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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『スラムドッグ$ミリオネア』

想像していたのと全く違いました(これなんだか最近よく言ってるなあ)。
スラム出身の貧乏人が、何故高額賞金をかけたクイズショーでいい成績を残せたのか。
それは、八百長か、それとも天才か、ただの運か。
そういう「謎」的なものを楽しむ映画なのかと思っていましたし、主人公がスラム出身の少年と言うだけで、その背後に悲惨で陰惨で暗いものばかりが横たわっているのかと身構えながらの鑑賞だったのですが、意外や意外、純愛の話でした。

主人公ジャマールとその兄サリーム。
毎日食うや食わずの生活をし、そこで出会う少女ラティカー。
母親は暴徒に殺され、親のいない三人は人買いにさらわれそこで過ごす。
歌を歌い、上手く歌えれば溶けた鉛で目を焼かれ、盲目にさせられる。目の見えない子供は、目の見える子供より「稼げる」という理由で。
サリームはジャマールを連れてその場を逃れ、ラティカーは突き放され二人と一人はそこで別れた。
ジャマールとサリームは成長し、そこで同じように人買いに囲われたままのラティカーを見つける。
ラティカーを救うため、自分の身をたてるため、サリームは人買いを撃ち殺した。
そこからまたも分かたれる三人の道。
ジャマールはテレフォンセンターのお茶くみとして。
サリームは相対する組織の殺し屋として。
ラティカーはその組織の情婦として。

出会い、そして分かれるジャマールとラティカー。
連れ戻され、引き離されるラティカーに届けば、と、それだけのためにジャマールは全国民を熱狂させる『クイズ$ミリオネア』に出演する。
無学なジャマールが、最後の問題まで進んだことに疑いをかけた司会者は、警察にその身を引き渡す。
拷問を受けたジャマールが、訥々と語る「真実」とは。
分かれた三人の進む道は。

実際、明るいわけではないのです。
目をつぶされる子供。宗教争いに巻き込まれ殴り殺された母親。家も金も食べ物も何もなく、物を盗み食いつなぐ毎日。
けれど、ジャマールたちにとってそれは「当たり前」のことであり、盗まねば食えないし、食わねば死ぬしかない。
だからそれに善悪などないし、誰もそれの行為を裁かない。
ジャマールたちは常に懸命に、生きるために「前向きに犯罪を犯している」ので、見ている側もその「陽」の面に引きずられて、むしろたくましい子供たちの生き様に入り込めるのです。

無論、だからこそ悲しいという面もあるのですが、その辺は主人公であるジャマール達の純粋さに救われているといいましょうか。
ラティカーが好きだ。好きだから救いたい。その気持ちにはいっぺんの揺らぎもなく、ジャマールはそのためだけに生きている。
サリームはある意味、ジャマールと正反対の立場で生きているのですが、それでも彼らは兄弟であり、その「愛情」は揺るがない。
ラティカーは一番現実を生きていて、ジャマールの絵空事にもサリームの斜に構えた目線にも付き合わないけれど、それでもジャマールは信じている。

信じられるものがあって、そのために生きている三人の生き様は、その周囲を取り巻くものがどれだけ暗くとも、明るい。
そんな話がハッピーエンドでなくて、なんだろうか。
過酷な生き方をしてきたからこそ、ジャマールには「クイズに答えられるれっきとした理由」がある。
それをはっきりと知った取調官は、ジャマールを開放し、最後の問題へ向かわせる。

三銃士、アトス、ポルトス、それでは最後の一人は?

ジャマールはその問いに答えることはできるのか。
答えられても、答えることができなくとも、ジャマールにとっては問題ではなく、問題なのはその「過程」とヒントのためにかけた電話の「相手」だった。

さわやかないい映画でした。
悲しいシーンが多くて、嬉しいシーンなどほんのちょっとなのですが、それでも三人の生き様がみずみずしく描かれていて、受ける印象はあくまでさわやかです。

観光客からお金をせしめたりとか、トイレの番をして金をもらったりとか、こちらではあまり見られない金の稼ぎ方や、文化的にも楽しめます。
個人的には、「アメリカのドル札に書いてある人物は?」という問いに際して、ジャマールが反芻する思い出が悲しかったです。
街中でであった盲目の歌い手。
渡したお札の匂いや、手触りで、歌い手は「知らないお金だ」という。
ジャマールがその金の説明をすると、目の見えぬ、かつては同じ場所で育てられた少年は、笑ってその人名を答えた。
「ジャマール、君は幸運だったね」
ジャマールが間違いなくたどるはずだった道をたどった少年と、ジャマールは別れ、そして二度と出会うことはなかった。

それぞれが選んだ生き方に、善悪もなにもなく、懸命だった人たちの物語でした。
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