会場は小劇場なので、一番最終列でも20列くらいです。
ネオロマフェスタとは雲泥の差ですが、15列目くらいなら見えるだろうと予想し、それは甘かったことを後で思い知ります。
幕が開き、舞台が始まります。勿論拍子木つきで。
すると、舞台右から、唐突に大夫(語り手。文楽は活動写真のように、すべての台詞などを、一人の人が話す)と三味線の人が現れます。
バン!
私「ギャ!?」
何故私が仰天したかというと、大夫と三味線の二人が並んで、突然、ニンジャ隠れ屋敷の観音扉のように、座った状態で奥から物凄い勢いで飛び出てくるからです。
びっくりした! びっくりしたよ!
黒子の人が舞台の説明をし、大夫と三味線の人の紹介と共に一礼します。大夫の人はただ頭を下げるだけでなく、目の前の教本らしきものを顔に近づけて礼をするのが、非常に新鮮。
そして、第一幕の三味線ひきの人が………一礼後、三味線を構える前に、三味線にキス。
私「ええー!? それどんなパフォーマンスー!?」
まだ舞台上に人形が出てもいないのに、こちらのテンションはテッペンまで跳ね上がりました。純和風の世界に、その行動意味不明だよ三味線の人!
舞台が始まると、人形たちがわらわらと現れます。
文楽は子どもくらいの大きさの人形を、大人二人か三人で操るのですが、右手と顔を操る人間は、基本的に着物と袴で顔が出ています。
それ以外の場所、例えば左手だったり、足を操る係りの人は、完全に黒子の格好をしていて、人としての判別はつきません。
文楽を見に行くと、人間が顔を出して操っていることなんて、気にならなくなるよというのは、よく言われることなんですが、私は初めから全く気になりませんでした。
大体それをいうなら、指人形だって、操り人形だって、糸や指や、あきらかにそれが部分的であっても、人とわかる部分が出ているわけですから、それも含めて「演技」だと初めから認識できない人は、何を見ても楽しめない人だと思います。
逆に、人形に集中できるというより、その操っている人も含めて一つの演技として見られるので、それはそれで楽しいです。
勿論演じている人は、顔が出ていたとしても、実際の俳優さんのように、顔に表情を出したりは一切しません。体の演技は=人形の演技ですしね。
舞台が始まると、人形の動き、大夫の人の語り、三味線の演奏、加えて、舞台左右上部に、電光掲示板のように、実際何を語っているかの文が出ます。
これは、始めて見た人、台詞を知りたい人には非常に便利なモノなのですが、こっちは忙しくてそれどころじゃねー!
小劇場といえども、舞台の広さは結構あるので、そこで、人の身体より小さい人形が演技するのを見るのは、非常に集中力がいるのです。
しかも前から十五列目。
人形の細かな動きを見るためには、オペラグラスが必需品です。
勿論、遠目から見ても、その動きがまさに神業なのは見て取れるのですが、それも見逃さないためには目を離せないし、おまけに、人形は一体じゃない………。
視線が散らばるし、そのどれもを見ていたいし、語りの意味を知るために、視線を他所に向けている暇が正直ない。
逆に、ふらーっと視線を他所に向けて、文を確認したりしている間に、舞台上の動きを見逃した! とか平気であるので、なれないうちは、舞台に集中しておくほうが無難です。
ああやっぱり、本気で楽しむなら、最低でも中央列よりも前にいないと駄目だなこれは。
人形の動きに関しては、文句なしです。
筆、硯、煙管などの、手に持つ道具を利用しての細かな動作が、非常に上手い。
激しく硯で墨をすり、筆を走らせる。
荷物を担ぐ。
眼を瞠るほどの動きの妙がそこかしこで見られます。
そうこうしている間に、第一幕、第二幕終了。
養子忠兵衛は、友人八右衛門に渡さなければならない商売の金を、芸者梅川に使い込んでしまいます。
ですが、梅川にかけるその情にほだされ、八右衛門は目を瞑ろうとするのですが、忠兵衛の母親はそれを見咎め、金を返すように言います。
偽の返済書を書き、金の変わりに、道具を風呂敷に包んで八右衛門に渡す忠兵衛。
八右衛門はその場を引き下がりますが、忠兵衛は、その後、侍に渡さねばならない大金を抱えて、梅川の元に行ってしまうのでした。
私「筋としては、とにかく、忠兵衛がどうしようもない奴だってことはよくわかった。あれだって、ただの横領だよ。しょうもない奴だな。親友に泣き落としってどういうことだよ。しかも、梅川の元に着服した金を抱えて、行こうかどうしようか迷ったあげくに、犬に石投げて憂さ晴らしした挙句に、行くって、どれだけへたれなんだよ。あいつは本当に駄目な男だ」
知り合い「私も詳しくは知らないけど、基本的に心中したりする話の相手の男って、大体甲斐性のかけらもない情けない男だよ」
情緒もへったくれもない会話を、休憩時間に交わします。
というか、休憩時間あるんですね。知りませんでした。
第一幕が終わり、第二幕。また、バン! と凄い音を立てて、大夫と三味線が変わります。
そして25分ほどの休憩を挟みます。その間に、慣れている人は食事をしたりするわけですね。なるほど。
そして、第三幕の開始です。
いよいよ男性ばかりの人形以外に、きれいどころの芸者さんたちや、梅川も現れます。着物の長い女性の動きや、泣き崩れる動作。
まさに漫画で言うと、「よよよ………」という擬音がぴったりの動作が似合う梅川を演じるのが、うす水色の袴がシャープに似合うじじいだぜ!(やった!)
実はそれまで、顔を出して演じている人はそんなお年寄り、という感じではなかったのですが、出たよやっぱり梅川はじいちゃんじゃないと!
勿論演技も非常に上手い。
操り手の衣装もそうですが、人形の衣装一つとっても素敵です。
忠兵衛はストライプの爽やかな衣装。頑強そうな八右衛門は茶の地に黒の襟巻き。
そして、客の金を使って、梅川を見受けしてしまった忠兵衛の上着の裏地は黄緑色と、色合いが非常に素敵。
結局二人は逃避行をはかり、空降る霙が抱き合う二人を濡らします。
最終幕はこんな感じで終わるのですが、その前に、大夫と三味線が四人ずつ勢ぞろい!
すっげえ! 壮観!
全員、黒の着物に、青い裃をつけて、カッケエ!
そしてその三味線の内側から二番目、お前キスの奴だろ!
