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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『ラースと、その彼女』公式サイト

以前、自分にしか見えない等身大のウサギと共に生きる男性、『ハーヴェイ』(リンク先は雑感内感想)という映画を見たことがあり、今作もその延長かと思ったのですが、基本的に描くテーマが違っており、こちらの作品の方がよりリアルで「わかりやすかった」です。

ハーヴェイが、主人公の男性が曲がりなりにも真っ当な社会生活を送り、それなのに「この世にありえない存在」を見てしまうのに対し、ラースはガレージに半ば引きこもって暮らし、職場でも女性とのコミュニケーションは一切とれず、触れられると体に痛みが走るというところまで、現実的に症状が出ている状態です。おまけに、この世にないものではなく、現実的に自分でネットで注文してしまった、リアルドール(要するにダッチワイフ)を本当の女性だと思っている。自分にとって都合のいい面しか見ないし、聞こえないし、思い込んでいるので、当然「それは人形だ」という言葉はラースには「聞こえない」のです。
ハーヴェイの主人公は見えないものが見えてしまいますが、周囲がそれを見えないと言っていることは「知っている」ので、まだ現実的な接点がありますが、ラースは完全に現実世界から逃げ出してしまっていると言えます。

そんなイカれてしまった弟を見守り、狼狽する兄夫婦や、周囲の人間が話に関わってくるのですが、ここでも面白いのが主人公がラースではない、というところでしょうか。
周囲の人間は困惑しつつも、信じられないくらいラースや、その恋人ビアンカに対して優しく接します(このありえなさ具合はファンタジーだと思うのですが)。
ビアンカに服を着せ、入浴させ、教会に車椅子で連れてきて、髪の毛をカットしたり、自分の誕生日にカップルで招いたりと、ラースの異常性に付き合いつつも、関心がビアンカに移っていくのです。
病院でのボランティアや、接客業や、教会の委員会など、ビアンカはラースがいなくとも必要とされる存在に、次第になっていく。
それを見つめるラースは、次第に「自分のもの」ではなくなっていくビアンカに苛立ちを覚え、時にはけんかをします。
初期の頃にはけんかなどはありえないわけです。ビアンカは存在していますが、性格設定などは全部ラースが「自分にとって都合がいい」ように妄想したものであって、自分にとって都合のいいものが自分にはむかうわけがない。
プロポーズを断られた、としょげるラースに、改めて目を向ける医師。
自分にとっての最愛の彼女であり、自分を自分で愛しているラースが、そこで自分で自分を否定することに「目覚める」のを見て取れるわけです。
結局、ラースとビアンカの生活は終焉を向かえます。
ビアンカは言うまでもないですが、ただのリアルドールなので、その終焉も、終わり方も、すべてラースが自分自身の中で決着をつけていることなわけです。
それは、ビアンカという妄想と決別して、すぐ隣にいる会社の同僚の可愛い女の子に対して向けられる視線であり、「少し一緒に歩く?」という、ほんのささいなことですら言えなかったラースの、内的自立が成されたという結末になるわけですが。

起承転結というか、メリハリがついていて、リアルドールを彼女だと思い込む男という表題だけ抜き出すと「げっ」と思われるかもしれませんが、実際にはハーヴェイよもラースの心情の移り変わりがはっきりと描かれているし、明確な決着が用意されているので、非常に見やすい作品でした。
妄想の世界で生きるラースが、その妄想が「嘘」であるとは気づかないまま、その妄想を自分で無意識に否定する、結果やっと大人になるという話であり、ラースの異常性にも一応の背景がつけられているので(これは個人的にはあってもなくてもと思いますが)、なんていうか見る側にとって特異性がありつつも親切と申しましょうか。謎を放り投げているような作品ではないというか。

見終わった後、ラースが何故唐突にリアルドールを選んだのかそのきっかけが、隣の席で同僚がネットを見ていただけというのは少し弱いかな、とも思ったのですが、逆に「きっかけなんてそんなもんだ」という意味では凄くリアルなのでしょうね。
特に何があったわけではない。後で聞かれても覚えてすらいないようなちょっとしたきっかけですらない、ただ日常がはずみになってしまうというのは確かにあるし、物語の最初から最後までリアル志向だからこそ、ラースを取り巻く周囲の「ありえない優しさ」が際立つのかもしれません。

主人公ラースを含め、登場人物たちが全員ファニーフェイスで可愛いです。
兄嫁で出産を控えているカリンは、ラースに一番親身になって接していて、ラースとビアンカの決別の間接的な要因にも関わってくる魅力的な人物だし、医師のダグマー(女性)もこれが凄い豊かな金髪の知的な美人で!(幸せのレシピのオーナーさん?)

ハーヴェイと、こちらとどちらが好みかと問われると、毛色が違うので比べようがないと思いつつ、ハーヴェイのほうが個人的には好みでした。
なんていうかな、この作品はちょっと優しすぎるというか。
それが駄目というわけではなく、私は先に見たハーヴェイのどうしようもない不幸せ感の印象が強かったのかもしれません。結局、ラースが現実社会での回帰を果たしたのに対し、ハーヴェイでは「帰れなかった」わけですから。
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