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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『チェンジリング』

現在放映中ですし、非常にネタバレ色が強いので、改めて警告します。
ネタバレしてもしなくても、この作品のテーマは揺るがないと思いますが、自己責任にて閲覧ください。特に反転もしません。















まさに、凶悪でした。巨悪ではなく、最も卑劣でまがまがしい犯罪。
CFだと、行方不明になった子供。帰ってきた時は別人だった。その謎とは、みたいな表現の仕方ですが。全然違います。
これは、ミステリーでもなければ、サスペンスでもありません。
行方不明になった子供と、戻ってきた息子は、何の関係もありません。
これは、謎ではなく、警察側のただのミス隠しなのです。
子供が行方不明になった。
それらしき子供が見つかった。
引き合わせたら、違う人物だった。
その失態を隠すために、警察は、母親を問い詰め、さいなめ、侮辱し、人格を否定し、精神病院に送り込む。
恐ろしいことに、そういう話なのです。
反吐が出るほど、どうにもならない話なのです。
実際、行方不明になった少年が、巻き込まれてしまった事件そのものは、ちゃんと『事件』として片付くのですが、だからといって、息子は勿論帰ってこないし、決着だって、
「もう、この事件はこれで終わりにしたいのだ。生きているとなれば、また探さなければならない。だから、死んでいるのならばそれでいいだろう。それで、この事件は終わりだ」
と、警察のトップがぬけぬけと言ってしまうんですよ。
これはもう、胸糞が悪いどころの話ではありません。

息子が行方不明になった。当然、母親は狼狽します。正気を保てというのも無理な話でしょう。ですが、明らかに違うと母親は連れてこられた子供を見て思い、学校の教師も宣言し、歯医者までもが歯の特徴という確固たる証拠を見つけているのに、それなのに、警察は母親の言うことを、嘘だという。

「貴方はそうやって警察を馬鹿にして、楽しいのですか。捜査の邪魔をしたいのですか」

実際、母親一人で息子を探し出すことはできません。
どうあがいても、警察に頼らざるをえないのです。
その警察が信用ならない。信用ならないのはわかっている。だが、頭を下げるしかない。

「あの子は息子ではありません。探してください」

それに対する答えが、「精一杯やっていますが見つけられません」なら、まだましです。
だがもう、息子は見つかった。捜査はしない。
そう断じている警察に、一番不信感を抱くのは母親なのに、それでも涙を流して懇願するしかない。「お願いです」と。

母親が違う、と訴える時の警察の受け答えも絶妙です。

「貴方は混乱している」
「そんな言い方は子供の自尊心を傷つける」
「貴方は子供がいない間自由な生活を営んでいた。だから、帰ってきた途端邪魔になったのだろう」
「貴方は、母親としての責務を放棄し、帰ってきた息子に悪影響を与えている。子供と引き離す必要がある」

これですよ。
これ、本気で言ってるんですよ。
仮にも法の番人が、自分も家庭を持って子供もいるような年齢の男が、そう言ってるんですよ。
母親が違えば、医者まで持ち出して、柱の傷を指して身長が違うと訴える母親に「背骨が縮んだ。医学的にはよくあること」って言うんですよ。

信じられません。もう、あまりに腐っていて言葉も出ません。
精神病院に無理やり押し込められた後、出される書類は「息子が別人ではないと認める」というものなんですよ。それにサインをすればすぐに出られると。サインをしないのであれば、貴方はおかしいと断ぜられる。

手足もぎ取られて、意思まで陵辱される勢いです。

結果、「事件」に関わった人物が罪を告白し、結果としてその犯人は捕まり、刑に処されます。
だが、この事件で最も醜悪なのは、やはり警察でしょう。
この映画は、ちゃんと警察だけが悪いのではないという描き方をしているので、実際に犯罪を犯した犯人も、しっかりと報いを受けます。それこそ、法の裁きを。
犯人ですら法の裁きを受けるのに、肝心の警察が法の裁きを受けるのが、あまりに遅すぎた。

「問題は、その間に、助けられたかもしれない少年が死んだということです」

もう、恐ろしい以外の何物でもない物語でした。
あまりに警察の、もはや洗脳と思える言葉運びに、自分が当事者だったら、本気で「息子かもしれない。あれだけ言うのなら息子だろう。そうだこの子は息子なのだ」と納得してしまうかもしれません。
現実的に、他人が提示してくれた証拠がなかったら、別の意味で正気を保っていられるか自信がありません。

この映画、R-12指定なんですが、実際流血シーンはありません。ただ、見えない場面で行われているであろう行為を示す音が、異常に怖いです。
私の隣は、私よりも年上であろう女性だったんですが(多分、ご家庭があるんじゃないかと)もう、そのシーンでは顔を覆って見ていられない様子でした。

最後は、事件には決着がつき、母親はあるものを手に入れます。
ですが、決してハッピーエンドではありません。
それでも彼女は、胸を張って進める道を自分で選ぶことができた。
陰惨な映画でした。
ちょっとお勧めするのはどうかな、と思いますが、音楽や衣装、メイク含めて非常に良い映画でした。

特に、OPやEDで使用されるピアノ曲が静かな調べで凄く良かったです。
アンジェリーナ・ジョリーは母親役を熱演。正直、メイクがその時代のメイクなので、言われなきゃわからなかった。
彼女に味方する、ジョン・マルコビッチも好演。弁護士役の人も恰幅が良くて、声に特徴があってかっこよかった。
刑事役の、マイケル・ケリーもいかにもたたき上げの刑事で、熱血ではなく、当たり前のことを当たり前に調査する姿勢が、凄く好印象でした。
敵役である、ジェフリー・ドノヴァンは顔だけ見ればすんごくかっこいいんだけど、もう、なんか、出てくるたびに殴りたい衝動をこらえるのを必死でした。

最後、事件に巻き込まれた「息子」が戻ってきます。
五年も何故黙っていたのかと問われ、こう答えます。
「あいつが、僕や家族を殺しに来るのが怖かった。僕が逃げてしまったことで、黙っていることで、他の誰かが殺されてしまったのかもしれないと思うと、怖くて言い出せなかった」
こう、子供に言わせてしまう犯罪が、実際にあったのかと思うともう、気分が底辺まで滅入る………。

クリント・イーストウッドは本当に、役者としても監督としても、完全完璧に成功しましたね。もう80歳だっていうのに。凄い話です。
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