案の定そうでした。
私、そういう記憶力伊達じゃないぜ。
それにしても最終幕の演奏は、やはり人数が多いだけあって迫力がありました。歌声にしても、三味線の演奏にしても。
逆に終わり、がはっきりしない以上、あれだけの人数で迫力のまま押し切るのはいいな、と思いました。
以上で終了。
正直、人形が動いているときはいいんですが、人形がぴたっと動かなくなり、心情の吐露が始まったりすると、すげえ眠くなったんですが、これは慣れてないからじゃないかと。
知り合いが言っていたんですが、これを作られた当初は、嫌な言い方ではなく、よくある話であって、気持ちや時代背景なども当たり前のように入り込める以上、もっと受け入れやすかったのではないかと。
なるほど、そうかもしれませんね。
今度があるなら、もっと前で、そして、人形の動きがぱーっと派手なものを見たいと思いました。
その後、表参道に移動して美術館へ。
表参道ヒルズにも行ってみたんですが、あまりに人が多いのと、昼飯に2000円も払えないという貧乏人の相違のもと、ラーメンを食べて向かいました。
いや別に払いたい人は払えばいいよ。
しかし、ヒルズの建物って変な作りですね。何であんなに床が斜めなの?
行ったのは、『太田記念美術館』です。
今回は『浮世絵の夜景』がテーマでしたが、これが、半端なくオシャレでした。
浮世絵は版画ですが、何色刷りなんだよと突っ込みしたくなる柄と色のセンスのよさ。
そして何より、構図の素晴らしさ。
歌川広重も有名だと思いますが、どこをどうやったらこんな構図考えられるんだよ、と言うものが山ほどあります。半端ねえよ遠近法とか。視点の取り方とか。
そして、妙に下歯が出ている女の人たちばかりが浮世絵じゃない。西洋風というか、陰影のはっきりした、今のイラストでも充分古臭さを感じさせない絵も山ほどありました。面白かったです。
特に、葛飾応為 「吉原格子先の図」 はびっくりするくらい素敵でした。ただ、葛飾応為は夏に行方不明になってそれっきりというへこむ情報まで陳列されていたので、テンションは微妙に下がりました。
そんな情報いらん。
小林清親も素敵でした。ここまでくると、浮世絵というジャンルを離れた、一つの絵ですね。
日本づくしの一日でしたが、満足です。
泡坂
澤田
池波
の会話。
泡坂「澤田さん!」
澤田「な、なんだ!?」
「ほら、見てくださいよ、これ!」
「これってどれだ!?」
「ええ!? 気づかないんですか!? こんなに完璧に違うのに!」
「だから、何がだ! 急に飛び込んできて顔を突き出されても、何がなんだかわかるわけないだろう。というか、 お前、もう少し離れろ! 近い!」
「ええい、ふがいない! 池波さんならすぐにわかるのに。わかりますよね、池波さん」
池波「あ? ああ、まあな。きれいになってるし」
「ほら、わかる人にはすぐにわかるんですよ」
「本当に、池波はわかってるのか?」
「なんだ、お前その目。じゃあヒントな。顔だ、顔」
「顔? 顔がどうかしたか?」
「だからそれを聞いてるんでしょうが………。ちっとも話が進みませんね」
「泡坂の顔で、どこか変わってるところあんだろ」
「泡坂の顔で?」
「………………………」
「………………………………」
「………あの、あんまりきれいな顔でまじまじと見られると、さすがに殴りたくなるんですけど」
「やめろ。顔………顔か。変わってるところか………そうだな、眼の色とか」
「私は裸眼で1.5ある女ですよ! そんなわけないでしょうが! カラーコンタクトでも入れてるってんですか! それは何らかのコスプレですよ!」
「お前なあ、きれいになってるって俺言っただろうが」
「そ、そんなこと言われても、他に何かあるのかわかるわけないだろう!」
「眉」
「は?」
「だから、眉だよ、眉毛」
「眉毛がどうかしたか? ちゃんとあるが」
「そりゃあるでしょうよ………。なかったら色々な意味で大問題ですよ。そうじゃなくて、ほら、 眉毛がきれいになっていると思いませんか?」
「いや別に。きれいになってるのか?」
「お前なあ、いくら女の顔に興味がないからって、どこまで鈍いんだよ」
「そんなつもりじゃない! そうじゃなくて、別に今まで泡坂の眉毛なんて、気にしたことなかったから」
「いえ、もういいです。澤田さんに一般的な男子の感性を求めたのが間違いでした。池波さんが気づいてくれたんで、それでいいです」
「随分すっきりしたけど、元の形も残っててきれいだな。前より随分色味が明るくなったし」
「そこまで詳しく理解されるのも、ちょっと微妙です」
「お前一体なんなんだ」
「別に何でもねえよ。なんだ、泡坂、何処かエステでも行ったのか」
「そうなんです。今ちょっと話題の眉エステに行ってきました。色々面白かったですよ」
「眉エステとは、何をするところなんだ?」
「眉毛をエステするところです」
「眉毛をどうエステするんだ?」
「余分な毛を抜いたり、メイクしてくれたりすんだろ」
「眉を? わざわざ? なんでそんなことを」
「澤田さんだって、お母さんがお化粧している姿とか、見たことあるでしょう? 眉毛書いたり、そったりしているの。 というか、澤田さんは眉毛の手入れとか、したことないんですか?」
「するものなのか? 俺は眉毛なんて今まで一度もいじったことはないが」
「まあ。お前の眉毛きれいだしな。形整ってるし」
「というか、澤田さんは全ての顔かたちが整いすぎですよ。パーツに微塵の揺らぎもない。こうして 全てを持って生まれてくるやつがいるから、懸命に努力しても報われないはめになる奴もいる………。顔から下はただのもやしっ子なのに、 やっぱり人間顔ですね。クソッ」
「何で俺がそこまで言われなきゃならないんだ。ともかく、眉エステに行ったんだろう? それできれいになった なら良かったじゃないか」
「いえ、ですから、そういうリアクションが欲しいのではなく………」
「どんな感じだった? ぱっと見、そんなに毛を切ったりしてねえみたいだけど」
「そうですね、それでは事の顛末をお話いたしましょう」
「初めから話してくれればいいのに」
「お前、それ聞こえるように言うなよ。ぶっ飛ばされるぞ」
「俺は、泡坂が話す内容なら、どんなことでもちゃんと聞く」
「それも言うなよ。身もだえする人もいるから。泡坂はしねえけど」
「ええとですね、まず行ったのは『アナスタシア』ってとことです。結構有名みたいですね。私は所詮貧乏大学生ですから、 エステなんて行ったことなかったんですけど、どうせ行くならとりあえず、有名どころで間違いないかな、と思って。新しく新装開店した、 新宿高島屋に行って参りました」
「へえ、高島屋リニューアルしたのか」
「そうみたいですね。結構変わっててびっくりしました。私も詳しく調べていったわけではないので、見せ前の案内板を見たんですけど、 そこにアナスタシアの文字がない」
