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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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「なめくじ長屋捕物さわぎ シリーズ」 都筑道夫

お勧めいただいた時代小説。
今までわりと、「御宿かわせみ」や山本周五郎、藤沢周平のどちらかといえば裕福な世界の時代小説(侍は実質貧困にあえいでいたとしても)を読んでいたので、このシリーズ非常に毛色が違って面白かったです。
落語から題材を引っ張ってきたり、既存の小説から引っ張ってきたりという作品も多いので、それらの知識がある方はより楽しめるのではないかと。
まあ、とにかくなめくじ長屋という、底辺も底辺の人々が酷い(苦笑)。
基本的に純粋に曲芸や技で食べているのなんか数えるほど、であとは要するに物貰いですから。それにしても色々なもののもらい方があるものだなあ、と感心しきり、ですが、それぞれに持っているものが貧乏人の意地や、差別されている側の意地、でしかないので正義感とか清々しさとは全く無縁でした。
その上、話が下世話であったり、残虐性が非常に高い(猟奇殺人的描写が非常に多い)ので、面白いんだけどかなり人を選ぶような内容だと思います。
下町(と呼んでいいのか迷うほどのどうしようもない住まいですが)の描写や、いわゆる足を踏み入れてはいけない世界の描写などは非常に魅力的ですが、基本的にそこで暮らしている人は、魅力的ではあるかもしれないが誰も彼もまともじゃない(それが普通)なので、ちょっと飽食の気味はあるかもしれませんね。

砂絵師という地面に砂を書いてあがりをもらう、センセーという正体不明の武士くずれが基本的に探偵役で、他の長屋の面々が手となり、足となり、捜査をしていくというのが主な流れ。基本的には、舞台が江戸であるだけで、純然たる推理小説です。
現場で証拠を見つけ、動機を探り、犯人を当てる。
まあ他の推理小説と違うのは、犯人を裁く権利も、裁く気も、センセー側には殆どないので、どうやったらそれに関わった人間たちからお礼をもらえるか、というのがオチになります。
犯人は簡単にめぼしが着いても、そこからどうやって金を搾り取ろうかな、という工作がオチになる、っていうのは中々面白いですね。
これも好き嫌いありそうですが、センセーたちはそれを生業にしていて、そればかりが繰り返されるので、読んでいる側が慣れてしまう感じです。

犯罪が起こる理由は大体理不尽で、そして侍が絡んできたりすると、絶対に被害者が救われる結末にはなりません。
その上で、センセーが何処で妥協するか、裁きはせずとも、どうやって相手の人生を台無しにしてやるか、というある意味復讐劇だったりするのも、ちょっと毛色が違っていて面白いです。

基本的に短編なので、どれもさらっと読めますし、全く綺麗ではない文化的名ものも楽しめるので、個人的にはお勧め。
でもわりと極端な描かれ方をしているので、これだけ読むと、気分が滅入るかもしれませんが…。

センセーは出来すぎな人なので論外としても、キャラクターの個性が立っていても、個人的には誰も好きになれん、という印象でした(苦笑)
まあ、それも仕方がないかな、と。基本的にはどうしようもない普通の生活が営めない人たちの話なので。別に嫌いじゃないが、関わりたくもない人たちの物語、という感じです。




「だましゑ歌麿 シリーズ」 高橋克彦

これもお勧めいただいた作品。テレビドラマになっているのを知って、公式サイトを覗いてみたんですが、歌麿が主人公になっていてびっくり。
小説だと、同心の千一さんが主人公なんですが…。どうやって歌麿主人公にすんだろう。

小説はちょっと堅い印象、というか作者が描きたかったのは、作者が知識として持っている江戸文化や、実在の人物であって、それ以外のいわば「フィクション登場人物」が、とてもキャラクター的…というか、なんていうかなあ、ある意味、江戸時代という世界におけるライトノベルという印象が強い作品でした。

世界観とか、知識に裏づけされた文化描写は「堅い」んだけど、キャラクター同士の掛け合いになると、一気にキャラ物になるというか。
これ、良し悪しの問題ではなく、何に重きを置いているかとか、作者が描きたいものに対しての比重だと思うんですよね。

例えば、「御宿かわせみ」(こればかり引き合いに出して申し訳ないですが)だと、その比重が凄く均一な印象を受けるんですよね。
様々な登場人物が出てくるんだけど、どれも何か特化して個性があるわけではない。個性はあるんだけど、あくまで江戸に生きている一人の人物にスポットを当てているだけで、そこに、ある意味「とっつきやすい奇抜さ」というものがない。等身大と申しましょうか。

この歌麿シリーズの場合は、その比重が、文化的なものを描きたいときは、そちらが10、キャラクターが出てくればそちらが10、ってどちらも和合しない感じなんですよね。

そのキャラクターの個性の描き方が、別段不愉快ではないのでどちらも楽しめるというか、私の想像する、まずキャラクターありきのライトノベル、っていう印象を強く受けました。
文化的なものは漠然と知識として「なるほど」と納得できて、その「納得できた感覚」が頭に残るんですが、キャラクター描写はそれらの文化省いて直接受け止められる部分なので、多分頭の中に印象として残りやすいと思うんですよね。それゆえに、キャラ物の印象が強くなると申しましょうか。

「だましゑ歌麿」は長い割にはさらっと読めます。個人的には、その時代の浮世絵や、挿絵、版木などの描写が非常に楽しめました。
推理ものとしては、ごく普通。誰が怪しくて誰が犯人であるか、なんてものは読んでいてすぐ予想がつくでしょうし。
ただまあ、なんだろ、誰も彼もがいい人、みたいな描写になってしまったので逆にオチとして興ざめっていうのはありましたが…。
特に、テレビドラマでも肝になっている、歌麿の奥さんを殺した犯人までもがいいもの、みたいな描写になると「何を言ってるんだ」と、ごく庶民である私は目が平らになりました(苦笑)。

他にも何作か、スピンオフというか短編集がありまして、そちらのほうがさらっと読めて面白かったです。
千一さんの奥さんの話とか、後の葛飾北斎の話とか。
個人的にはこの作者さんは、やっぱり人物描写ではなく文化描写に優れていると思うので、逆に変に長い小説に詰め込むだけ詰め込みました、という内容よりも、短い短編で、知識を小出しにする(と書くとアレですが)ような小説の方が読んでいて、こちらもその知識に素直に感銘できるので、よろしいんじゃないかな、と思いました。
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