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日々のつれづれ。ネタバレに過剰な配慮はしておりません。
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『レスラー』公式サイト

まあ、予想してしかるべきだったんですよね。知り合いが勧めてくる映画が、明るいわけがないということに…。
『アイアンマン2』で、中年デブ天才物理学者というあたらな境地(たまらない萌えでした)を開いた、ミッキー・ローク主演の映画です。
公開まで散々あったようなんですが、蓋を開けてみれば制作費の四倍稼いだという超名作。

しかし、これを人に勧めてどうすればいいのか私には分かりません。

レスラーは、互いを称えあい、敬いあう。
場末のリングに上がる時も、試合展開をそれぞれに考えて、それぞれ互いを思いやる。
ミッキー・ローク演じる、老いたプロレスラー・ランディ・ザ・ラムは常に優しく、誰に対してもとても紳士的です。
「よう、久しぶりだな」
「元気か? あの試合は最高だった」
「才能がある。頑張れよ」
かつての栄光を誇ったレスラーは、どんな立場になっても、同じレスラーである人間たちに対する優しさを忘れない。そこが場末であろうが、何であろうが関係ない。
痛みや肉体改造を耐えるために、薬づけになっても、週末は試合を行う。
ファンが臨む試合をやるために、テーピングにカミソリを仕込み、試合中にこっそりと流血の惨事を演じる。
血まみれの体を互いに抱えて、同じロッカールームで、たった今戦った相手と笑いあう。

「いい試合だった」

とにかく、懸命なレスラーたちの姿にただ涙。
悲惨な風景は何処にもなく、笑顔ばかり。
それでも、サイン会に集まれば、ランディ以外殆ど客は集まらず、かつての栄光すら消えたほかのレスラーは椅子に座ってうつむくばかり。その中には、車椅子生活を送っているものすらいた。
そんな悲しい生き様を見ても、ランディは、結局、レスラーであることをやめることはできなかった。

誰も悪い人などいなかった。意地悪をする人も、陰険な人も、そして、暴力的な人も誰もいない。
ランディも優しく、悲しい。
ヒロインである、子持ちの中年ストリッパー・キャシディに対して、侮辱した若い客に「レディに対して失礼だ。お前らの青臭い妻より、何倍もセクシーなんだ」と、静かに怒るシーンでも、全く暴力的な印象はありません。
ガタついた体を支え、長年のツケで心臓発作を起こし、二度と試合は出来ないと、スーパーでバイトをする日々。
孤独になってから、今まで見捨てていた娘との復縁を望むのは、確かに身勝手です。
娘さんからすると許せないのも無理ありません。
それでもランディは、プレゼントを選び、思い出の地を一緒に歩きます。
「俺は酷い男だ。当然の報いだ。でも、お前に嫌われたくない」
やっとの思いでこぎつけた娘との食事の約束を、キャシディとの諍いでヤケになり、ヤク中娘とのセックスですっぽかしてしまうのは、ただただランディに罪がある。
回復するかに思えた娘との絆は、あっけなく潰えて、二度と戻ることはなかった。

「もう二度と会わない」

誰が悪いのかと問われると自分しかない。
誰も悪い人などいなかった。
スーパーの惣菜売り場で、遂にランディは壊れた心臓を抱え、かつてのライバルとの再戦を決意する。

「俺にとっては、外の世界の方が辛いんだ」

そう微笑むランディに、キャシディは、「私がいるわ」と試合会場で訴えるも、ランディは音楽と共にリングに向かった。

「もう駄目とも言われた。だが、やめると決められるのは、ファンだけだ」

鳴り止まぬ歓声。もういいから、早く試合を終わらせろというリングの上の相手。
痛む心臓を抱えて、ランディはトップロープの上に立つ。
高々と突き上げられた両腕。がっしりと開かれた二の足。
ランディは自らの必殺技を放つために、真っ白なライトをバックに、高々と飛んだ。


悲惨とか、そういうのとはちょっと違うんですよ。
ランディは、ある意味自業自得なわけで、その生き方に物申したいわけじゃないんですよ。
ただ、当人たちの懸命な姿が、必死に生きようとしている姿が、誰一人手を抜いて人生を生きていない人たちの姿が、見ている側からすると、たまならく切なくて、苦しい。だから、涙が出る。人が一生懸命な姿は美しく、感動的で、そこには生の喜びがあるはずなのに、それがあるのに、どうしても悲しい。
この言いようのない悲しさが、本当に辛かったです。

誰一人意地悪な人がいないっていうか、悪役に当たる人がいないっていうのもまた…。
アルバイト先のスーパーの上司も、「もっと働きたい」というランディに対して、別に邪険にするわけでもなくちゃんと職を与えてますしね。彼は彼の立場で、ちゃんとランディを「使っている」わけです。ランディがレスラーであることとは関係のない部分で、この人はちゃんとランディに応えている。
悪役のレスラーたちは本当に互いに敬意を払って接しているんですよ。大先輩であるランディに敬意を払い、ランディもそれに答える。「大丈夫か」とねぎらえる。
ストリッパーであるキャシディも、子供を育てながら懸命に生きて、親身になってランディに答える。
娘のステファニーも、ランディの歩み寄りに答えようとする。

懸命に生きようとした、情けない人間。人を殺す人間も、悪意もそこには何処にもない。
それでも、誰も決して、他人から見る幸せな人生を送ることは出来なかった。そんな映画でした。


また、EDが泣けるんだこれが。ブルース・スプリングスティーンが脚本を読んで作った歌なのですが、珍しいことにEDロールと共に和訳が出ます。これ、多分DVDだけの仕様じゃなく、映画館でもそうだったんだと思うんですけどね。

一芸しか出来ない馬が 草原を駆け回るのを見たことがあるかい。あるなら、それが俺だったんだよ。
一本足の犬が必死に 通りを横切るのを見たことがあるかい。 あるなら、それが俺だよ。

癒してくれた人を追い払ってしまう。
安らげる家を飛び出してしまう。
今でもまだ信じられるのは、この折れた腕と傷痕だけ。

ランディー!!!
吐きそうになりました。(泣きすぎて)

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