「駄目だろう、それ」
「多分、一階の化粧品フロアだとは思ったんですけどねえ。で、案内冊子をぱらぱらめくっていたら、唐突に頭上から声が」
「知り合いか?」
「いいえ、全然。中年のおじさんでした。一瞬、何事かと思ったんですけど、お店の人で、どの店を探しているのか、と、 声をかけてくれたんですよね。私、そんな人が立ってたことも気づかなかったし、声をかけられるとも思ってなかったので、仰天して固まりましたよ。 どのブランドをお探しですか、って言われたんですけど、その瞬間、アナスタシアの名前がぶっ飛びまして。超挙動不審でした」
「泡坂でも驚いて声が出ない、なんてことあるんだな」
「澤田さん、貴方私をなんだと思ってるんですか。まあ、そこで素人っぷりをアピールしつつ、冊子に 文字を見つけたので、半笑いしながら、降りていったわけですが、それがもう、凄いんだ」
「何が?」
「一面に広がる化粧品売り場が。もう、半端じゃないんですよ。まるまる1フロア化粧品売り場って、そうそうないですから。 大体、一階の半分くらい使って、それで大きい方じゃないでしょうか。それがもう、真っ白かつ、真っ透明な世界が、これでもか! と 広がってるもんですから、降りた途端にドン引きですよ」
「真っ透明ってなんだ?」
「俺、なんとなく想像つく」
「汚れが微塵もないというか、汚れている奴は入るな! くらい、迫力のある世界でしたね。普段化粧なんてしないもんですから、 あのフロア、完全に私場違いでしたよ。思わずびびって、もう一階降りてしまいました」
「何故」
「なんか気後れしたんですよ! 澤田さんだって、自分の下着を買いに行って、その途中でだだっ広い女性下着売り場が広がってたら、 びびるでしょうが!」
「俺は女性下着売り場など行かん!」
「その前に、男性下着と女性下着は一緒のフロアにはねえ」
「まあそれでですね、地下の食品売り場で時間を潰してから、そろそろいいかな、とまた舞い戻ったわけですが、 ぐるっとフロアを見回してみると、それらしきスペースがないんですよね。うろうろしているのもなんかかっこ悪くて、無駄に携帯をいじってみたり」
「案内板とかなかったのか?」
「よくよく探してみるとあったんですけどね。それも凄く目立たない感じに設置してあって。ああいうものは、ばーんとでっかく、 目立つように置いてナンボだと思うんですけどね」
「それは不便だな」
「お前なら、五秒で迷子だな」
「その前に、澤田さんなら新宿駅から高島屋までたどり着けるかどうか。まあ、そんなことは置いておいてですね、 案内板で無事に発見したので、到着したわけです。思っていたよりもずっと小さくて、本当に1スペースっていう感じでした。 受付にお姉さんがいましたんで、そこで名前と予約時間を告げたら、別のお姉さんが出てきて、奥に案内されて、延々説明を受けながら、 同意書なんかにサインするわけです」
「人、いっぱいいたか?」
「それが、結構いたんですよ。施術してもらえるカーテンでしきられたスペースが、4個くらいあるのかな。それは殆ど埋まってましたし、 私のほかにも順番を待ってる人もいましたし。その待っている人も、これ以上何処をいじるのだというくらい、きれいにメイクしている人で、 別な意味で何故だ、とか思いましたけど」
「同意書、というと結構大げさな感じがするが」
「でも、エステとかだと大体書くみたいですよ。やっぱり肌の赤みとか、皮膚の弱い人とか、色々いるでしょうから。 眉周りのエステなので、その質問が殆どでしたね。アトピーはあるかとか、塗り薬は使っているか、とか」
「お前、アトピーあるだろ」
「ありますけど、それにびびってたら生きられませんよ、アトピー持ちは。やろうと思ったことはやらねば、 人生損します」
「たくましいな」
「本当にな」
「まあ、そんなこんなで、個室に案内されて、お姉さんが色々説明してくれて、施術開始になります。ただそのお姉さんがねえ………」
「なんだ?」
「常に床に両膝ついて話すんですよ。こっちよりも目線を下にして話している、っていうのはわかるんですけど、 そこまでへりくだる必要ないというか、却って膝とか汚いだろうとか、色々思うところはありましたねえ」
「慇懃無礼、というやつだな」
「別にお姉さんが不愉快だったとか、そんなことはないんですけど、接客業として基本レベルに達していれば、それこそ、 過度な気遣いは無用だと思うんですけど。まあ、それはそれとして、美容院のシャンプーのときみたいに、椅子を倒して寝るわけです。 で、いよいよ眉毛の説明ですね。さて、澤田さん、ボールペンありますか?」
「? ああ」
「ありがとうございます。で、そこに横になってください」
「? こうか?」
「ありがとうございます。じゃあ、池波さん、澤田さん押さえつけてください」
「おう」
「ちょっと待て! なんだ、俺は何をさせられるんだ!?」
「じっとしててくださいよ、説明できないじゃないですか」
「だからって、何で俺なんだ! 池波の眉毛でやればいいだろう!」
「俺じゃ駄目だろ」
「何故!」
「リアクションが面白くないから」
「どんな理由だ!」
「まあいいじゃないですか。滅多にない経験ということでひとつ」
「何がひとつだ! おい、池波お前も離せ!」
「すぐ終わるだろうから、じっとしてろよ。泡坂が、油性ペンじゃなく、ボールペンを持ち出したところに、 気づきにくい優しさを感じようぜ」
「そんな配慮の前に、俺を離せ!」
「じゃあ、説明しますね。お姉さんがやったようにはできませんけど、ざっと。大体全部覚え切れているわけないし。 まずですね、こう自分の小鼻のところにこう、軸をあてて真っ直ぐに眉に伸ばしたあたりが、眉頭の終点になります。つまり、それより内側が、 無駄な毛になるわけですね。だからこう、ちょっとしるしを右と左につけまして、この空間に生えている毛は処理します………って、 ないけど、処理する毛」
「その残念そうな顔やめろ」
「次は、その小鼻のところから、顔の側面に向かって斜めに軸を当てて、眼の横を通ってたどり着いたあたりが、 眉尻になります。これも眉頭と同じではみだしているのが無駄な毛なわけですね」
「やっぱりねえけどな、無駄な毛」
「段々馬鹿馬鹿しくなってきましたけど、進めます。で、この眉尻を少し上にあげると、ちょっときりとした印象になって、 下に下げると優しい感じになるんですって。どちらにしますか? と聞かれたんで、よくわからないのでいいようにしてください、って伝えたら、
「やさしいお顔立ちをしていらっしゃるので、眉毛も優しい感じに」
と返されました。生まれて初めてですよ、優しい顔立ちなんて言われたの」
「物は言い様だな」
「さあ、次行きますよ! で、次は本人の骨格に合わせたステンシルを用意して、それを当てて、 塗ります! そのステンシルの内側をとにかく全部塗るんです。これはあくまで目安なので、その色が残るわけじゃないんです」
「この塗りつぶした部分が眉毛のベースで、それ以外の無駄な毛を処理する、ってことだな」
「そうですね。この時点で鏡を見せてもらったんですけど、まあびっくりしましたよ。ゴルゴ13かと思いました。 焼き海苔がのっかってるみたいで。そう、今の澤田さんのように」
「………お前………ボールペンで俺の眉毛塗ったな………」
「骨格の話とかも面白くてですね。例えば私だと、この眉の上のなだらかなラインがありますよね。この骨格が、 左の方がなだらかで、右の方がちょっといかつい感じなんですって。眉の形なんて左右違ってて当然ですから、これもどっちに合わせるか、っていう 話になるんですよね。これもまあ、お姉さんのお勧めに従って優しい感じに合わせることになったんですけど、澤田さん何か言いました?」
「何も言ってない」
「でもそうなると、右側の眉、ちょっと処理しないと駄目だろ。上の方も」
「そうなんです。普通眉のメイクって、眉上部は基本的に処理しないんですけど、ここでほんのちょっとだけ、右の眉の上だけを処理することになるんですよね。 この量とかは、多分選んだ眉の太さとかで違ってくると思うんですが。私は髪の毛も多いですし、眉の量も多かったですから、はみ出した部分結構処理したのかな。 で、ともかく抜く部分がわかったので、これからワックス抜きに入ります」
「痛みはどんなだった?」
「それが全然痛くなかったです。痛みに強い体質ではありますけど。ちょっと熱いかな、くらいのワックスを塗られて、びし、っと お姉さんが紙を当てて抜いていくんですが。まあ最もこっちはずっと眼を瞑ってるんで、何をしているのかは厳密には分からないんですけどね。 お姉さんの話だと、痛くて涙ぐむ人もいるらしいんですけど、そんなことは全くありませんでした。で、その後ワックスで抜け切らないところとか、細部を 毛抜きで処理してくれるんですけど、そっちのほうがよっぽど痛いです」
「そういうのは、俺にはよくわからないな」
「男は基本的に、自分の毛を抜く機会なんてそうそうないからなあ。スネ毛とか抜く奴もいるらしいけど」
「そうですね。強いて言えば、そり残したひげとか、鼻毛とかですか」
「お前、俺をなんだと思ってるんだ」
「で、きれいに抜いてもらったら、少しの間アイシングします。私アトピーありますけど、ワックス使用後も、全然肌は赤くなりませんでしたし、 痛くもなりませんでしたよ。その辺は、お姉さんが色々気を使ってくれたみたいでしたが。アイシングが終わったら、いよいよメイクですね。これもちゃんと お姉さんに希望すれば、最初から最後までちゃんと手鏡を使って過程を見せてくれます。でもですね、きれいにワックスで毛を抜くと、 この時点でかなりきれいなんですよ。毛が薄い人じゃなければ、これで充分なんじゃないかな、ってくらい。
メイクですが、まずブラシでパウダーをのせます。このとき、眉頭を薄くするのがポイントらしいです。ブラシを上手く使って、眉が抜けているところを埋めたり、 ブラシで眉の流れにそって書くようにしたりとか。で、仕上げはペンシルでしたけど、これは殆ど使わなかったですね。私は毛が濃かったですから」
「明るい色になったのは、なんか理由でもあるのか?」
「私も、元の眉毛が黒いですし、それに合わせるのかと思ったら、そうじゃないらしいんですね。基本的に眉の色が濃ければ、 それだけ印象が強くなりますし、私の場合髪の毛を染めていて明るい色味ですから、それに合わせるらしいです。私はパウダーは一番明るいので、 ペンシルは二番目に明るい奴でした。で、マスカラを利用して眉毛そのものの色をちょっと明るくして、何だかよくわからないんですけど、 透明なジェルみたいなものをつけて、ここでやっとはさみなんですよね」
「へえ。それまで眉毛切らないのか」
「そうなんですよ。他はわかりませんけど、ここは元の眉毛を最大限に利用する、がコンセプトらしくて、眉毛殆ど切りませんでした。 本当に最後の最後にほんのちょっと切るだけで。これはびっくりしましたね。私普段、庭の芝刈りのように、ざくざく切ってたんですけど、 そうしなくてもきれいになるってことがよくわかりました。で、最後の仕上げでコンシーラーを眉の上と、下に塗って、手で馴染ませておしまい。 正味一時間くらいでしたね。初回ですから」
「凄く自然な感じだから、いいんじゃねえの。何かしつこく勧められたりしなかったか? エステってよくそういうの聞くだろ」
「最後に、使った道具の説明っていうのがありましたね。別に感じ悪くなかったですよ。ただ私は、初めから買う気満々 だったんで、パウダーと筆とステンシルとコンシーラー買いました。ペンシルは今使ってるのがあるんで。パウダーとかじゃなくて、 いい筆って、なんていうか安物と明らかに違って気持ちいいんですよねえ。その分、筆が一番高くてびっくりでしたけど、 いいんだ、これもう、一生使ってやるから」
「きれいになったけど、頻繁に行かないとやっぱ駄目なんかね」
「それがそうじゃないらしいんですよね。抜いた毛がボーボーに生え揃うまで、40日くらいかかるらしいんですよ。 だから次は、12月の頭くらいに行けばいいらしいです。それだけ間を空けていいのなら、ちょっとまた次も来てきれいにしてもらおうかな、って 思いますよね。それまでは一度きれいにしてもらった下地を元に、自分でちょっと手入れすればいいわけですから」
「全体的に満足だったんだろ? 仕上がりとか」
「そうですね。私にみたいに普段化粧しなくて、詳しくない人間にとっては、凄く勉強になりましたし、眉って 一番難しくて、一番見た目ではっきりとわかる部分なんで、やってもらってよかったと思います。勿論、化粧慣れして眉毛も完璧に自分でできる 人にとっては、今更な情報かもしれませんけど、そういう人は初めからこの手のエステには行かないでしょうし」
「いいんじゃねえの。何に金かけるかは、人それぞれだし。な、澤田」
「お前ら、途中から俺の存在どうでも良くなっただろう」
「仕方がないじゃないですか。実際毛を抜くわけにはいかないし」
「抜かれてたまるか! もう離せ、起きる」
「まあ、こういう努力の結晶でメイクは成り立ってるわけですよ。勉強にはなりましたけど、この手のことに時間をかけなきゃいけない 時点で女は面倒くさいです」
「まあなあ。男はここまで力入れないだろうしなあ」
「ちょっと、コンビニ行ってくる。何か買ってくるものあるか?」
「いえ、別に」
「俺もねえな。おい、澤………」
「そうか」
「行っちゃいましたけど、池波さん何か言いかけてませんでした?」
「いや、あいつ、ボールペン眉毛のまま出てったと思って」
「澤田さーん! 待て、待て、ちょっと待てコラー!」
澤田
池波
の会話。
泡坂「澤田さん!」
澤田「な、なんだ!?」
「ほら、見てくださいよ、これ!」
「これってどれだ!?」
「ええ!? 気づかないんですか!? こんなに完璧に違うのに!」
「だから、何がだ! 急に飛び込んできて顔を突き出されても、何がなんだかわかるわけないだろう。というか、 お前、もう少し離れろ! 近い!」
「ええい、ふがいない! 池波さんならすぐにわかるのに。わかりますよね、池波さん」
池波「あ? ああ、まあな。きれいになってるし」
「ほら、わかる人にはすぐにわかるんですよ」
「本当に、池波はわかってるのか?」
「なんだ、お前その目。じゃあヒントな。顔だ、顔」
「顔? 顔がどうかしたか?」
「だからそれを聞いてるんでしょうが………。ちっとも話が進みませんね」
「泡坂の顔で、どこか変わってるところあんだろ」
「泡坂の顔で?」
「………………………」
「………………………………」
「………あの、あんまりきれいな顔でまじまじと見られると、さすがに殴りたくなるんですけど」
「やめろ。顔………顔か。変わってるところか………そうだな、眼の色とか」
「私は裸眼で1.5ある女ですよ! そんなわけないでしょうが! カラーコンタクトでも入れてるってんですか! それは何らかのコスプレですよ!」
「お前なあ、きれいになってるって俺言っただろうが」
「そ、そんなこと言われても、他に何かあるのかわかるわけないだろう!」
「眉」
「は?」
「だから、眉だよ、眉毛」
「眉毛がどうかしたか? ちゃんとあるが」
「そりゃあるでしょうよ………。なかったら色々な意味で大問題ですよ。そうじゃなくて、ほら、 眉毛がきれいになっていると思いませんか?」
「いや別に。きれいになってるのか?」
「お前なあ、いくら女の顔に興味がないからって、どこまで鈍いんだよ」
「そんなつもりじゃない! そうじゃなくて、別に今まで泡坂の眉毛なんて、気にしたことなかったから」
「いえ、もういいです。澤田さんに一般的な男子の感性を求めたのが間違いでした。池波さんが気づいてくれたんで、それでいいです」
「随分すっきりしたけど、元の形も残っててきれいだな。前より随分色味が明るくなったし」
「そこまで詳しく理解されるのも、ちょっと微妙です」
「お前一体なんなんだ」
「別に何でもねえよ。なんだ、泡坂、何処かエステでも行ったのか」
「そうなんです。今ちょっと話題の眉エステに行ってきました。色々面白かったですよ」
「眉エステとは、何をするところなんだ?」
「眉毛をエステするところです」
「眉毛をどうエステするんだ?」
「余分な毛を抜いたり、メイクしてくれたりすんだろ」
「眉を? わざわざ? なんでそんなことを」
「澤田さんだって、お母さんがお化粧している姿とか、見たことあるでしょう? 眉毛書いたり、そったりしているの。 というか、澤田さんは眉毛の手入れとか、したことないんですか?」
「するものなのか? 俺は眉毛なんて今まで一度もいじったことはないが」
「まあ。お前の眉毛きれいだしな。形整ってるし」
「というか、澤田さんは全ての顔かたちが整いすぎですよ。パーツに微塵の揺らぎもない。こうして 全てを持って生まれてくるやつがいるから、懸命に努力しても報われないはめになる奴もいる………。顔から下はただのもやしっ子なのに、 やっぱり人間顔ですね。クソッ」
「何で俺がそこまで言われなきゃならないんだ。ともかく、眉エステに行ったんだろう? それできれいになった なら良かったじゃないか」
「いえ、ですから、そういうリアクションが欲しいのではなく………」
「どんな感じだった? ぱっと見、そんなに毛を切ったりしてねえみたいだけど」
「そうですね、それでは事の顛末をお話いたしましょう」
「初めから話してくれればいいのに」
「お前、それ聞こえるように言うなよ。ぶっ飛ばされるぞ」
「俺は、泡坂が話す内容なら、どんなことでもちゃんと聞く」
「それも言うなよ。身もだえする人もいるから。泡坂はしねえけど」
「ええとですね、まず行ったのは『アナスタシア』ってとことです。結構有名みたいですね。私は所詮貧乏大学生ですから、 エステなんて行ったことなかったんですけど、どうせ行くならとりあえず、有名どころで間違いないかな、と思って。新しく新装開店した、 新宿高島屋に行って参りました」
「へえ、高島屋リニューアルしたのか」
「そうみたいですね。結構変わっててびっくりしました。私も詳しく調べていったわけではないので、見せ前の案内板を見たんですけど、 そこにアナスタシアの文字がない」
「駄目だろう、それ」
「多分、一階の化粧品フロアだとは思ったんですけどねえ。で、案内冊子をぱらぱらめくっていたら、唐突に頭上から声が」
「知り合いか?」
「いいえ、全然。中年のおじさんでした。一瞬、何事かと思ったんですけど、お店の人で、どの店を探しているのか、と、 声をかけてくれたんですよね。私、そんな人が立ってたことも気づかなかったし、声をかけられるとも思ってなかったので、仰天して固まりましたよ。 どのブランドをお探しですか、って言われたんですけど、その瞬間、アナスタシアの名前がぶっ飛びまして。超挙動不審でした」
「泡坂でも驚いて声が出ない、なんてことあるんだな」
「澤田さん、貴方私をなんだと思ってるんですか。まあ、そこで素人っぷりをアピールしつつ、冊子に 文字を見つけたので、半笑いしながら、降りていったわけですが、それがもう、凄いんだ」
「何が?」
「一面に広がる化粧品売り場が。もう、半端じゃないんですよ。まるまる1フロア化粧品売り場って、そうそうないですから。 大体、一階の半分くらい使って、それで大きい方じゃないでしょうか。それがもう、真っ白かつ、真っ透明な世界が、これでもか! と 広がってるもんですから、降りた途端にドン引きですよ」
「真っ透明ってなんだ?」
「俺、なんとなく想像つく」
「汚れが微塵もないというか、汚れている奴は入るな! くらい、迫力のある世界でしたね。普段化粧なんてしないもんですから、 あのフロア、完全に私場違いでしたよ。思わずびびって、もう一階降りてしまいました」
「何故」
「なんか気後れしたんですよ! 澤田さんだって、自分の下着を買いに行って、その途中でだだっ広い女性下着売り場が広がってたら、 びびるでしょうが!」
「俺は女性下着売り場など行かん!」
「その前に、男性下着と女性下着は一緒のフロアにはねえ」
「まあそれでですね、地下の食品売り場で時間を潰してから、そろそろいいかな、とまた舞い戻ったわけですが、 ぐるっとフロアを見回してみると、それらしきスペースがないんですよね。うろうろしているのもなんかかっこ悪くて、無駄に携帯をいじってみたり」
「案内板とかなかったのか?」
「よくよく探してみるとあったんですけどね。それも凄く目立たない感じに設置してあって。ああいうものは、ばーんとでっかく、 目立つように置いてナンボだと思うんですけどね」
「それは不便だな」
「お前なら、五秒で迷子だな」
「その前に、澤田さんなら新宿駅から高島屋までたどり着けるかどうか。まあ、そんなことは置いておいてですね、 案内板で無事に発見したので、到着したわけです。思っていたよりもずっと小さくて、本当に1スペースっていう感じでした。 受付にお姉さんがいましたんで、そこで名前と予約時間を告げたら、別のお姉さんが出てきて、奥に案内されて、延々説明を受けながら、 同意書なんかにサインするわけです」
「人、いっぱいいたか?」
「それが、結構いたんですよ。施術してもらえるカーテンでしきられたスペースが、4個くらいあるのかな。それは殆ど埋まってましたし、 私のほかにも順番を待ってる人もいましたし。その待っている人も、これ以上何処をいじるのだというくらい、きれいにメイクしている人で、 別な意味で何故だ、とか思いましたけど」
「同意書、というと結構大げさな感じがするが」
「でも、エステとかだと大体書くみたいですよ。やっぱり肌の赤みとか、皮膚の弱い人とか、色々いるでしょうから。 眉周りのエステなので、その質問が殆どでしたね。アトピーはあるかとか、塗り薬は使っているか、とか」
「お前、アトピーあるだろ」
「ありますけど、それにびびってたら生きられませんよ、アトピー持ちは。やろうと思ったことはやらねば、 人生損します」
「たくましいな」
「本当にな」
「まあ、そんなこんなで、個室に案内されて、お姉さんが色々説明してくれて、施術開始になります。ただそのお姉さんがねえ………」
「なんだ?」
「常に床に両膝ついて話すんですよ。こっちよりも目線を下にして話している、っていうのはわかるんですけど、 そこまでへりくだる必要ないというか、却って膝とか汚いだろうとか、色々思うところはありましたねえ」
「慇懃無礼、というやつだな」
「別にお姉さんが不愉快だったとか、そんなことはないんですけど、接客業として基本レベルに達していれば、それこそ、 過度な気遣いは無用だと思うんですけど。まあ、それはそれとして、美容院のシャンプーのときみたいに、椅子を倒して寝るわけです。 で、いよいよ眉毛の説明ですね。さて、澤田さん、ボールペンありますか?」
「? ああ」
「ありがとうございます。で、そこに横になってください」
「? こうか?」
「ありがとうございます。じゃあ、池波さん、澤田さん押さえつけてください」
「おう」
「ちょっと待て! なんだ、俺は何をさせられるんだ!?」
「じっとしててくださいよ、説明できないじゃないですか」
「だからって、何で俺なんだ! 池波の眉毛でやればいいだろう!」
「俺じゃ駄目だろ」
「何故!」
「リアクションが面白くないから」
「どんな理由だ!」
「まあいいじゃないですか。滅多にない経験ということでひとつ」
「何がひとつだ! おい、池波お前も離せ!」
「すぐ終わるだろうから、じっとしてろよ。泡坂が、油性ペンじゃなく、ボールペンを持ち出したところに、 気づきにくい優しさを感じようぜ」
「そんな配慮の前に、俺を離せ!」
「じゃあ、説明しますね。お姉さんがやったようにはできませんけど、ざっと。大体全部覚え切れているわけないし。 まずですね、こう自分の小鼻のところにこう、軸をあてて真っ直ぐに眉に伸ばしたあたりが、眉頭の終点になります。つまり、それより内側が、 無駄な毛になるわけですね。だからこう、ちょっとしるしを右と左につけまして、この空間に生えている毛は処理します………って、 ないけど、処理する毛」
「その残念そうな顔やめろ」
「次は、その小鼻のところから、顔の側面に向かって斜めに軸を当てて、眼の横を通ってたどり着いたあたりが、 眉尻になります。これも眉頭と同じではみだしているのが無駄な毛なわけですね」
「やっぱりねえけどな、無駄な毛」
「段々馬鹿馬鹿しくなってきましたけど、進めます。で、この眉尻を少し上にあげると、ちょっときりとした印象になって、 下に下げると優しい感じになるんですって。どちらにしますか? と聞かれたんで、よくわからないのでいいようにしてください、って伝えたら、
「やさしいお顔立ちをしていらっしゃるので、眉毛も優しい感じに」
と返されました。生まれて初めてですよ、優しい顔立ちなんて言われたの」
「物は言い様だな」
「さあ、次行きますよ! で、次は本人の骨格に合わせたステンシルを用意して、それを当てて、 塗ります! そのステンシルの内側をとにかく全部塗るんです。これはあくまで目安なので、その色が残るわけじゃないんです」
「この塗りつぶした部分が眉毛のベースで、それ以外の無駄な毛を処理する、ってことだな」
「そうですね。この時点で鏡を見せてもらったんですけど、まあびっくりしましたよ。ゴルゴ13かと思いました。 焼き海苔がのっかってるみたいで。そう、今の澤田さんのように」
「………お前………ボールペンで俺の眉毛塗ったな………」
「骨格の話とかも面白くてですね。例えば私だと、この眉の上のなだらかなラインがありますよね。この骨格が、 左の方がなだらかで、右の方がちょっといかつい感じなんですって。眉の形なんて左右違ってて当然ですから、これもどっちに合わせるか、っていう 話になるんですよね。これもまあ、お姉さんのお勧めに従って優しい感じに合わせることになったんですけど、澤田さん何か言いました?」
「何も言ってない」
「でもそうなると、右側の眉、ちょっと処理しないと駄目だろ。上の方も」
「そうなんです。普通眉のメイクって、眉上部は基本的に処理しないんですけど、ここでほんのちょっとだけ、右の眉の上だけを処理することになるんですよね。 この量とかは、多分選んだ眉の太さとかで違ってくると思うんですが。私は髪の毛も多いですし、眉の量も多かったですから、はみ出した部分結構処理したのかな。 で、ともかく抜く部分がわかったので、これからワックス抜きに入ります」
「痛みはどんなだった?」
「それが全然痛くなかったです。痛みに強い体質ではありますけど。ちょっと熱いかな、くらいのワックスを塗られて、びし、っと お姉さんが紙を当てて抜いていくんですが。まあ最もこっちはずっと眼を瞑ってるんで、何をしているのかは厳密には分からないんですけどね。 お姉さんの話だと、痛くて涙ぐむ人もいるらしいんですけど、そんなことは全くありませんでした。で、その後ワックスで抜け切らないところとか、細部を 毛抜きで処理してくれるんですけど、そっちのほうがよっぽど痛いです」
「そういうのは、俺にはよくわからないな」
「男は基本的に、自分の毛を抜く機会なんてそうそうないからなあ。スネ毛とか抜く奴もいるらしいけど」
「そうですね。強いて言えば、そり残したひげとか、鼻毛とかですか」
「お前、俺をなんだと思ってるんだ」
「で、きれいに抜いてもらったら、少しの間アイシングします。私アトピーありますけど、ワックス使用後も、全然肌は赤くなりませんでしたし、 痛くもなりませんでしたよ。その辺は、お姉さんが色々気を使ってくれたみたいでしたが。アイシングが終わったら、いよいよメイクですね。これもちゃんと お姉さんに希望すれば、最初から最後までちゃんと手鏡を使って過程を見せてくれます。でもですね、きれいにワックスで毛を抜くと、 この時点でかなりきれいなんですよ。毛が薄い人じゃなければ、これで充分なんじゃないかな、ってくらい。
メイクですが、まずブラシでパウダーをのせます。このとき、眉頭を薄くするのがポイントらしいです。ブラシを上手く使って、眉が抜けているところを埋めたり、 ブラシで眉の流れにそって書くようにしたりとか。で、仕上げはペンシルでしたけど、これは殆ど使わなかったですね。私は毛が濃かったですから」
「明るい色になったのは、なんか理由でもあるのか?」
「私も、元の眉毛が黒いですし、それに合わせるのかと思ったら、そうじゃないらしいんですね。基本的に眉の色が濃ければ、 それだけ印象が強くなりますし、私の場合髪の毛を染めていて明るい色味ですから、それに合わせるらしいです。私はパウダーは一番明るいので、 ペンシルは二番目に明るい奴でした。で、マスカラを利用して眉毛そのものの色をちょっと明るくして、何だかよくわからないんですけど、 透明なジェルみたいなものをつけて、ここでやっとはさみなんですよね」
「へえ。それまで眉毛切らないのか」
「そうなんですよ。他はわかりませんけど、ここは元の眉毛を最大限に利用する、がコンセプトらしくて、眉毛殆ど切りませんでした。 本当に最後の最後にほんのちょっと切るだけで。これはびっくりしましたね。私普段、庭の芝刈りのように、ざくざく切ってたんですけど、 そうしなくてもきれいになるってことがよくわかりました。で、最後の仕上げでコンシーラーを眉の上と、下に塗って、手で馴染ませておしまい。 正味一時間くらいでしたね。初回ですから」
「凄く自然な感じだから、いいんじゃねえの。何かしつこく勧められたりしなかったか? エステってよくそういうの聞くだろ」
「最後に、使った道具の説明っていうのがありましたね。別に感じ悪くなかったですよ。ただ私は、初めから買う気満々 だったんで、パウダーと筆とステンシルとコンシーラー買いました。ペンシルは今使ってるのがあるんで。パウダーとかじゃなくて、 いい筆って、なんていうか安物と明らかに違って気持ちいいんですよねえ。その分、筆が一番高くてびっくりでしたけど、 いいんだ、これもう、一生使ってやるから」
「きれいになったけど、頻繁に行かないとやっぱ駄目なんかね」
「それがそうじゃないらしいんですよね。抜いた毛がボーボーに生え揃うまで、40日くらいかかるらしいんですよ。 だから次は、12月の頭くらいに行けばいいらしいです。それだけ間を空けていいのなら、ちょっとまた次も来てきれいにしてもらおうかな、って 思いますよね。それまでは一度きれいにしてもらった下地を元に、自分でちょっと手入れすればいいわけですから」
「全体的に満足だったんだろ? 仕上がりとか」
「そうですね。私にみたいに普段化粧しなくて、詳しくない人間にとっては、凄く勉強になりましたし、眉って 一番難しくて、一番見た目ではっきりとわかる部分なんで、やってもらってよかったと思います。勿論、化粧慣れして眉毛も完璧に自分でできる 人にとっては、今更な情報かもしれませんけど、そういう人は初めからこの手のエステには行かないでしょうし」
「いいんじゃねえの。何に金かけるかは、人それぞれだし。な、澤田」
「お前ら、途中から俺の存在どうでも良くなっただろう」
「仕方がないじゃないですか。実際毛を抜くわけにはいかないし」
「抜かれてたまるか! もう離せ、起きる」
「まあ、こういう努力の結晶でメイクは成り立ってるわけですよ。勉強にはなりましたけど、この手のことに時間をかけなきゃいけない 時点で女は面倒くさいです」
「まあなあ。男はここまで力入れないだろうしなあ」
「ちょっと、コンビニ行ってくる。何か買ってくるものあるか?」
「いえ、別に」
「俺もねえな。おい、澤………」
「そうか」
「行っちゃいましたけど、池波さん何か言いかけてませんでした?」
「いや、あいつ、ボールペン眉毛のまま出てったと思って」
「澤田さーん! 待て、待て、ちょっと待てコラー!」
あまりにもわかりやすいはまり具合。
いやあ、『天』は危うくブックオフのダンボール行き(酷い)になるところでしたが、さすが不死鳥のように蘇りましたよ。
右から、『天』『アカギ』『銀と金』です。
何でここまでして『カイジ』がないのかというと、古本でまだ出てないからね。というのは冗談で、どうもカイジのルックスに惚れる自信がないからです(そんな理由で………)。
作品は男臭あふれているけど、こっちが望んでいるものは男どころの騒ぎじゃないという歪んだ読者です。
銀と金の文庫の下の方にあるのは、送料無料のあわせ技………ではなく、御宿かわせみの一巻と、山本周五郎の文庫二冊。
御宿かわせみはわかりませんが、やはり時代小説の中で山本周五郎の読みやすさは段違いだと思っております。
さあ、これから古本でなかった銀と金の7巻のみ密林に特攻しようと思っております。
「この扉をお開けください………頭取………!」
この頃の絵柄が一番シャープで好みです。ぱらぱらとめくった鷲巣戦最後のほうなんて、絵だけで笑えたよ。
水瀬様のところで、迷宮組曲の紹介を見て、猛然と小学生の頃の記憶が蘇りました。
その頃、友人宅でプレイし、クリアの仕方すらわからなかったカセットと言えばこれ。
あまりに同じことばかり繰り返したため(つまり、クリアできない)音楽だけはこびりつくように印象に残っております。
あの頃のファミコンカセットで、まともにクリアできたのって、さんまの名探偵くらいだよ。
ご存知MAD紹介。
年齢別EDがあるのが、わかっていらっしゃる! という感じです。
これだとあれですか、詩織にあたるポジションが壮年アカギという感じなんでしょうか。鷲巣様は案外ころっと落ちそうだしなあ(どういう発想)。
好みで言うと浦部さんも勿論大好きなんですが、イベントどれも大変そうだし。逆に市川さんはデート含めてスマートそうな気がします。いいやするね。
学校が違和感のコメントに死ぬほど笑った。
確かにあの連中すべてが集まっている学校って、カオス以外の何ものでもないよな!
個人的には本家GSに勝るとも劣らない猛者たちを落とせることを約束します。選択の幅という点においてはこちらのほうが遙かに上だ!
信じられないクオリティ。そして、一瞬だけ覗く天、アカギに抜群のセンスを見た。
究極のドSにはアリプロがよく似合う。
ちなみに私は、アカギと市川さんと偽アカギくらいの足ならいけます(何が!?)。
ウラタロスとアカギの共通点ってなんでしょうね。エロいことか。(わかってるんじゃないか)
私は組曲に歌がついていると、なんとなくしょっぱい気持ちになるので、歌詞だけのほうが好みです。
しかし、鈴木さんには笑った。
ちなみに私は、アカギの中でダメギが一番可愛いと信じて疑わない人間です。これだけ可愛いのに! これだけ魅力的なのに、あっさり使い捨てされるのがダメギイズム。実際アニメは作画の妙と声の素人くささ(笑)もあいまって、本気で惚れそうでした。ざわめもには勿論出演しますよね?
確かにダメギは報われないところが可愛いんですが、それでも、結構ガタイがよくて結構普通にハンサムなあの作画で男前で報われるダメギを見たいと思ってはいけませんか。
私がアカギを知ったのはアニメからで、他の作品はまったく知らないのですが、どうしてこう、燃え上がるタイミングが遅い。
今まで特別探したことのなかった、天、アカギ、銀と金サイトをしらみつぶしに見てしまいました。
結論としては、福本作品のファンサイトはレベルが高い。
イラストとか、漫画とか(基本的にSSは読まない。というか、読まなくなりました)どの作品も非常に高レベルで魂が抜けました。
オンリーとか、行きたかった………! 土日休みでない仕事をしているとこれだから………!(血涙)
やっぱり絵が描けるといいですね。
絵が上手い人は素晴らしいですね。
絵が上手い人がカッコイイイラストだけでなく、センスのいいギャグ漫画とか描いているのを見ると、羨望の眼差し以外向けられませんね。
確かに老アカギの色っぽさは筆舌につくしがたいですね。
ちなみに私は、一方的にアカギが誰も彼もに自分勝手な好意を押し付けている図が好きです(聞いてないよ!)。
その頃、友人宅でプレイし、クリアの仕方すらわからなかったカセットと言えばこれ。
あまりに同じことばかり繰り返したため(つまり、クリアできない)音楽だけはこびりつくように印象に残っております。
あの頃のファミコンカセットで、まともにクリアできたのって、さんまの名探偵くらいだよ。
ご存知MAD紹介。
年齢別EDがあるのが、わかっていらっしゃる! という感じです。
これだとあれですか、詩織にあたるポジションが壮年アカギという感じなんでしょうか。鷲巣様は案外ころっと落ちそうだしなあ(どういう発想)。
好みで言うと浦部さんも勿論大好きなんですが、イベントどれも大変そうだし。逆に市川さんはデート含めてスマートそうな気がします。いいやするね。
学校が違和感のコメントに死ぬほど笑った。
確かにあの連中すべてが集まっている学校って、カオス以外の何ものでもないよな!
個人的には本家GSに勝るとも劣らない猛者たちを落とせることを約束します。選択の幅という点においてはこちらのほうが遙かに上だ!
信じられないクオリティ。そして、一瞬だけ覗く天、アカギに抜群のセンスを見た。
究極のドSにはアリプロがよく似合う。
ちなみに私は、アカギと市川さんと偽アカギくらいの足ならいけます(何が!?)。
ウラタロスとアカギの共通点ってなんでしょうね。エロいことか。(わかってるんじゃないか)
私は組曲に歌がついていると、なんとなくしょっぱい気持ちになるので、歌詞だけのほうが好みです。
しかし、鈴木さんには笑った。
ちなみに私は、アカギの中でダメギが一番可愛いと信じて疑わない人間です。これだけ可愛いのに! これだけ魅力的なのに、あっさり使い捨てされるのがダメギイズム。実際アニメは作画の妙と声の素人くささ(笑)もあいまって、本気で惚れそうでした。ざわめもには勿論出演しますよね?
確かにダメギは報われないところが可愛いんですが、それでも、結構ガタイがよくて結構普通にハンサムなあの作画で男前で報われるダメギを見たいと思ってはいけませんか。
私がアカギを知ったのはアニメからで、他の作品はまったく知らないのですが、どうしてこう、燃え上がるタイミングが遅い。
今まで特別探したことのなかった、天、アカギ、銀と金サイトをしらみつぶしに見てしまいました。
結論としては、福本作品のファンサイトはレベルが高い。
イラストとか、漫画とか(基本的にSSは読まない。というか、読まなくなりました)どの作品も非常に高レベルで魂が抜けました。
オンリーとか、行きたかった………! 土日休みでない仕事をしているとこれだから………!(血涙)
やっぱり絵が描けるといいですね。
絵が上手い人は素晴らしいですね。
絵が上手い人がカッコイイイラストだけでなく、センスのいいギャグ漫画とか描いているのを見ると、羨望の眼差し以外向けられませんね。
確かに老アカギの色っぽさは筆舌につくしがたいですね。
ちなみに私は、一方的にアカギが誰も彼もに自分勝手な好意を押し付けている図が好きです(聞いてないよ!)。